2 大気環境の保全(地球規模の大気環境を除く)

(1)酸性雨及び黄砂
 酸性雨により、湖沼や河川の酸性化による魚類等への影響、土壌の酸性化による森林等への影響、建築物や文化財等への影響等、広範な影響が懸念されています。欧米においては、すでに湖沼の酸性化や森林の衰退等が報告されています。

降水中のpH分布図


 日本では、すでに被害が報告されている欧米とほぼ同程度の酸性雨が観測されていますが、生態系等への影響は現時点では明らかになっていません。一般に、酸性雨による影響は長い期間を経て現れると考えられているため、現在のような酸性雨が降り続ければ、将来、酸性雨による影響が顕在化する可能性があります。
 このため、東アジア地域における酸性雨の現状やその影響を解明するとともに、酸性雨問題に関する地域の協力体制を確立することを目的に、平成13年1月から東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)が本格稼働しています。
 日本では、酸性雨による影響の早期把握、将来の酸性雨の影響の予測を目的とした酸性雨長期モニタリングなどを実施しています。
 また、近年、中国、モンゴルからの黄砂の飛来が大規模化しており、中国、韓国、日本等でその対策が共通の関心事となっています。このため、日本国内の黄砂モニタリング体制の整備を実施したほか、中国、モンゴル、韓国及び日本、さらに国連環境計画(UNEP)等の国際機関が共同で、将来的に推進すべき効果的な黄砂対策についての調査研究を進めています。

(2)光化学オキシダント
 光化学オキシダントとは、工場・事業所や自動車から排出される窒素酸化物や揮発性有機化合物(VOC)を主体とする一次汚染物質が、太陽光線の照射を受けて光化学反応により二次的に生成されるオゾンなどの総称です。目やのどへの刺激や呼吸器へ影響を及ぼす光化学スモッグの原因となっており、光化学オキシダントは、依然として、全国ほとんどの地域で環境基準(1時間値で0.06ppm以下)を超えています。

光化学オキシダント濃度レベル毎の測定局数の推移(一般局と自排局の合計)(平成11年度~15年度)


 光化学オキシダント対策の一つとして、工場から排出されるVOCについては、平成16年5月に大気汚染防止法が改正され、排出濃度規制と、事業者の自主的な取組とを適切に組み合わせて、効果的な排出抑制を実施することとなりました。18年度中に、VOC排出事業者に対してVOCの排出施設の届出義務、排出基準の遵守義務等が課され、さらに事業者の自主的な取組が期待されます。自動車から排出されるVOCについては、大気汚染防止法に基づき排出ガス規制が実施されており、逐次強化されています。
 また、「大気汚染物質広域監視システム(愛称:そらまめ君)」により、都道府県などが測定している全国の大気環境データや光化学オキシダント注意報等発令情報をリアルタイムで収集し、インターネット等で公開しています。

(3)窒素酸化物
 窒素酸化物は、主に物の燃焼に伴って発生し、その主な発生源には工場等の固定発生源と自動車等の移動発生源があります。窒素酸化物は光化学オキシダント、浮遊粒子状物質、酸性雨の原因物質となるほか、二酸化窒素は高濃度で呼吸器を刺激し、好ましくない影響を及ぼすおそれがあります。
 二酸化窒素に係る環境基準達成状況は、平成15年度には一般環境大気測定局で99.9%、自動車排出ガス測定局で85.7%であり、前年度に比べやや改善しています。

二酸化窒素の環境基準達成状況の推移(平成11年度~15年度)


(4)浮遊粒子状物質(SPM)
 大気中に浮遊する粒径が10μm以下の浮遊粒子状物質は、工場等から排出されるばいじんやディーゼル自動車から排出されるディーゼル排気粒子、土壌の巻き上げ等の一次粒子と、窒素酸化物等のガス状物質が大気中で粒子状物質に変化する二次生成粒子からなります。微小なため大気中に長時間滞留し、肺や気管等に沈着して高濃度で呼吸器に悪影響を及ぼすおそれがあります。
 浮遊粒子状物質に係る環境基準達成状況は、平成15年度には前年度に比べ改善しています。

浮遊粒子状物質の環境基準達成状況の推移(平成11年度~15年度)


 また、近年健康影響との関係が懸念されている粒径2.5μm以下の微小粒子状物質やディーゼル排気粒子についての検討調査を進めています。

(5)有害大気汚染物質
 有害大気汚染物質対策については、低濃度ながら、多様な化学物質が大気中から検出されていることから、長期暴露による健康影響が懸念されています。ベンゼンについては、平成15年度は、424地点中の33地点(7.8%)で環境基準値を超過しました。
 大気汚染防止法に基づき、ベンゼン等の指定物質の抑制基準を設定し、排出抑制を図るとともに、事業者の排出抑制に係る自主管理の取組を促進しています。平成15年度の自主管理計画に基づく対象12物質の総排出量は、単純加算で11年度の約3.8万トンから15年度の約1.6万トンと、57%の削減率と大幅な減少となりました。

(6)騒音・振動、悪臭
 騒音の苦情件数は、ここ数年徐々に増加しており、平成15年度は15,928件でした。悪臭苦情の件数は、9年度以降、特に野外焼却に関する苦情が急増しており、ここ数年は増加傾向にあります。15年度の悪臭苦情件数は過去最高の24,587件でした。
 平成15年度の道路に面する地域における騒音に係る環境基準の達成状況は全国2,395千戸の住居等で、昼夜とも環境基準を達成したのは1,933千戸(80.7%)、このうち、幹線交通を担う道路に近接する空間1,016千戸で環境基準を達成したのは709千戸(69.8%)でした。14年度の航空機騒音に係る環境基準の達成状況は、71.4%でした。

交通騒音に関する環境基準の達成状況


 工場・事業場、自動車、航空機等の騒音・振動については、騒音規制法、振動規制法などに基づき、許容限度や環境基準などを定め、規制を実施しています。

(7)ヒートアイランド現象
 ヒートアイランド現象は、都市部の気温が郊外に比べて高くなる現象です。この現象により、夏季においては、熱帯夜の出現日数が増加していることに加え、冷房等による排熱が気温を上昇させることにより、さらなる冷房のためのエネルギー消費が生ずるという悪循環が発生しています。

東京地域の高温域の分布(1981年、1999年)


 平成16年3月に、人工排熱の低減、地表面被覆の改善、都市形態の改善、ライフスタイルの改善の4つを対策の柱とするヒートアイランド対策大綱を関係府省で取りまとめ、対策の推進を図りました。




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