第3節 京都議定書の問いかけ


1 条約の究極の目的に向けて

 条約は、「気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させること」を究極の目的としています。大気中の温室効果ガス濃度の安定化とは、大気中に排出される温室効果ガスの量と、海洋や陸上生態系によって吸収される量とが平衡することによって、大気中の温室効果ガスの濃度が一定の状態に保たれることをいいます。大気中の温室効果ガス濃度がどの程度の水準で安定化するかは、安定化するまでの温室効果ガスの累積の排出量によって決まります。今後、どの程度の温暖化がどの程度の確率で生じ、それによりどのような影響が生じるのかを科学的に評価し、いつまでにどれだけ削減するかを政策的に決定しなければなりません。
 温室効果ガス濃度の安定化水準に関しては、いまだ国際的な合意が形成されていませんが、IPCC第3次評価報告書の予測結果によると、温室効果ガス濃度の安定化のためには、今後、二酸化炭素排出量の大幅な削減(50~80%)が必要となります。

グラフ さまざまな安定化水準に対応する二酸化炭素排出量の変化



2 京都議定書の先へ

 大気中の温室効果ガス濃度の安定化のためには、京都議定書の第1約束期間以降も、さらに長期的、継続的な温室効果ガス排出量の削減が必要です。そのためには、京都議定書のような短期的な数値目標の達成に向けた対策に限らず、中長期的な観点から対策を講じることが必要となります。
 究極目的の達成のために、どのレベルの濃度の安定化が必要なのか、どのタイミングで世界全体の温室効果ガス排出量を減少方向に転換させなくてはならないのか、そのときの総排出量はどの程度にすればよいのか、という点について、科学的な知見の充実を含め、積極的に検討していく必要があります。また、温暖化問題の特質を踏まえれば、意識の変革、社会システムの変革、技術の開発・普及・投資などに取り組むとともに、中長期的な観点からどのような姿の社会を作っていくかを検討し、対策を講じていく必要があります。EUでは、長期的な観点から、1996年(平成8年)にはすでに「産業革命以前のレベルから気温が2℃以上上昇しないようにする」という目標に合意しており、平成17年3月の欧州理事会でもその旨が確認されました。また、EU各国でも具体的な長期目標を掲げる動きがあります。

表 EU各国の取組



3 次の枠組みの姿は

 京都議定書の第1約束期間の終了する、2013年以降について、衡平で実効ある枠組み(いわゆる次期枠組み)を構築するため、米国や開発途上国を含むすべての国が参加する共通のルールを構築していくことが重要です。
 現在、京都議定書に参加していない米国は、世界最大の温室効果ガス排出国であり、国際的な地球温暖化対策を実効性あるものとするためには、次の枠組みへの米国の参加が不可欠です。

グラフ 二酸化炭素の国別排出量と1人当たり排出量


 開発途上国における1人当たりの排出量は先進国と比較して依然として少ないこと、過去及び現在における世界全体の温室効果ガス排出量の最大の部分を占めるのは先進国から排出されたものであること、各国における地球温暖化対策をめぐる状況や対応能力には差異があることなどから、先進国が開発途上国の対策を協力・支援することが必要です。しかし、今後2010年にも開発途上国の温室効果ガス排出量は先進国を上回る見込みであることから、次の枠組みにおいて開発途上国における実質的な排出抑制が行われるような仕組みが必要です。

グラフ 先進国と途上国の今後の二酸化炭素排出量予測



4 脱温暖化社会に挑戦する日本

 大気中の温室効果ガス濃度の安定化という条約の究極の目的達成に向けて、世界は今後その排出量を長期的、継続的に削減していく必要があります。その中で、日本は率先して、温室効果ガスの排出が少ない社会、すなわち脱温暖化社会を構築していかなければなりません。
 私たちが築くべき脱温暖化社会とは具体的にどのようなものなのか、長きにわたる挑戦の目指す先が、今、問われています。



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