第2節 環境コミュニケーションを通じ各主体の参加・協働を促す


 個人や企業、NGO、行政などの各主体が、自らの行動が環境に与えている影響や環境保全のために必要な行動を認識し、相互の役割分担や連携協力を図りながら自主的積極的な取組を推進することの必要性について、環境コミュニケーションという視点から考えます。

1 個人を中心として見た場合
 個人は、図のように、一日あるいは一生の活動を通じて、環境に様々な影響を及ぼすとともに、様々な主体との間で環境情報のやり取りを行いながら、相互に影響を及ぼしあっています。様々な主体間の双方向での環境コミュニケーションによって自省が促され、自らのライフスタイルを環境面から見直す機会が得られるのです。このライフスタイルの変化は、個々人の具体的な環境保全行動を促すことによって社会のあり方全体を持続可能なものに変革していく原動力となり得ます。
 個人が環境保全行動に取り組んでいく上で、多様かつ豊富な環境情報を得ることが重要になります。右の調査結果から、接触する環境情報の量や質が個人の環境保全行動に影響を与えていることがわかり、個人のライフスタイルに対する環境コミュニケーションの役割の重要性がうかがえます。また、環境コミュニケーションを経て個人の意識が変化した際、それをさらに行動につなげるという最後のステップが最も重要だといえます。
 個人が地域住民、消費者、選挙民など、様々な顔を持ち、他の主体へ働きかることは、行政や市場、政治、地域活動を通じて社会のあり方全体を持続可能なものへと変えていく可能性を秘めています。各主体との環境コミュニケーションは、一方通行から双方向へと変化しており、企業や行政から発信される環境情報を単に受動的に受け止めるだけでは十分とはいえません。個人がそれを理解し、意見を述べ、参画していくなど、他の主体への能動的な働きかけを行っていくためには、情報を独自に、かつ、的確に評価する力を備えていくことが必要です。わが国では、主体間によって環境コミュニケーションの発展段階もまちまちですが、成熟度に応じて徐々にその質を高めていくことが期待されます。

個人のライフスタイルと環境コミュニケーション

環境情報と環境保全行動との関係

2 企業を中心として見た場合
 企業は一連の事業活動の中で、資源、エネルギーの使用や廃棄物の排出を通じて環境に負荷を与えています。企業自らが、どのような環境負荷を発生させ、どのように低減していけばよいのかについて的確に把握することがまず重要です。さらに、企業にはそれらの現状を環境報告書や環境ラベル、環境広告などを通じて、消費者、投資家、取引先、従業員、金融機関、地域住民といった多様な利害関係者へ開示していく説明責任もあるといえます。環境面からも企業が評価されるようになってきている今日、このような企業による環境コミュニケーションの果たす役割はますます大きくなっており、他の主体との間でのパートナーシップへと発展するための土台となります。

企業活動と環境コミュニケーション

(1)企業活動と環境コミュニケーション
 企業側でも環境コミュニケーションの重要性が認識されつつあり、環境情報開示を実施する企業数は年々増加を続けています。企業が製品・サービスに関する環境情報や事業活動に伴う環境負荷や環境保全への取組に関する情報を開示することにより、前ページの図のように様々な利害関係者との間で環境コミュニケーションが行われます。企業から環境情報を得ることによって、消費者はグリーン購入を行い、株主・投資家、金融機関は投資や融資の際の判断材料とし、行政は施策に活用し、社員は自らのライフスタイルを見直し、NGOや研究者は情報の解釈、分析などを通じて他の情報の受け手を手助けし、事業所や工場の近隣住民は無用な不安を解消し、取引先企業はグリーン調達を進めるなど、様々な利害関係者の行動に影響を及ぼしていることが分かります。

企業の環境経営の進化と環境コミュニケーション

 この図のように、企業を中心とした環境コミュニケーションが質・量ともに充実し始めています。その背景には、環境問題の性質(環境負荷の発生源が不特定多数に)や政策手法の変化(自主的取組、経済的手法などの重視)、社会の環境問題への意識の高まりなどに伴い環境経営が盛んになっていること、また、グリーン購入やグリーン投資の増加に伴い利害関係者による環境面に着目した企業評価の必要性が増大していることなどが挙げられます。このいわゆる「環境淘汰」に生き残っていくためにも、企業を中心とした環境コミュニケーションの重要性が高まっていくといえます。
(2)企業の環境コミュニケーションの今後のあり方
 企業の環境保全への取組には、環境コミュニケーションを通じて、消費者や取引先などの他の主体からの意見が取り入れられつつあり、これは企業の環境保全への取組のインセンティブとして機能しています。
 企業が発信する環境情報は、作り手と読み手の認識の差の問題に加え、そもそも開示をする相手、対象が誰なのか、何をどのように伝えたいのか、何が目的なのかなどによってその開示のあり方も自ずと変わってくるという本質的な問題を含んでいます。環境情報の受け手がそれぞれの目的に合わせて見られるよう情報開示の仕方を工夫すること、情報の比較可能性を確保しつつ各業種や企業の独自性を出すこと、環境情報の信頼性を確保すること、企業にとって不利な情報をいかに開示するかを議論することなどが今後の課題といえます。
 環境コミュニケーションを通じて他の主体との間で環境情報を共有することによって、企業は社会での信頼を得、協力して環境問題に取り組んでいくことが可能となります。さらにはコミュニケーションを超えた実質的なパートナーシップへと発展していくことが可能になり、ひいては社会経済のあり方そのものを、持続可能なものへと変えていく力となり得るのです。

3 NGO等を中心として見た場合
 NGOはそもそも同じ問題意識を持つ個人が自発的に集まって組織されたものであり、ばらばらであった個人が組織として活動するためには、まず組織内のコミュニケーションが不可欠です。設立された組織が継続的に活動を発展させていくためには、そのNGOの存在意義や活動内容、問題意識などを外部に向けて発信し、共感を得ていくことが必要になります。さらに、外部との連携を図った活動を行う上で、問題意識を共有し、協働していくためにはコミュニケーションは不可欠です。また、高度に専門化したNGOでは、専門的な情報を解釈、分析した上で発信する活動がよく見られます。

NGOの活動と環境コミュニケーション

 環境NGOは、行政や企業の有する専門的な環境情報を仲介することにより、最終的な情報の受け手が環境情報を理解しやすくする役割を果たしています。また、自ら有する情報や調査、価値観に基づき、政策提言といった形で行政や企業に対し環境に関する意見を提出する場合もあります。さらに、これらの環境コミュニケーションを通じて、活動そのものを協働して行うケースも増加しており、企業や行政、NGOに所属する個人とのパートナーシップも盛んに築かれつつあります。
 環境NGOの動向をみると、団体数の増加が見られ、中でも「環境情報」を活動の重要な要素としている団体が大きく増加しています。
 また、近年、環境NGOの情報発信能力や政策立案能力が高まり、政府や企業とパートナーシップを築いていくにつれて、環境NGOが社会に与える影響力も大きくなっています。
 さらに、様々な主体が自らの行動に環境配慮を織り込み、環境コミュニケーションの中で相互に取組を促進させていく過程では、何らかの推進力が必要であり、そこでのNGOの役割が注目されます。
 なお、こうしたNGOとは別に、人々の環境意識に対して大きな影響力を持つのがマスメディアからの環境情報です。人々の活用する情報源はどうしても偏る傾向があります。情報源や情報そのものの内容が多様化する今日において、情報の受け手が、行政、企業、NGO、研究機関や専門家などの発信・仲介する情報などを状況に応じてバランスよく受け取り、評価、活用していくことが今後必要になっていくといえます。

環境コミュニケーションにおける推進力

4 行政を中心として見た場合
 行政は、環境保全施策の実施などを含む諸活動を通じ、環境に対して様々な影響を与えている主体であるといえます。例えば、各種政策手法の活用や社会基盤整備、国土利用に係る計画の策定などに際しての行政の意思決定は、社会制度の変更や行政活動や個人、事業者などの行動への働きかけを通じて、環境に対して様々な影響を与えています。また、行政自らもオフィス活動や各種の事業主体として環境負荷を生じさせています。
 行政の実施する施策への環境配慮を進めていく上で、このように環境に重大な影響を与え得る活動や意思決定に当たっては、行政と個人や企業、NGOなどの他の主体との環境コミュニケーションを充実させていくことが重要です。
 「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」(情報公開法)が施行され、地方公共団体においても、すでに情報公開条例の制定によりインターネットなどの媒体を活用した情報公開が進められるなど、行政情報を公開していく傾向は今後さらに進んでいくものと思われます。一方、パブリックコメント制度を通じ、個人や事業者、NGOが自らの意見を直接行政に発信することも可能となり、このような枠組みの整備により、行政と他の主体との環境コミュニケーションを反映した行政が進められるようになっています。
 環境コミュニケーションの一層の充実のためには、単に情報発信や意見の反映を行うだけでなく、発信した情報や実施した施策の効果の把握やその評価も重要になります。環境保全に関する自主的な取組を引き出す自己評価や第三者評価などの仕組みや評価方法の確立が、行政と個人、事業者、NGOとの環境コミュニケーションの進展の上でも、大きな課題であるといえるでしょう。

行政活動と環境コミュニケーション
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