第2章 地球と共生する社会経済活動のあり方を求めて

<第2章の要約>
 地球温暖化による影響、資源利用の非効率性、化学物質による影響などの環境問題は、地球の環境容量や物質循環の視点から見て人類の存続を脅かしつつあります。
 この章では、地球温暖化の防止、循環型社会の形成及び化学物質対策の三つの重要な政策分野を取り上げ、地球と共生する社会経済活動のあり方について制度的、技術的な側面を中心に考察します。

第1節 地球環境問題は人類社会に方向転換を迫っている


1 地球の環境容量と物質循環上の問題
 世界は、人口と経済の両面において拡大を続けています。1950年には25億人程度だった世界の人口は、1996年には56億人まで増加しました。また経済規模を見ても、世界のGDPの総計は同じ期間で5.5倍に拡大しました。このような人類社会の急激な拡大により、地球の有限性が問題となりつつあります。
 WWF(世界自然保護基金)の試算によると、現在の地球が生み出す資源・食料や二酸化炭素の吸収などの浄化能力を考慮すると、人間一人当たりの面積(環境容量)は2.18ヘクタール程度であるべきと考えられています。しかし、実際の社会経済活動に伴う資源消費や環境負荷はすでにこの環境容量を超えており、世界中の人々が日本人並みに環境負荷を与え続ける場合、地球はあと1.7個必要ということになります。

世界人口の推移

各国のエコロジカルフットプリント

 地球上の物質は、大気や海流の循環、地殻変動を通じて、大気・海洋・陸地を移動しています。これに生物を加え、様々な物質循環が構築されています。

自然における物質循環

 人間活動は、環境による浄化や資源の再生産を超えた資源採取や二酸化炭素の排出、自然では浄化できない物質の排出、物質循環の切断などによって、この物質循環をゆがめ、様々な環境問題を引き起こしています。

人間社会における物質循環

2 人類の存続を脅かしている環境問題群の特徴
 現在私たちが直面している環境問題は、かつての産業公害と異なる様々な特徴を持っています。
 第一には社会的被害や因果関係の不確実性が高いこと、第二には被害が「薄く広いが、大きい」ということ、第三には社会が一体となった取組が必要なため対策推進が難しいことが挙げられます。
 現在の環境問題では、被害が発生してからの対策では、改善・修復が困難な場合が多く、科学的知見の充実を図るとともに、先見性のある予防的方策を含む政策展開を図ることが必要です。限られた社会資源を用いて効率的に環境対策を実施するため、取り組むべき環境問題について優先順位を設ける必要があります。
 この観点の一つとして、問題の緊急性が挙げられます。あと数年で最終処分場が不足する廃棄物問題はもちろんのこと、地球温暖化問題のように影響の発現までに長期間を要するものであっても、その予想される影響の大きさや深刻さからみて、まさに人類の生存基盤に関わる重要な問題についても、一層の取組を推進していく必要があります。
 もう一つの観点が、問題の重要性です。社会全体に及ぼす被害の大きなものについては特に重点的に取り組む必要があります。地球温暖化問題、廃棄物問題は国内に大きな被害を及ぼすと考えられることから、この観点からも重要な問題といえます。
 また、取組の優先度を決定するに当たっては、その問題の性質に関する基本的な情報が整理されていることが前提となります。化学物質問題のように緊急性・重要性を判断するための情報が不足している場合は、まず情報収集と整理を進めなければなりません。
 このように、地球温暖化、資源循環、化学物質の三つの問題は、地球の有限性を考慮しつつ、環境負荷をかけながら物質的豊かさを追求する社会からの脱却を求めている点で共通しています。次節以下では、これらに対する取組について詳しく見てみましょう。

各種環境問題の相対的特徴のイメージ図
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