2 生態系の保全
生態系は、人間を含むあらゆる生命を育む母胎であり、大気、水、土壌、森林、野生生物などの多様な構成要素が互いに徴妙なバランスを保ちながら、自立的、循環的な相互作用を営むことにより、安定した系を構成し、人間に限りない恵みを与えている。
環境政策の展開に当たっては、自然環境について、このような生態系としての保全を図ることが重要である。さらに、都市環境について、都市内の残された生態系の保全に努めるばかりでなく、都市のシステムを生態系にみられるような自立的、循環的、安定的なシステムとして構築していくという方向が必要である。
我が国の自然保護施策は、貴重な自然や優れた風景の保護に重点を置いてきたが、そのような観点に加え、今後は、より一層自然のメカニズムにまで踏み込んで、その地域の植生、鳥や昆虫などの生物相をも含めた生態系そのものの保全を積極的に推進していく必要がある。
特に、62年7月に国立公園に指定された釧路湿原は、タンチョウ、キタサンショウウオ、エゾカオジロトンボ等の貴重な動物が生息する脆弱な自然の地域であることから、公園の管理に当たっては湿原生態系の保全を基本とし、そのため、湿原生態系のメカニズムの解明やモニタリング手法の確立を図るほか、湿原地域を核として可能な限り周辺の集水域を含む地域も併せて保全していくこととしている。
一般に、生態系の保全に当たっては、自然のメカニズムについての科学的な知見を得ることが極めて重要である。しかし、複雑かつ多様であり、またダイナミックに変動している生態系のメカニズムについては、十分解明されていない部分が多い。
このため、生態系の適切な保全に向けて、自然環境に関する調査・研究を重点的に推進する必要がある。我が国では、「自然環境保全法」に基づき、3回にわたって「自然環境保全基礎調査」(「緑の国勢調査」)を行い、自然環境の現況及び時系列的変化の把握を進めてきている。また、63年度には、生態系保全に着目した計画策定手法の検討を行うこととしている。
自然性の高い地域については、その生態系の維持機能に任せ極力人為を加えずに保護するのが原則であるが、自然の力に任せていたのでは回復が困難であったり、周囲の自然へ悪影響を及ぼすおそれがあるときには、人為を加えることによって生態系の維持・復元能力を補っていく必要かある。
また、都市やその周辺の樹林地、水辺等の身近な自然地についても、それを残された貴重な生態系としてとらえ、多様な生物が生育できる環境として、生態系相互のネットワークの形成にも配慮しつつ、保全・創出していくことが必要である。身近な自然の生態系についての人々の埋解を深めるためには、「自然観察の森」のように都市周辺において人々が自然とふれあえる場を整備し、「身近な生きもの調査」のように広く国民の参加を得ながら自然についての調査を実施するなどの施策が必要である。
さらに、都市活動の基盤である水、エネルギー、物質等を、自立的・循環的に利用することにより、都市自体を環境に負荷を与えにくい構造とすることも求められている。例えば、水の自立的・循環的な利用としての雨水利用設備、中水道、透水性舗装等や、エネルギーの効率的な利用方法としての地域冷暖房、熱電併給(コージェネレーション)システム等が進められつつある。