1 新たな汚染可能性への対応
産業活動の高度化、消費の多様化等に伴い、今後とも化学物質の使用の拡大が予想され、一方、トリクロロエチレン等による地下水汚染や、水銀等による市街地の土壌汚染等従来注目されてこなかった新たな環境媒体での汚染が顕在化している。さらに、発生機構や汚染機構が複雑な環境汚染問題として、ダイオキシン類による環境汚染や酸性雨の問題が注目されている。
マイクロエレクトロニクス、新素材、バイオテクノロジーといった先端技術分野においては、環境影響についての知見が不足している多種類の化学物質等が生産・流通・使用の各段階で環境中に排出されたり、処理困難な廃棄物を発生させる可能性がある。また、技術革新の進展に伴って、次々と新たな物質が使用されていく傾向にあり、環境基準などの設定と排出規制の実施という従来産業への対応とは異なった施策が必要となってきている。
環境庁が設置した「環境技術会議」の報告書(62年4月)においては、先端技術に係る環境保全としては、事業者と行政が連携しながら、新たな汚染可能性を的確に把握・評価(リスクアセスメント)したうえで、生産・流通・使用・廃棄の各段階を通じた総合的な施策を講ずること(リスクマネジメント)が基本であると指摘している。
このための措置として、先端技術における使用物質等に関する情報やその環境影響に関する科学的知見を整備したうえで、環境影響が懸念される物質について的確なモニタリングを行いながら、事業者による安全確保、回収・分別廃棄の促進等を含めた総合的な未然防止対策をより一層進めていく必要がある。なお、遣伝子組換え技術を中心とするバイオテクノロジーについては、今後、開放系での組換え体の利用が進められるものと予想されるが、組換え体の生態系への影響を含めて、科学的知見に基づく安全確保が必要となっている。
さらに、先端技術分野に限らず、化学物質による環境汚染問題に対しては、総合的な取組がますます重要になってきている。すなわち、環境汚染の可能性のある化学物質は、非意図的に生成される化合物を含めて膨大な数にのぼっており、化学物質の排出形態は、製造・流通・使用・廃棄のすべての段階からの排出について考慮しなければならず、その汚染形態としては大気、水、土壌といった複数の環境媒体にわたる汚染が問題となる。このため、多様な化学物質に関する情報の整備、対策の対象とすべき物質の優先順位づけを行いながら、複数の環境媒体を通じた汚染の影響を総合的に評価し、管理する手法(クロスメディア・アプローチ)を確立する必要がある。