2 多角的な公害対策
大都市圏を中心とした窒素酸化物による大気汚染、閉鎖性水域の水質汚濁等の分野では、環境基準の早期達成等に向けて総合的な対策が講じられている。
まず、窒素酸化物対策等をみる。
近年、ガスタービン、ディーゼル機関等を利用した熱電併給(コージェネレーション)システムや自家発電設備などの導入が進められている。これらの施設からの窒素酸化物等の排出を抑制するため、62年10月に「大気汚染防止法」施行令、11月に同法施行規則を改正し、これらの施設を規制対象施設とするとともに、排出基準等を定めた。また、窒素酸化物の排出量の大きいディーゼル車等については、63年末から65年末にかけて大型ディーゼルトラックの15%削減、ライトバン等軽量トラックの乗用車並み規制(30〜60%削減)等の規制強化を行うべく、62年1月に許容限度等の強化を行った。これらの規制は63年規制、64年規制、65年規制として車種別に順次実施されることとなっており、最新規制適合車への代替を促進するため、63年規制適合車に続いて、64年規制適合車についても自動車税及び自動車取得税の課税の特例措置が講じられることとなった。これらの排出規制のほか、貨物輸送等の輸送効率の改善、共同輸配送、交差点構造の改善、交通管制の高度化が推進されており、窒素酸化物の排出を低減するため、62年度においては、京浜・阪神地域を対象として、これらの施策を総合的に推進するための計画を地方公共団体、関係省庁との連携のもとに作成した。さらに、「公害健康被害の補償等に関する法律」に基づき、旧第一種地域等を対象として、地方公共団体等が行う電気自動車等の低公害車の普及、排出ガスのより少ない最新規制適合車等への代替促進、大気浄化能力を有する植栽の整備等環境改善に資する各種の事業を推進することとしている。
次に、閉鎖性水域等の水質保全対策をみる。
東京湾、伊勢湾、瀬戸内海の三海域については、「水質汚濁防止法」等に基づき水質総量規制がCODを指定項目とし、59年度を目標年度として着実に実施されてきたが未だ水質の改善は十分ではない。このため、64年度を目標年度とする新たな総量削減計画が62年4月に策定され、各種の規制等が計画的に推進されている。また、瀬戸内海については、富栄養化の防止のため、「瀬戸内海環境保全特別措置法」に基づき燐の削減指導が64年度を目標年度として実施されている。他方、湖沼については、「水質汚濁防止法」に基づく排水規制等のほか、「湖沼水質保全特別措置法」に基づく指定湖沼については、62年9月に指定された釜房ダム貯水池(宮城県)を含めた七指定湖沼すべてについて湖沼水質保全計画が策定され、同計画に基づき、きめ細かな規制、下水道の整備等の各種の施策が実施されている。また、湖沼の富栄養化の防止のため、窒素及び燐についての環境基準が42水域(38湖沼)について類型指定され、「水質汚濁防止法」に基づく窒素及び燐の排水規制が45湖沼、燐の排水規制が977湖沼について実施されている。閉鎖性水域及び都市における貴重なふれあい空間として住民の関心が高まっている都市内河川については、下水道整備の促進を図るほか、下水道整備計画等を勘案しつつ地域の実情に応じ、合併処理浄化槽の普及促進等、各種生活排水処理施設の整備を的確に組み合わせて進めるとともに、個々の家庭における負荷削減のため、住民による実践活動等を推進するなど、生活排水対策を総合的に推進していくことも重要である。
「公害対策基本法」に基づく公害防止計画については、63年3月に東京地域等11地域の計画が公害対策会議の議を経て内閣総理大臣により承認され、各種の公害対策事業等が実施されることとなった。今回の計画は、各地域ごとに地域の主要課題を取り上げて施策の拡充強化を図ったほか、広域的な問題に的確に対処するため、隣接地域間での調整がより適切に図れるよう計画期間の調整を行うなど、62年1月の中央公害対策審議会の意見具申を踏まえたものとなった。
一方、環境問題の態様の変化に適切に対応するため、62年5月に「公害防止事業団法」が改正された。この改正により、従来の事業の整理合理化を行うとともに、新たに、都市大気汚染対策としての緑地の整備及び国立・国定公園の一部地域の過度の利用を緩和するための利用施設等の整備を建設譲渡事業に加えるとともに、市街地土壌汚染防止の事業及び合併処理浄化槽の設置に必要な資金の貸付けを融資業務の対象に加えることとした。
また、我が国においても大量に利用されるアスベストについては、56〜58年度、60年度の調査結果によれば一般大気中の濃度は低くリスクは少ないと判断されるが、アスベスト製品製造工場等の発生源に近い地域では比較的濃度の高いデータが散見されることから、排出抑制が図られる必要がある。建築物の解体・改修工事に伴うアスベストによる大気汚染の防止、アスベスト廃棄物の処理等に関しては、環境庁と厚生省は62年10月及び63年2月にその方法等について地方公共団体に通知を出し、環境汚染防止の徹底を図ることとした。