1 環境汚染の未然防止・健康被害の予防
各種開発行為に伴う環境汚染等を未然に防止するための手段である環境影響評価については、59年8月に「環境影響評価の実施について」の閣議決定を行った。同閣議決定に基づく環境影響評価については、当面予想される対象事業について、技術指針の策定等の準備作業が終了し62年までに実施に移された。
化学物質対策については、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」により特定化学物質についての製造等に関する規制が行われてきたが、化学物質の安全確保対策に係る国際的動向に対応するとともに、高蓄積性はないものの難分解性であり、かつ、慢性毒性等の疑いがある化学物質(指定化学物質)についても所要の対策を講じるため、同法を改正し、事前審査制度の充実・改善及び事後管理制度の導入を図った(62年4月施行)。現在、指定化学物質としてトリクロロエチレン等12物質が指定されている。
また、複合材料や各種化学物質の使用の拡大により、廃棄物は、その形状、発生形態等が多様化していくものとみられ、特に、適正な処理を行うことが困難な廃棄物については、そもそも発生しないよう事業者があらかじめ製品の開発等の段階で使用後の廃棄物の評価を行うことが必要である。こうした観点から、厚生省は、62年12月に「事業者による製品等の廃棄物処理困難性自己評価のためのガイドライン」を策定した。
一方、公害健康被害補償制度については、本制度をより公正で合理的なものとするため、「公害健康被害補償法第一種地域のあり方等について」の中央公害対策審議会答申(61年10月)を受けて、62年9月に「公害健康被害補償法」が改正された。この改正により、第一種地域(著しい大気汚染が生じ、疾病が多発している地域)は63年3月1日に指定を解除し、指定解除前の申請に基づき認定を受けた既存認定患者に対する補償は継続する一方、今後は、これまでの個人に対する補償から、地域の住民を対象とした大気汚染による健康被害の予防に重点を置いた総合的な環境保健施策を展開していくこととしている。このため、大気汚染の原因者等から拠出される拠出金を財源として基金を設け、各種の健康被害予防事業を実施していくこととしている。
また、成層圏中のオゾン層の破壊による地球的規模の被害を未然に防止するため、「オゾン層の保護のためのウィーン条約」(ウィーン条約)及び「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」(モントリオール議定書)を受けて、「特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律案」を第112回国会に提出した。この法律案では国際的に協力してオゾン層の保護を図るため、ウィーン条約及びモントリオール議定書の的確かつ円滑な実施を確保するための特定のフロンガス等の製造の規制や排出の抑制・使用の合理化に関する措置を定めているほか、本問題に係る科学的知見の集積や大気中のフロンガス等の監視を進めることも盛り込まれている。さらに、気象庁においては、オゾン観測のより高い観測精度を確保することとしており、国立公害研究所においては63年度から最新のオゾン計測用レーザーレーダーを用いた特別研究を開始することとしている。