2 野生生物保護の総合的推進
野生生物は、人間の生存が依存している生態系の重要な構成主体であり、自然環境のバランスの維持に寄与するとともに、学術、レクリエーション等の観点からも、人間にとって必要不可欠な存在である。加えて、野生生物は、医学や農林業の分野では、近年の遺伝子工学の進歩に伴い、潜在的利用可能性を持つ遺伝子資源としても重要視されている。
総理府が61年10月に行った「自然保護に関する世論調査」によると、「人間生活と自然のバランスを崩さないように野生生物が生育できる環境をつくるよう努めるべきだ」と答えたものが71.0%と圧倒的に多く、「人間の生活がある程度制約されても、野生生物が生育できる環境を大切にしたり作るように努めるべきだ」が17.4%と両者を合わせると9割近くの者が野生生物の保護の重要性を訴えており、「人間が社会生活を営むためには、野生生物が成育できる環境が失われてもやむを得ない」は4.9%にすぎない。この傾向は前回調査(56年)と比べ強まっている。
しかしながら、野生生物の種の減少が、国際的にも国内的にも進行しており、野生生物の保護が重要な課題となっている。我が国では、「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」に基づき鳥獣保護区の設定、狩猟や取引の規制等を行うほか、「自然環境保全法」、「自然公園法」、「文化財保護法」及び「特殊鳥類の譲渡等の規制に関する法律」により保護が図られてきたが、今後は、以下の点を中心に新たな展開を図っていく必要がある。
まず、第一に取り組まなければならないのは、国際的にも強い要請のある「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」(ワシントン条約)のより効果的な実施である。このため、輸入時における規制の強化を図るとともに、「絶滅のおそれのある野生動植物の譲渡の規制等に関する法律案」を第108回国会に提出している。同法は、絶滅のおそれのある野生動植物の種について国内における流通の規制を行うとともに、その保護を図るための措置を講ずることを内容としている。
第二は、野生生物の保護のための調査・研究等を充実することである。61年度から「緊急に保護を要する動植物の種の選定調査」を実施しているが、生息状況調査等により得られる情報を踏まえ、種や生息地に対する保護の優先順位を明らかにすることが緊急の課題である。
第三に、絶滅のおそれのある野生生物の保護・増殖を推進することである。生息地の確保と併せて、衰退の原因の排除・低減を図るとともに、人工増殖を行うことが望ましい種のリストアップや動物園等の協力を得た体制の整備などを進めていくことが重要である。
以上のような諸施策を効果的に実施するためには、国、地方を通じた総合的、計画的な取組を一層推進していく必要がある。