前のページ 次のページ

第3節 

2 地域の特性をいかした環境づくり

(1) 地域環境管理計画
 地方公共団体においては、環境保全のための各種施策を有機的に結合し、総合的かつ計画的な環境政策の推進を図ることを目的として、地域環境管理計画の策定が進められている。
 地域環境管理は、長期的視点に立って行政機関のみならず事業者、地域住民等の広範な参画を得て地域環境の適正な保全、利用及び創造を図ろうとするものであり、地域環境管理計画の策定及びこれに基づく施策の実施は、そのための重要な手段の一つと位置付けることができる。
 計画策定のためには、まず地域の自然的社会的条件等に関する各種の調査結果を踏まえ、長期的な展望に基づき行政主体が地域環境の望ましい在り方を明確に打ち出すことが重要である。また、地域社会の環境に対するニーズの高度化、多様化やエネルギー及び財政上の制約等をも考慮しながら、望ましい地域環境の実現に向けて環境資源の利用に当たって配慮が望まれる事項等を明らかにするとともに、関連する各部門の行政機関、事業者、地域住民等が協同して各種の方策を計画的に実施していくことが重要である。
 都道府県、政令指定都市においては既に23団体で地域環境管理計画が策定され、一部の市を含め他の多くの都道府県においても検討が行われている。
 最近策定された計画には、個別の環境質に着目したもの(山形県、長崎県、鹿児島県等)もあるが、環境汚染の未然防止や快適環境づくり等をも含めた総合的な環境政策を計画的に推進することをその目的とするもの(千葉県、横浜市、北九州市等)が増えてきている。これは、環境情報システムを体系的に整備するとともに、将来ビジョンを提示し各種施策を体系化することにより、快適な環境づくりや土地利用等の分野にも積極的に取り組む必要があることが認識されはじめたからであると考えられる。
 このような地方公共団体の取組を更に発展させていくため、引き続き地方公共団体に対し各種情報の提供を行い、計画策定の機運の醸成、地方公共団体間の調整等の課題に取り組む必要がある。
(2) 快適環境の創造
ア 快適環境づくりの重要性
 豊かな緑や清らかな水辺、美しい街並みや歴史的な雰囲気などといった快適な環境(アメニティ)は、私達の生活に潤いとやすらぎをもたらす。国民の生活環境に対するニーズが高度化している今日では、公害の防止や自然環境の保全にとどまらず、このような快適な環境を積極的に創造していくことがますます重要となってきている。
 環境の快適性を高めるための快適環境づくりの施策としては、環境を構成する自然、施設、歴史などの要素に着目して分類すると、?緑や水といった快適な環境に親しむための施設の整備、?身の回りにある樹林地や水辺などの良好な自然の保全、?道路や街並みの景観など快適な都市・生活空間の創出、?日常生活において、環境に配慮した生活・行動ルールを確保するための施策、?環境の質を高める歴史的・文化的事物の保存などのハード・ソフト両面にわたって様々なものが考えられる。快適環境づくりは、行政、住民、企業等がそれぞれの役割を分担しつつ、これらの施策を地域の自然的、経済社会的、文化的、歴史的特性に応じて選択し、実施していくことが肝要である。
イ 快適環境づくりの諸施策
 上記のような快適環境へのニーズに対応して、各地方公共団体においては、これまで市民の積極的な参画の下に、創意と工夫を凝らした各種の快適環境づくりの施策が展開されきた。さらに、先駆的な地方公共団体においては、快適環境指標の設定により、地域の環境の豊かさや潤いを総体として具体的、かつわかりやすく表現するよう努めている。また、国においても、各地の取組が、望ましい快適環境づくりの方向に沿って円滑に進められるよう所要の施策が講じられてきている。
 例えば、建設省においては、社会資本の整備と併せて地域住民に憩いと潤いの場を提供するため、都市公園事業、下水道事業、道路・街路事業、河川環境整備事業等を推進しているほか、良好な都市景観の創造を目的として各種事業を総合的に推進する「都市景観形成モデル事業」等の施策を実施している。また、運輸省においては、地域住民と海との貴重なふれあいの場を確保するため、港湾環境整備事業や海岸環境整備事業を実施している。さらに、国土庁においては、地域特性をいかした魅力ある地方都市を整備するため、「花と緑の都市モデル地区整備事業」を実施しているほか、自治省においても、地域の創意に基づいた個性的で魅力あるまちづくりを推進するための「まちづくり特別対策事業」を実施するなど、各省庁において、地域の快適環境づくりに対する支援が行われている。
 環境庁においても、市民と一体となった快適環境づくりを総合的に推進していくため59年度から61年度までの3か年にわたって「快適環境整備事業」を実施し、全都道府県に1か所程度の市町村をアメニティ・タウンとして指定するという所期の目標を達成したところである。指定を受けた58市町村(政令指定都市6市を含む。)においては、地域固有の環境素材をいかしながら、行政、住民、企業等の創意工夫を結集して、それぞれ個性的な「アメニティ・タウン計画」が策定され、総合的・計画的に様々の施策が着実に推進されている。
 例えば、北海道網走市では「オホーツクの心をむすぶ人間都市」をテーマとして、雄大な自然と人間が共生し、人々がつどいふれあうまちをめざしている。また、高知県中村市では「愛着と共感にはぐくまれた都市、四万十ピアなかむら」をテーマとして、まちを貫流する四万十川を中心に、川や小動物など自然とのふれあいと都市としての活気あるまちづくりに取り組んでいる。
 一方、事業者や住民においても、電線の地中化や生け垣づくりなど積極的な取組がおこなわれるとともに、これらの活動を助成するための基金(アメニティ・トラスト等)づくりも行われている。
 また、快適な環境を目指す地域の活動を支援し、補完していく観点から、環境庁では55年以来、地方公共団体等と共催で、快適環境シンポジウムを開催してきた。このシンポジウムは、地方公共団体職員を中心に、学識経験者や住民団体の代表なども交えて、毎回全国各地の事例を紹介し、幅広く経験や意見の交流を行い、地域における快適環境づくりの定着を図っている。61年度においては、「アメニティ・タウン−その豊かな未来をめざして−」をテーマとする第7回シンポジウムが福島県において開催された。
 このように、快適環境づくりは全国の各地域で定着しつつあるが、更に快適環境づくりの全国的な普及・促進を図るため、住民や事業者など地域の様々な主体の参加を得て、国・県・市町村が連携を密にとりながら施策を展開していく必要がある。このため、環境庁においては62年度から、地域の快適環境ビジョンの目標等を示すことにより管下市町村の快適環境づくりの指針となる「アメニティ・マスタープラン」を策定する都道府県に対し所要の助成を行うこととしている。
(3) 環境の健全な利用
ア 地域ごとの環境特性の体系的把握
 良好な環境を損なわない形で、地域の総合的な発展を図っていくためには、地域ごとの環境の特性を体系的に把握した上で、大気、水、土壌や森林などの環境資源を計画的に保全し、かつ適正に活用することによって、環境と調和のとれた人間活動を実現していくことが重要である。
 その第一歩は、地域の自然環境や各種の環境質の現状等を科学的に調査し、客観的なデータを体系的に整備することである。このようなデータが整備されれば、これに基づいて地域の環境の利用可能性や、環境を利用するに際して配慮することが望ましい事項等が地域に則して具体的に検討され、また、人口動態や土地利用の状況をも含めて総合的に検討されることにより、当該地域の環境資源利用がより適正に進められることが期待される。さらに、地域の環境の特性を地図等の形で視覚的に分かりやすく示すことによって、地域環境の現状や環境基準等の保全目標についてより深い理解が進められよう。
 このような施策は、予見的な政策へと展開しつつある環境政策の基盤となるものであり、国及び地方公共団体の各々について、相互に連理協力を取りながら、その充実を図っていく必要がある。62年度からはこの一環として、首都圏等大都市圏の環境資源の適切な保全・活用を図るため「広域環境資源保全活用調査」を実施することとしている。
イ 環境利用ガイドの作成
 環境庁においては、国レベルでみて適正な環境利用を図る必要性の高い地域や、特に保全を図る必要性の高い自然環境が存する地域等に重点を置いて、体系的に環境情報の整備を図る必要性があることから、59年度から「環境利用ガイド事業」を推進している。
 この事業は、大気、水質等の環境質の状況、地形、気象、生物分布等自然環境の状況などの環境項目についての情報を広く体系的に収集・整備し、これに基づき、地域ごとの環境の特性を指標や地図の形で表示し、また、特に保全が必要な環境資源や、その利用に際し配慮することが望ましい事項を具体的に示そうとするものである。
 環境を利用する各種の計画の立案に際し、このような環境情報が効果的に利用され、環境保全への適切な配慮が払われることにより、地域の健全な発展に資することが期待される。

前のページ 次のページ