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第3節 

2 環境保全上望ましい国土利用構造の形成へ向けて

 以上みたように、今日における国土利用構造と環境問題のかかわりは、50年代と比べてかなり様相が変化しつつあり、この傾向は今後強まっていくものとみられる。こうした中で、都市・生活型公害、身近な自然とのふれあいの喪失、都市環境の質といった都市型環境問題への対応がますます重要になるものと考えられる。
 我が国では狭小な国土において極めて高密度な経済社会活動が営まれており、環境への配慮をおこたると、環境問題が発生しやすい国土利用構造が形成されている。今後も経済規模の拡大、都市人口の増大、産業の高度化等が進み、更に高密度な活動が展開され、高速交通体系の整備も進むとみられることなどから、環境保全に配慮した国土利用構造の形成がますます重要になってくる。
 未だ改善が進んでいない道路交通公害問題、生活排水による水質汚濁等の都市・生活型公害は、こうした国土利用の構造とも密接なかかわりをもっており、その複雑・多様な発生源や発生形態に対応するためには、排出規制等汚染物質の環境への排出抑制手段のみならず、土地利用・立地対策、都市構造対策を含めた多角的な政策手段を活用していくことが求められている。
 特に、土地・空間利用の高度化への要請が高まっている東京圏をはじめとする大都市圏においては、道路交通公害問題、水質汚濁、廃棄物の処理・処分問題等既に多くの環境問題を抱えていることにかんがみ、人口や都市活動の過度集中による環境負荷の増大がもたらされることのないよう努めるとともに、公害防止及び環境改善に資するよう都市構造対策等を積極的に講じていく必要がある。このため、?一点集中型の都市構造から多極分散型の都市構造への転換を進めることにより高次都市機能の分散を図るほか、?生産・輸送等の都市活動が行われる場と住居との分離をはじめとする都市活動の適正配置、?物流の合理化、流通業務施設の適正配置、公共交通機関の整備等による輸送の効率化、などに積極的に取り組んでいく必要がある。また、大規模な都市再開発の実施に当たっては、環境に及ぼす影響に配慮していくことはもちろんのこと、都市再開発による環境改善効果も期待できることから、公害の生じにくい都市構造の形成や環境の質の向上にも資するよう計画的に進める必要がある。この場合、地域の特性に応じ、新交通システム等低公害の公共輸送システム、水の循環利用システム、廃棄物の焼却余熱利用システム等環境負荷低減に資する技術システムを積極的に導入していくことも重要である。
 人口の都市集中や市街地の拡大が進んでいる大都市周辺や地方圏においても、下水道の整備をはじめ環境保全に配慮した先行的、計画的な市街地の整備等を進めることにより、都市・生活型公害の未然防止等に努める必要がある。
 また、地域経済の活性化を図るため、先端産業、リゾート産業等を核とした産業振興が活発化していくとみられるが、これらの産業は国土の広い範囲にわたって展開されることになるほか、先端産業にみられるように化学物質の使用等による新たな汚染の可能性もあるので、環境の保全にも十分留意していく必要がある。さらに、高速交通体系の整備に当たっては、交通公害を発生させることのないよう未然防止に努めることが重要である。
 一方、経済社会の成熟化、高齢化、都市化が進むなかで、今後とも、生活の質の向上、精神的豊かさを環境に求めようとする要請はますます高まっていくとみられる。このため、国土利用の面でも利便性、効率性の追求のみならず生活の質の向上を支える国土利用という点を重視し、公害防止の徹底、自然環境の適切な保全に加え、質の高い快適な環境を形成していくとともに、自然との多様なふれあいの場を積極的に確保、創出していくことが重要である。特に、大都市の内湾は、今後、水とのふれあい空間としても重要性を増してくるので、残された貴重な自然の保全に留意しつつ、水質を含め環境の改善を図っていく必要がある。

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