近年、産業構造の高度化、都市化の進展等を背景に環境問題と経済社会活動のかかわりは大きく変化してきており、また、環境の質の向上に対する要請も高まってきている。今日における環境政策は、こうした環境をめぐる情勢の変化を踏まえ、国民の健康と生活を公害から守り、豊かな自然環境を保全することを基本としつつよりよい環境の形成に向けて新たな展開を図っていくことが求められている。
第一は、予見的、予防的な視点に立った環境政策を重視し、環境汚染の未然防止、なかんずく健康被害の予防を徹底していくことである。近年、産業活動の高度化に伴う化学物質の使用増大や先端技術の開発による新たな環境汚染の可能性が増大しているため、汚染が生じないよう的確に対応していくことが重要になっている。また、環境アセスメントについては、閣議決定に基づく実施要綱により適切な実施を図っていく必要がある。公害健康被害についても、近年における大気汚染の態様の変化を踏まえ、予防と健康回復の観点を重視した施策の展開を図る必要がある。
第二は、環境改善が遅れている分野に対する取組を強化していくことである。環境の状況は全般的には改善してきているものの、大都市圏を中心に窒素酸化物による大気汚染、閉鎖性水域の水質汚濁、交通騒音等については改善が進んでいない。このため、こうした分野における総合的な取組を強化し、環境基準の早期達成に努めていく必要がある。公害防止計画においても、こうした分野への取組を重視していくことが肝要である。
第三は、国民の参加を得つつ、地域の特性をいかした環境づくりを進めるなど、環境保全の多角的展開を図ることである。近年、地域における望ましい環境像や快適な環境づくり等にみられるように、地域の特性をいかしつつ地域が一体となった環境づくりが積極的に展開されるようになっている。また、ボランティア活動による環境保全の動きも活発化している。これらに対し、国としても地方公共団体との連携を強化しつつ積極的な支援を行うとともに、環境教育、環境情報等の基盤整備を図る必要がある。
第四は、我が国に存する多種多様な自然の体系的保全や野生生物の保護、自然とのふれあいの増進を図ることである。その際、人間と自然のより望ましい共存関係を築いていくために、自然のメカニズムの解明に努めつつ、生態系の保全という観点からの保護施策を充実・強化していくことが重要である。
第五は、環境問題の国際的広がりや地球的規模の環境問題に対応するため国際協力の必要性が高まっているなかで、我が国の果たすべき役割が増大していることにかんがみ、かけがえのない地球環境の保全に向けて一層の貢献を行っていくことである。
本章では、以上のような観点から、環境政策の新たな展開の方向について述べる。