2 野生生物の保護
野生生物は、人間の存在が依存している生態系の重要な構成主体であるとともに、学術、経済あるいはレクリエーションの観点からも、人間にとって必要不可欠な存在である。加えて、野生生物は、医学や農林業の分野では、近年の遺伝子工学の進歩に伴い、潜在的利用可能性を持つ遺伝子の貯蔵庫としても重要視されている。
しかしながら、第1章161/sb1.1>で述べたとおり野生生物の種の減少は、国際的にも国内的にも進行しており、野生生物の保護が重要な課題となっている。
特に、我が国は、野生生物及びその製品の取引きにおいて世界の中でも主要な位置を占めており、野生生物保護のため相応の責任を果たす必要があること等から、野生生物保護分野での国際的活動に積極的に関与していく必要がある。また、我が国固有の野生生物種も数多いことから、世界人類共通の遺産であるこれらの固有の種の保護に努める必要がある。
しかしながら、我が国の野生生物保護対策は、必ずしも体系的に整備されておらず、従来、特に野生生物の生存を脅かす問題に対し十分な対応が行われているとは言えない状況にあった。
また、野生動植物の保護を図るため、その国際的取引を規制することを目的として、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」(ワシントン条約)が締結されており、我が国も55年に本条約に加盟しているが、我が国における本条約の実施をめぐって野生生物保護対策の一層の強化の必要性が国際的にも指摘されるに至った。
このような状況の中で、我が国としても、ワシントン条約の効果的な実施を確保する観点から、60年度は、輸入手続の改善等チェック体制の強化及び普及啓発の徹底等所要の措置を講じた。また、野生生物対策推進本部の設置、日中共同のトキ保護増殖計画の実施等、関連する施策を推進してきたところである。
今後、野生生物の生息及び生育状況等に関する調査、研究を積極的に行うとともに、国内において絶滅に瀕している野生生物の保護対策の強化、国際的な野生生物の保護活動への取組の強化等をさらに積極的に推進していくことが重要である。