2 都市構造上の対応
以上述べた発生源対策及び社会資本整備により環境負荷を低減する対策に加え、都市構造を公害が生じにくいものとしていく対応も重要である。また、都市の再開発は、このような都市構造を実現するとともに、快適な都市・生活空間を形成する上での役割も期待できる。
(1) 適正かつ効率的な都市活動
適正かつ効率的な都市活動を実現することは、公害の防止に資するものであり、その方向としては、大きく次の2つが考えられる。
第1は、都市活動を適正に分散することである。
たとえば、工場、倉庫、卸売市場等の物流需要発生施設を都市周辺部又は都市外に移転させたり、都市をう回するバイパス等の整備により都市の中心部から通過交通を排除することなどである。
大都市圏から人口、産業を地方に分散させること等も、このような意味で重要な施策として位置づけられる。工業再配置についてみると、東京都特別区、大阪市、名古屋市全体の移転促進地域における56年の工業敷地面積は49年に比べ2割強減少しており、これは大都市圏における環境負荷の軽減にも寄与していると考えられる。
第2は、効率的な都市活動システムを形成することである。
たとえば、公共トラックターミナルの都市周辺部への整備のより一層の推進や、自家用トラック輸送から営業用トラック輸送への転換等により物資輸送の効率化を図ったり、業種ごと、地域ごとの共同輸送及びトラックと鉄道や内航海運との協同一貫輸送を推進するための施設整備を進めることなどである。
また、ごみの資源化のための施設整備を進めたり、ごみ焼却場の余熱利用や下水汚泥の消化ガスを利用した発電を推進するなど都市における資源・エネルギーの有効利用システムを形成することも環境の改善に資すると考えられる。
(2) 都市活動による環境への影響が軽減される都市構造
生産・輸送等の都市活動が行われる場と住居とを分離すること等により、都市活動による環境への影響が軽減される都市構造を実現していくことも重要である。
従来から、工場については緩衝緑地の設置や住工混在地区からの工場移転などが、道路については遮音壁や環境施設帯の設置などが進められている。これらの施策を推進することに加え、将来的には、住居系、商業系、工業系などの用途区分に応じた適正な土地利用を実現していくことや、交通量の多い幹線道路周辺においては、倉庫、事業所など沿道に適した施設立地を誘導していくことなどにより幹線道路と調和のとれた土地利用の実現を図ることが必要である。
以上のような土地利用の推進が求められる一方で、近年住工混在地区において、工場移転跡地に住宅が立地し、その地域にとどまっている工場との間で環境面での問題が新たに生じたり、工場移転に伴う地域活力の低下が懸念されるなど単なる工場移転だけでは解決の困難な事例も発生している。このような問題を解決するため、同一地域内に共存したまま、ミクロレベルでの住工分離を進めるということも一つの方向と考えられる。
たとえば、神戸市の真野地区においては、「提案、真野まちづくり構想」の下に、職住近接の良さを生かした住環境の形成を目指すこととしている。具体的には、地区計画等を活用しながら、工場と住宅の面積の比率は現状のままで、住宅街区と工場街区とを街区単位で分離しようというものであり、住工混在問題を解決しつつ新たな街づくりを行うための試みとして注目される。
(3) 都市の再開発
近年、既成市街地内において各種の再開発活動が活発に行われるようになってきている。このような再開発には、地方公共団体、地権者等が主体となって都市機能の更新や社会資本の整備等を目的として実施する市街地再開発事業、土地区画整理事業等と民間の建築活動を土地の高度利用等に誘導していくための総合設計制度、特定街区制度等とがあるが、これらは、(1)及び(2)で述べたような公害の生じにくい都市構造を実現するための手段として活用することができる。たとえば、再開発に際して、幹線道路周辺に業務系の緩衝建築物や緩衝緑地を配置したり、都市周辺部の適所に公共トラックターミナルを整備することなどにより、幹線道路と周辺土地利用との整合性を確保したり、都市内の輸送の効率化を図ることができる。
さらに、都市の再開発は、建築物の高層化、共同化等に当たって十分な緑地等のオープンスペースを確保することなどによって、快適な都市・生活空間を形成する上で大きな役割を果たすことができる。たとえば、東京都荒川区の白鬚西地区では、防災拠点を整備するための再開発が計画されており、11.6haの都市公園を整備して大震火災時の避難場所とすることとしているが、同時にこの公園は、地域の快適性を高めるものとしても期待されている。一方、都市の再開発を行う際には、公害の防止など環境への影響に十分留意していくことが必要である。