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第2節 

2 都市化と水環境

(1) 都市化と水質汚濁
 大都市圏や工業都市では、30年〜40年代には産業、人口の著しい集中が進み、都市内中小河川や都市貫流河川において水質汚濁が進行し、一部には悪臭さえ放つ状況がみられた。その後工場排水の規制が強化され、下水道整備が進んだこと等から水質の汚濁は一時の深刻な状況は脱したものの、その他の主要河川と比較して依然高い水準にある(第2-2-7図)。
 また、大都市圏周辺都市、地方都市では低密度、拡散的な市街化の形成を伴いつつ人口が増加し、これに対し下水道整備が立ち遅れている地域もみられ、加えて、生活様式が都市化し、生活排水が増加していること等から、河川、湖沼の汚濁が進み、利水、景観等に障害が生じている。
 まず、都市化の進展によって河川や湖沼の水質がどのように変わってきたか具体的にみていこう。
 かつてきれいな川の代表とされ、江戸時代から貴重な飲料水源であった東京の多摩川についてみると、30年以降流域で人口や工場の増加が著しくなり、それに伴って水質の汚濁が進行した。多摩川流域(日野橋より上流)において人口は30年の約28万人から59年には約62万人、事業所数は32年の約11千から56年には約26千となっている。これに伴い土地利用の姿も大きく変化し、農地、山林が減る一方、工業地区や住宅などの都市的土地利用が増えている。こうした流域の急速な変化を背景に、40年代に入って水質汚濁が著しく進み、有機汚濁の指標であるCODを日野橋地点でみると10mg/lを超える値を示す場合もみられるようになった。その後、工場排水に対する規制強化や下水道の整備等が進み、近年は5mg/l程度で推移している(第2-2-8図)。
 湖沼は水の交換が少なく、汚濁物質が蓄積しやすい自然特性をもっているが、市街地化の進行によって水質汚濁が進んだ面もある。我が国を代表する湖である琵琶湖についてみると、35年から55年までの20年間に流域人口は80万人弱から100万人強へ、工業出荷額(55年価格)は2千億円強から2兆9千億円強へと増加している。このような都市化の進行を背景として進んだ水質汚濁は、各種施策の実施の結果40年代後半に比べれば近年改善してきているが、窒素、りんの栄養塩類に起因する富栄養化による水道のろ過障害や異臭、赤潮等の問題が発生するなどなお改善を要する状況にあり、下水道の整備等の施策を一層推進する必要がある。


(2) 水道水源の水質保全
 近年、国民のおいしい水への関心が高まり、天然の水や浄水器の販売が盛んになってきているが、これは人々がより質の高い飲料水を求めるようになったことに加え、河川、湖沼等の水質の汚濁に伴い水道原水の水質が悪化し、一部の地域においては水道水の異臭味が問題となっていることが背景となっていると考えられる。たとえば、東京都水道局金町浄水場及び大阪府水道部村野浄水場における水道原水の水質の経年変化をみると、いずれの浄水場においても40年代よりわずかながらではあるが原水の汚濁の指標であるアンモニア性窒素濃度又はBOD濃度の上昇がみられ、水質の悪化が進んでいることがわかる(第2-2-9図)。また水道水中のトリハロメタン等の有機化学物質の存在が明らかにされたことにより、飲料水の安全性に対する人々の関心も高まっている。
 40年度には水道原水が湖沼(ダムを含む。)に依存する割合は12.2%であったが、年々高まり57年度には30.2%になっている。現在、琵琶湖、霞ヶ浦等の湖沼(ダムを含む。)を水道水源としている一部の地域においては、湖沼等の富栄養化による藻類の増殖に起因する飲料水の異臭味が問題となっているが、今後湖沼等への水道原水の依存度が高まり、さらに広範囲な地域において問題となるおそれがある。
 このような状況に対応して、浄水処理の際に臭気物質等の除去を目的として活性炭処理、生物処理などの高度処理が導入されている場合もあり、このことが浄水費用増大の一因となっている。
 さらに、これまで一般に水質が良好であるとされてきた地下水については、金属部品の脱脂洗浄等に使用されているトリクロロエチレン等による汚染が進行し、飲用に適さない井戸がでてきている。これに対し、水道用井戸においては水源の転換、ばつ気処理の導入による対応がなされており、また一般用家庭井戸においては水道への転換による対応がなされているが、安全な飲料水の確保上これらの物質の適正な管理が重要となっている。
 今後、安全で良質な飲料水を供給していくためには、良質な水道原水の確保が必須であり、このためには、河川、湖沼、地下水等水道水源の水質保全がきわめて重要である。


(3) 生活雑排水問題
 これまで、都市化に伴う河川や湖沼の汚濁の様相とそれが惹起している問題点をいくつか取り上げてきたが、都市化に伴う水質汚濁の要因をみると、近年、生活系排水の占める比重が大きくなってきている。生活水準の向上と都市的な生活様式の普及から、生活用水使用量が増加し、生活系排水が増大している。たとえば、1人が1日に使用する生活用水の量は全国平均で40年の169リットルが57年には286リットルとなっている。
 生活雑排水は、下水道が未整備の地域では、河川や側溝等へ無処理のまま放流され、このことが河川や湖沼の汚濁の主要な原因の一つとなっており、この対策としては、下水道の整備を図ることが第一に求められている。下水道整備により水質が改善した例を調布市の市街地を貫流する野川についてみると、ここでは、30年代以降の急速な都市化の進展に伴い、水質は悪化の一途をたどり、46年には、BOD値で43ppmを記録し、死の川と化したが、47年に公共下水道の供用を開始して以来、下水道の整備に伴って水質は次第に改善した(第2-2-10図)。こうした下水道の整備に当たっては、汚濁の著しい湖沼の周辺について重点的に行うなど、地域の特性に応じた取組が重要である。また、大都市圏周辺都市及び地方都市では低密度、拡散的な市街地が形成されつつあるという現状を踏まえ、下水道の整備状況等を勘案し、自然浄化機能の活用も考慮しつつ、地域の特性に応じた各種生活排水処理施設の整備を的確に組み合わせていく必要がある。これに加え、一般家庭においても、水質保全に対して高い関心をもち、身近なところから水質保全のために努力することが重要である。


(4) 親しみのある水辺環境の創出
 都市化の進行は、水質汚濁を進ませるだけでなく、用水使用量の増大を通じて、河川水量を減少させている。また、都市内の中小河川では、防災上の理由などからコンクリート護岸や暗きょ化が進んでおり、このため、水辺の自然性が喪失し、人々の水辺とのふれあいの機会も減少してきている。環境庁が56年度に行った「身近な水辺について」のアンケート調査によれば、住民が日頃利用している水辺について不満を感じている理由として、「水が汚れている」(29.1%)以外にも、「ごみ、雑草があり、管理不十分」(34.7%)、「水量が少ない」(9.0%)、「水辺に降りて水に接することができない」(8.1%)、「護岸や橋の構造が人工的すぎる」(5.5%)等さまざまな理由があげられている。
 このような状況に対して、近年、各地において身近な水辺の見直し、親水性に配慮した快適な水辺環境の再生への取組が地方公共団体を中心になされてきている。

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