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第2節 

1 都市活動を支える交通と環境問題

 都市において、交通は、都市の諸活動を支えているが、一方、大規模な交通施設の周辺地域等において、騒音、振動、大気汚染等の問題が生じている。ここでは、このうち道路交通公害問題、航空機騒音及び新幹線鉄道騒音・振動について現状、背景、取組の方向等をみていく。
(1) 道路交通公害問題
ア 道路交通公害問題の現状
 自動車の走行に伴い発生する騒音、排出ガス等により、交通量の多い幹線道路沿道等で公害問題が生じている。
(ア) まず騒音についてみると、当該地域の騒音を代表すると思われる地点又は騒音に係る問題を生じ易い地点で58年中に測定した結果をみると、3,928測定地点のうち環境基準を達成している地点は579点(全測定地点の14.7%)となっている。
 また、市町村長が自動車騒音について対策を要請する目安となる限度(要請限度といい、環境基準と比べて5ホンから15ホン高い。)を超える地点は845点(全測定地点の21.5%)となっている。
 道路交通騒音問題が顕著な地域は、(i)東京の都道環状7号線、阪神間の一般国道43号等大都市地域内における交通の集中する幹線道路の沿道地域及び(ii)国道1号岡崎地区等自動車交通の大動脈となる幹線道路沿線の都市地域である。
(イ) また、道路周辺における大気汚染を把握するため沿道に設置されている自動車排出ガス測定局における二酸化窒素の濃度についてみると、環境基準のゾーンの上限値(1時間値の1日平均値0.06ppm)を超える高濃度測定局の割合は、58年度において、一般環境大気測定局の1.3%に対し、24.1%となっている。このような高濃度測定局は、東京都、大阪府、神奈川県等の大都市地域に集中している。
(ウ) さらに、ディーゼル車の増加に伴い、ディーゼル黒煙等ディーゼル排出ガスによる環境への影響が問題となっている。
 このほか、近年、積雪寒冷地域におけるスパイクタイヤの使用に伴う粉じん等も問題となっている。
イ 道路交通公害問題の背景
 このような都市地域を中心に道路交通公害問題が発生している背景としては種々の問題があるが、とりわけ(ア)自動車交通量の急速な増大と(イ)道路の整備及び周辺の土地利用の2つの問題が考えられる。
(ア) 自動車交通量の急速な増大等
 経済の高度成長に伴って国内旅客や貨物の輸送量が急速に増大する中で、モータリゼーションの進展等を背景に輸送手段の構成が著しく変化し、自動車による輸送割合が飛躍的に高まっている(第2-2-1図)。
 このうち、貨物の輸送に占める自動車の割合をトン・キロベースでみると、自動車の機動性等を背景に57年度で45%に達しており、我が国の経済活動や国民生活を営む上で大きな役割を果たしている。また、経済性等の観点から自動車の大型化が進んでおり、自動車による貨物輸送に占める大型車の割合は、トン・キロベースで57年度82%となっている。大型車は、騒音、排気ガス等の1台当たりの発生量が乗用車に比べ大きく、今日、道路交通公害問題の要因のひとつとなっている。
(イ) 道路の整備及び周辺土地利用
 我が国では、歴史的に幹線道路に沿って市街地が形成され都市が発展してきたこともあって、道路の機能が幹線道路、生活道路等に明確に分化されず、交通量の多い幹線道路が市街地を通過したり、公害を防止、軽減する環境施設帯等の緩衝空間の乏しいまま住宅が密集しているところがみられ、自動車交通の急速な増加に比べ道路の整備や周辺の土地利用が環境保全上の観点から必ずしも十分に対応のとれたものになっていないところがある。
 たとえば、東京環状7号線沿道の土地利用の状況を用途別にみると、道路に面して立地している住宅の間口の合計が道路沿線に占める割合は、区によって異なるが、約10%から30%となっている。
 また、新しくできた幹線道路の沿道にも住宅等が集まってくるところもみられる。
ウ 自動車交通の地域別特徴
 自動車交通の特徴を大都市地域とその他の都市地域に分けてみてみよう。
(ア) 大都市地域
 55年度道路交通センサスによると、全国の高速道路、国道及び都道府県道の12時間当たりの自動車交通量の平均が3,915台であるのに対し、大阪市29,909台、東京特別区22,365台、横浜市21,893台、名古屋市20,129台となっており、大都市地域においては高密度な自動車使用が行われている。
 これらの自動車交通を、さらに人の動きと物資の流動に分けてみてみる。
 大都市地域における人の移動についてみてみると、「京阪神都市圏パーソントリップ調査」(55年度)によれば大阪府では、地下鉄等の大量公共輸送機関の発達にもかかわらず、業務ではその43%が、出勤ではその25%が自動車を利用している。
 一方、物資の流動についてみると、大都市地域においても付加価値の高い製品や鮮度を必要とする物資を中心に自動車による貨物輸送量が増大している。たとえば、「東京都市圏物資流動調査」によると、57年に東京で発生した物資の流動量のうち、約78%は貨物自動車で運搬されており、貨物自動車交通量を東京都内を起点とした運行回数の集計でみてみると、47年から57年までの10年間に170万回から227万回へと大幅に増大している。また、貨物自動車の種類をみると、品目によって異なるが、東京都市圏(茨城県南部、埼玉県、千葉県、東京都及び神奈川県)では、約6割から9割が大型車で運搬されており、その割合は高まっている(第2-2-2図)。
(イ) その他の都市地域
 その他の都市地域においては、地域内の交通を道路に頼っているところが多く、また、自動車の機動性を発揮させやすいことから、自動車交通は住民の日常生活全般を支える足となっている。このため、地方都市における人口の集中等とも相まって地域内の自動車交通量が増大している。
 一方、高速自動車道等の幹線道路の整備により地域間相互の結びつきが深まったこと等により、地域間の物資の流動に伴う自動車交通量が増大している。
 たとえば、都市の生活をまかなうためには、大量の物資が必要とされるが、東京地域に入荷される野菜をみると、近郊農地の宅地化もあってその出荷先は遠隔化し、250キロメートル以遠から入荷されるものが40%を占めており、輸送距離が長くなっている(第2-2-3図)。
 以上のように都市における諸活動は、都市内の交通需要を発生させるばかりでなく、他の地域との交通需要も発生させている。このような中で、我が国の物資の輸送等の大動脈ともいうべき東名・名神高速道路など主要な幹線道路の主要地点の58年度交通量の例をみると第2-2-4図のとおりであり、高速道路ばかりでなく、これと並行する国道1号線等においてもかなりの大型車の通行がみられる。また大型車の通行は、特に静穏を必要とする夜間においても昼間と同程度あり、夜間の大型車の通行の割合は昼間に比べて高い。
エ 取組の方向
 道路交通公害問題に対処するため、これまで発生源対策として自動車排出ガス・騒音規制等による自動車構造の改善や、速度規制等の交通規制等を行ってきた。また、遮音壁や環境施設帯の設置等の道路構造の改善や民家防音工事助成等の沿道対策、さらには環状道路、バイパス等の整備による道路機能の分化等を行ってきている。
 今後は、これらの施策を充実していくとともに、地域の特性に応じて、以下のような対応を一層推進する必要がある。
 大都市地域においては、まず、地域内の交通総量を抑制することが重要である。このため、物資の流動については、トラックターミナルや市場を環状道路周辺等に集約・整備し、大都市地域への大型車の乗入れをできるだけ抑制することや、自家用トラック輸送から営業用トラック輸送への転換、地域ごと、業種ごとに集配達を共同で行う共同輸送の推進等により、輸送の効率化を図ることが必要である。また、人の移動については、できるだけバス、地下鉄等の公共輸送機関で行えるよう、コンピューターを利用したバスの定期運行シテムを推進したり、バスと地下鉄との乗りつぎターミナルの整備を行い、乗用車の使用を抑制することが必要である。
 次に、幹線道路の沿道の土地利用を適正化することが必要であり、「幹線道路の沿道の整備に関する法律」に基づく沿道整備計画の策定や各種市街地開発事業を活用することにより、沿道に事務所、倉庫等沿道にふさわしい施設や緩衝緑地を整備することが必要である。また、幹線道路において環境施設帯を整備することも必要である。
 自動車交通の大動脈となる幹線道路沿線の都市地域においては、大型車の都市内通過を極力抑制することが重要である。このため、大型車の高速自動車国道の利用や、バイパス、環状道路の整備を進めるとともに、大型車をバイパス等へ円滑に誘導するための道路構造対策や旧道における交通規制等を行うことが必要である。また、貨物自動車と鉄道等との協同一貫輸送を積極的に推進することが必要である。
 さらに、バイパスや高速自動車国道へのアクセス道路等の沿道に新たな住宅の立地がみられることから、道路に面する地域への住宅立地を避けるため沿道にふさわしい施設を誘導する等の措置を講ずることが必要である。


(2) 航空機騒音及び新幹線鉄道騒音・振動
ア 現状
 航空機騒音については、ジェット機が就航している空港について航空機騒音に係る環境基準の達成状況をみると、48年12月の環境基準設定当時に比べて、この10年間に75WECPNL以上の騒音影響範囲が第2-2-5図にみられるように主要な空港においては大幅に改善されてきているが、なお引き続き環境基準の達成のため努力が必要な状況にある。
 新幹線鉄道騒音については、これまでの測定結果によれば、防音壁の設置等によりかなりの改善がみられるが、引き続き環境基準の達成に向けて努力が必要な状況にある。また、新幹線鉄道振動については、一部の軟弱地盤地域等において対策指針値70デシベルを超える地域がみられる。
イ 背景
 我が国の航空輸送は、30年代後半からのジェット機の就航、その後の大型機材の導入等により飛躍的な進歩を遂げた。すなわち、空港数についてみると、41年度から57年度までの間に52から77まで、そのうちジェット機就航空港数は6から34まで増加し、また、航空機の乗客数、着陸回数とも飛躍的に伸びている。
 また、新幹線鉄道も39年の東海道新幹線開業以来、山陽、東北及び上越新幹線が逐次整備されてきており、現在の新幹線営業キロ数は2,012キロメートルとなっている。
 このような都市間を結ぶ航空輸送網や新幹線鉄道網は、我が国の社会経済活動や国民生活の向上に大きく寄与してきた反面、看過しがたい騒音等の環境問題を惹起するに至った。特に周辺が市街化されている大阪国際空港や福岡空港においては、周辺地域に居住する多数の住民から夜間の発着禁止及び損害賠償等を求める訴訟が、また、名古屋地区の東海道新幹線沿線の多数の住民から騒音・振動公害の差止め及び損害賠償を求める訴訟が提起された。
 このような問題の発生の背景としては、これらの交通機関から発生する騒音等が大きく、これを効果的に低減しうる状況になかったこと、また、これら交通施設の整備や周辺土地利用の環境保全上の対応が現在の技術水準等に比べて必ずしも十分でないままにその周辺が市街化し、住居系としての利用が進んだこと等があげられる(第2-2-6図)。
ウ 取組の方向
 以上のような問題に対処するため、これまで、航空機騒音対策として、高騒音機から低騒音機への代替の促進等の発生源対策や周辺の騒音の著しい地域の存する住宅の防音工事助成等が実施されてきている。また、周辺の宅地化が進むと予想される空港について航空機騒音による障害を防止し、あわせて適正かつ合理的な土地利用を図るため、53年に「特定空港周辺航空機騒音対策特別措置法」が制定されるなど法制面での整備も進められた。新幹線鉄道騒音・振動対策としては、防音壁の設置等の音源対策や周辺の騒音・振動の著しい地域に存する住宅の防音・防振工事助成等が実施されてきている。
 これらの施策により、前述したとおり環境改善が進んできているが、環境基準等を達成するためには更に改善を要する状況にある。このため、従来の施策をより一層推進することはもとより、特に都市周辺の騒音等の著しい地域において住宅の立地を抑制し、今後新たな問題を生ぜしめないよう街づくりと十分整合のとれた周辺土地利用対策の充実が必要である。

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