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第4節 

4 身近な自然環境の保全と活用

 地域に立脚し、それぞれの特性をいかして自然環境の保全とその活用をめざす運動が各地で見られる。
 地域の住民が自発的に進めた運動の一つの例として、天神崎保全市民運動があげられる。
 これは、和歌山県田辺市天神崎の田辺南部郡海岸県立自然公園内において、49年に分譲別荘地開発許可申請が出され、これを知った市民が「天神崎の自然を大切にする会」を結成したことが発端である。都市近郊の自然であるため、その保全には多くの困難があったが、この運動の成果として、現在0.86ヘクタールが買い上げられている。このうち、0.62ヘクタールは57年に県と市が計3,000万円を負担し、田辺市の所有となっている。また、天神崎は自然観察教室の開催などを通じて広く一般に活用されている。しかしながら、買い上げられた土地は、目標面積の20%余りに過ぎず、今後の買い上げ予定地をも含めた保全・管理についての課題が残されている。
 また、地方自治体においても総合的な自然環境の保全を進める動きがみられる。
 埼玉県では、「住みよい町づくり」に対する県民意識の高まりを受け、55年2月に、ふるさと埼玉の緑を守りふやすためにとの理念の下、「埼玉県緑の総合対策」を策定し、自然保護対策を総合かつ体系的に実施している。54年3月に制定された「ふるさと埼玉の緑を守る条例」では、知事が指定したふるさとの緑の景観地・森・並木道内における一定の行為に対してあらかじめ届出を義務付けるほか、緑化推進地域を指定し、域内整備に補助金を交付するなどの施策が盛り込まれている。56年現在ふるさとの緑の景観地は3ヶ所70ヘクタール、ふるさとの森は9ヶ所14ヘクタールとなっている。
 その他、兵庫県では、従来から進められてきている緑化や文化行政の実績の上に立ち、更に積極的、総合的にさわやかでうるおいと安らぎに満ちた活力ある県土を創出しようとする基本理念の下、58年度から「全県全土公園化構想」に取り組んでいる。構想の推進のため、同県では特別の総合調整推進機構を設け、96億円の事業費を計上して植樹作戦やアメニティづくりなど各種事業を実施するとともに、シンポジウムや説明会の開催、「緑の少年団」の育成などを通じて、市町及び一般県民との協力体制づくりに努めている。
 東京都大田区の大井ふ頭の埋立地は、当初、都内の生鮮食料品市場を移転させる目的で造成されたが、移転が具体化しない間に、野鳥の絶好の生息地となり、子供らが自然を身近に感じられる貴重な場となった。このため、野鳥公園として残そうとする付近の住民を中心とした自然保護団体が、東京都と意見交換等を続け、その結果、53年に大井野野鳥公園として整備し、利用されることとなった。さらに、58年5月には、都はこのような動きを受けて、既に野鳥公園となっている地区を含め合わせて22ヘクタール余りを野鳥公園として残すこととした。ここには、現在約125種類の野鳥がみられ、年間7万人近い利用者が訪れている。なお、公園の活用については、管理、調査活動、自然観察の指導に際して、多くのボランティアの協力が得られている。
 これらの事例は、自然保護を住民にとってより身近なものとし、国民的な広がりを得ていく上で注目されるべきものである。

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