前のページ 次のページ

第1節 

3 多角的な取組

 近年、多角的な取組が必要とされる環境問題が増加している。ここでは(1) 交通公害問題と(2) 閉鎖性水域の水質汚濁の問題を例にとり多角的な取組の方法を検討することとする。
(1) 交通公害問題については、これまで自動車等個々の交通機関の改良、交通機関の走行・運航方法の改善、交通施設の構造上の改善、周辺住宅等に対する障害防止等の対策が鋭意講じられ、担当の改善が図られているものもあるが、なお残された問題も少なくない。このため、環境庁では交通公害の解決を図るため、中央公害対策審議会に対し、「今後の交通公害対策のあり方について」諮問し、58年4月、その答申が出されたところである。
 交通公害を防止するためには、これまで講じてきた対策の一層の充実、強化を図る必要がある。その際、交通公害が我が国の経済社会活動や周辺土地利用と密接にかかわっているということを認識し,多角的な対策を一歩一歩着実に講じていくことが必要である。
(2) 湖沼等の閉鎖性水域においては、他の水域に比較して環境基準の達成状況が低い。特に、湖沼においては、水質汚濁の要因が「水質汚濁防止法」の規制対象である工場、事業場によるものに加えて、生活系、農畜水産系など多岐にわたっており、従来からの「水質汚濁防止法」による規制のみでは十分でないこと等にかんがみ、新たな施策を含め諸施策を総合的に講じることが必要である。このため、政府としては、湖沼の特性に応じた総合的かつ計画的な諸施策の推進を内容とする湖沼水質保全特別措置法案を58年5月、国会に提出し、その成立に取り組んできた。同法案は、58年11月の衆議院解散に伴い、廃案となったが、59年3月27日、国会に再提出された。
 また、湖沼等の閉鎖性水域においては、富栄養化が緊急に対策を要する問題となっている。このため、57年12月、湖沼の窒素及びりんに係る環境基準が告示された。湖沼の富栄養化防止のためには総合的な対策が必要であり、58年1月、環境長官から中央公害対策審議会に対し窒素及びりんに係る排水基準を設定するに当たって意見を求める旨諮問が行われ、現在、同審議会において審議が行われている。
 ところで、水質汚濁の中で大きな役割を占めている生活排水についてはその対策は相対的に立ち遅れている。
 生活排水対策の基本は下水道整備であるが、普及率は57年度末現在全国平均で32%と低い状況にあり、多くの地域では、生活排水負荷(BOD)の約7割程度を占める家庭の台所、風呂、洗面所当からの生活雑排水が未処理のまま公共用水域に放流されている。今後、下水道の整備は、大都市からその周辺部、あるいは中心都市の人口密度の相対的に低い地域へと拡大していくと考えられるが、現下の財政状況等を勘案すると、その整備にはまだかなりの年数を要すると考えられる状況にあり、今後とも効率的な執行を推進していく必要がある。
 このため、今後は、下水道整備の推進を図りつつ、その整備状況を勘案し、地域の特性に応じ、地域し尿処理施設、農業集落排水施設、合併浄化槽、生活雑排水単独処理施設等の整備を的確に組み合わせ、生活排水対策を総合的に推進していくことが重要である。
 生活排水処理施設のうち小規模なものは、集落単位や住宅単位での対策であり、施設単位にみれば、比較的少ない費用で速やかに整備が行われるとともに、地形上の困難等についても適切に対応し得るので、その地域特性に応じた有効な活用が期待される。

前のページ 次のページ