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第4節 

2 快適な環境の基盤づくり

(1) 公害防止のための社会資本整備
 下水道や廃棄物処理施設、緩衝緑地などは環境の保全を目的の一つとして整備されるものである。環境汚染を防止し、快適な環境を創造していくためには、このような環境関連の社会資本の果たすべき役割は大きく、地域の特性に応じ、効率的・重点的に整備を進める必要がある。
? 下水道等
 水質汚濁の防止のためには、各種の規制とあわせてか水道の整備が基本である。特に、都市内河川や後背地に多くの人口を抱える閉鎖性水域においては、家庭等から排出される生活雑排水が水質汚濁の大きな原因となっていることから、大規模事業場を対象とした規制だけでは効果を期し難く、下水道をはじめとする社会資本の整備が急務となっている。
 宇都宮市の市街地を貫流する釜川は下水道整備により水質が改善された例である。ここでは、30年以降の急速な都市化の進展に伴い、水質は悪化の一途をたどり、46年にはBOD値で24ppmを記録し、死の川と化したが、下水道の整備に伴って水質は次第に改善した(第2-4-3図)。
 しかしながら、わが国において下水道整備が本格化したのは30年代に入ってからであったため、下水道の普及率は57年度末で32%と低く、今後とも下水道の整備の推進を図る必要があるが、それには多くの経費と時間を要するので、その効率的な執行を推進するとともに、下水道の整備を勘案し、地域の特性に応じた各種の生活排水処理施設等の設置を進めていく必要がある。たとえば滋賀県では、54年から生活雑排水の共同処理施設や戸別浄化装置のモデル的な設置が行なわれており、また、長野県においても60年度末を目標とした「家庭雑排水適正処理整備5か年計画」を策定し、共同処理施設に対する財政援助等を行っている。
 なお、排水処理に際しての汚でいの処理が大きな問題になりつつある。これを下水道についてみると、年間約240万立方メートルの汚でいが発生しており、その約80%が陸上または海面で埋立処分されている(第2-4-4図)。今後、下水道整備の進展、高度処理の実施等により汚でい発生量は一層増大することが見込まれる。大都市を中心に埋立処分地の確保が著しく困難となっている現在、環境保全に留意しつつ汚でいの有効利用の促進を図り、埋立処分量を極力減量することが必要である。
 現在、下水汚でいのうち有効利用されている割合は15%と低い状況にあり、そのほとんどが緑地や農地へ還元して利用する緑農地利用である。今後は、環境保全に配慮した緑農地利用を進めるほか、建設資材としての利用方策、減量化方策等について研究を進めていく必要がある。なお、52年度から、汚でいを資源として利用することが有効であるところについては、それらに必要な処理施設等についても国の補助対象とされている。
? 廃棄物処理施設
 日常生活等に伴って排出される一般廃棄物は、処理・処分方法が不適切な場合には水質汚濁、悪臭、大気汚染等の原因となり、生活環境を汚染し、公衆衛生上の問題を生じさせることとなるので、その適正な処理・処分が重要である。廃棄物の発生量は、第1章第1節にみたとおり相当な量に達している。
 一般廃棄物のうち、し尿の処理方法としては、下水道による処理、し尿処理施設による処理、し尿浄化槽による処理等の方法があり、56年度においては収集されたし尿および浄化槽汚でいの約87%がし尿処理施設や下水道で処理され、約13%が海洋投入されたり農村還元されている状況にある。
 また、ごみの処理方法としては、燃えるごみについてはごみ処理施設で焼却し、減量化、無害化を図った上で燃却残渣を埋め立てる方法が、燃えないごみについては直接埋立処分する方法が一般的にとられている。ごみ処理施設の能力は年々増加しつつあるが、56年度においては収集されたごみの約65%が焼却処理され、残りはほぼ埋立処分されている。この結果、埋立処分されるごみの総量は、直接埋立てされるごみ、焼却残渣等をあわせて年間約1,725万t、ごみ全体の約42%に達している。
 ごみの埋立処分地の残余容量は56年度末約18,200万立方メートルであり、今後も従来とほぼ同様の処理が行われるとすれば、現在の容量は約6〜7年分にすぎず、埋立処分地の確保が大きな社会問題となりつつある(第2-4-5図)。特に、大都市圏においては稠密な土地利用が行われており、新たな埋立処分地の確保は極めて困難となっている。
 また、このような量的な問題だけでなく、近年、排出される廃棄物が多様化したことに伴い、除去・無害化が困難な物質を含む廃棄物等、その性状、排出量、排出形態等によっては、現行の処理施設・システムでは処理が困難な廃棄物が出現している。
 このようなことから、環境保全に十分配慮し、処理施設・システムの改善を行うとともに、廃棄物の排出を極力抑制し、有効利用を行いつつ減量化、安定化及び無害化した上で、廃棄物を処理処分することが今後ますます重要となっている。
 今日の都市廃棄物問題を広く環境保全、省資源、省エネルギーの一環としてとらえ、総合的な廃棄物対策が行われている例として豊橋市の「都市農村環境結合計画」(ユーレックス計画)がある。同市ではこの計画に基づき、家庭ごみの分別収集、事業所ごみの分別搬入等を行うとともに廃棄物処理の拠点として「資源化センター」を設置して次のような活動を行っている。まず第1に焼却、高速堆肥化等の5つの施設を有機的に結合し、省資源、省エネルギー、省力化処理を行っている。第2に、ごみ焼却熱の利用、ごみとし尿汚でんの堆肥化等によりすべての廃棄物を資源として積極的に利用している。第3に、二次公害の防止に特に留意し、有害物の抽出、安定化処理等総合的な対策を講じている。
? 緩衝緑地等
 工場、事業場周辺の騒音、振動、大気汚染等を防止するためには、緩衝緑地を造成することが有効である。工場、事業場が集中し、産業公害が特に発生しやすい地域においては、公害防止事業団が緩衝緑地等を造成し、長期、低利の割賦で譲渡しており、57年度末においては、29か所661ヘクタールの緩衝緑地が公害防止事業団によって整備されている。
 交通施設周辺における交通公害を防止するためにも、環境施設帯の設置や緑地帯等の確保が有効である。


(2) 快適性増進のための社会資本整備
? 社会資本の質的向上への要請
 国民の意識をみると、近年、所得水準の向上、自由時間の増大等に伴って公共サービスや生活環境に対する欲求水準が高まっており、社会資本に対する欲求についても「社会資本に関する世論調査」(56年2月、総理府調べ)によれば、4割以上の者が「社会的な施設を整備するに当たり、ある程度負担が増えても、施設の美観やゆとりにもっと配慮すべきだ」としている(第2-4-6図)。また、人口構成の高齢化への対応という観点からも、安全かつ快適な生活環境づくりを進めていくことが従来にも増して重要となっている。
? 社会資本への快適性の付与
 快適性を高めるための社会資本整備として、従来から都市公園などの整備が行われてきた。一方、たとえば、廃棄物処理施設、道路、河川改修などの社会資本整備においては、これまで安全、衛生、利便の面を中心に整備が進められ、より質の高いニーズである快適性という観点については、当時の経済社会状況からみればやむを得ない面があったが、従来、ともすればみすごされていた面もみられた。社会資本の整備に際し、地域の総合的な環境水準の向上にも資するよう、快適性付与のための具体的方策について検討を推進していくことが求められる。たとえば、道路については交通機能の面だけを考慮するのでなく、緑地帯を確保したり、人々がお互いにふれあうことのできる空間を創造し、景観と合致した美観を形成するなど、街づくりと一体となった道路の体系的整備を図ることが必要であり、配電線の地中化、歩行者優先の道路づくりなどを積極的に推進することが望まれる。
 また、河川改修などの水辺環境に重要な係わりを持つ社会資本整備に際しても、人と水とのふれあいなどの配慮していくことが重要である。
 最近は、社会資本の整備に際し快適性に配慮する動きがみられている。たとえば、東京都江東区では、川を生かした区民の憩いの場を確保することを目標に、53年から区内を流れる仙台堀川の親水公園化事業を開始しており、河川の治水の安全性を確保しながら、河川敷を利用して多目的広場、親水池の整備等が行われている。
 また、水辺環境が著しく損われている東京湾では、人々が海岸線をレクリエーションの場として利用できるようにするため、人口海岸の造成が進められ、うるおいのある水辺環境の修復が行われている。稲毛海岸、幕張海岸、葛西沖がその代表的なものである。
 さらに、都市公園等のオープンスペースの確保等快適な都市生活空間を創造するための社会資本整備も各地で行われている。


(3) ソフトな施策の拡充
 快適な環境づくりの基盤となる社会資本の整備については、国民のニーズの高度化、多様化の動向を踏まえ、総合的に進めることが必要であり。そのための制度や仕組み等のソフト面を重視していく必要がある。
 具体的には、地域環境の特性を十分把握し、地域の多様な環境の要素と調和のとれた社会資本の整備を進めることである。そのためには、現在高まりを見せている地域の住民や事業者の環境改善への積極的な意欲を活用できるような仕組みを作ることが有効である。このような取組の例としては、盛岡市において環境美化のために作られた「環境デザイン委員会」や山口県宇部市において宇部市民の森造成運動を進めるためにつくられた「緑化運動推進委員会」がある。
 盛岡市の「環境デザイン委員会」は、民間の委員と市側委員により構成され、建築物等の基本計画を基にデザインの方向性を検討し、調和のとれたアーバンデザインを目指している。
 宇部市の「緑化運動推進委員会」も行政、市民、企業の三者が一体となった構成をとっている。
 このようにして環境の快適性を高めるために、行政、住民、企業が互いに協力して進めることが重要である。さらに、各種の施設整備を総合的、体系的に進めることにより、全体として効果を高めていくことも重要である。

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