3 地球的規模の環境問題
大気中の二酸化炭素濃度の上昇、海洋の汚染、熱帯林の減少等により人類の生存の基盤である地球の環境が影響を受け、気象が大きく変わったり、生物種の減少をまねいたりするおそれが生じてきている。以下、地球環境の現状を大気、海洋、熱帯林についてみていくこととする。
(1) 大気
燃料等の使用に伴う二酸化炭素の排出は、20世紀後半以降急速に増大し(第1-3-2図)、それにつれて大気中の二酸化炭素濃度も、ハワイのマウナロア山の観測所では、30年代に入って年平均1ppmの割合で上昇してきている。こうした中で二酸化炭素濃度の上昇に伴う影響への関心は高まってきており、58年にはこの問題に関する報告が米国環境保護庁と全米科学アカデミーから相次いで行われた。
これらの報告によると、石油等化石燃料の消費の増加、森林の減少等により、大気中の二酸化炭素濃度は今後とも上昇を続け、21世紀半ば以降には少なくとも現在の2倍になる。そして、二酸化炭素濃度の上昇は温室効果を通じて中緯度地方の温度を2〜3℃、極地地方の温度10℃程度上昇させる。これは気候の変化、極地地方の氷の融解による海面上昇をもたらし、人類の生活に多大な影響を及ぼすと推定されている。
このほか、フロンガス等によるオゾン層への影響も注目されている。エアゾール製品、冷媒等に利用されているフロンガスは環境中に放出された場合、成層圏のオゾン層を破壊するといわれている。国連環境計画(UNEP)オゾン層調整委員会の報告(58年)によれば、フロンガスの放出が現在の水準のまま継続すると、そうでなかった場合に比べ3〜5%程オゾン層を減少させることになるとされている。オゾン層への影響はその他未知の要素が数多くあると推定されている。
(2) 海洋汚染
海洋汚染は、河川経由、沿岸排出、廃棄物その他の物の海洋投棄、船舶の運航及びこれに伴う事故、海底油田開発等によるものが重要である。
石油による海洋汚染は、多くの海域において引き起こされている。毎年海洋に流入する石油系炭化水素の量は611万トンと推定されているが、このうち海上輸送に関係しているものが213万トン、さらにタンカー事故に起因するものが20万トン程度と考えられている(第1-3-3図)。
タンカー事故や海底油田の事故に伴う海洋汚染は、その環境影響が甚大なため、特に重要な問題である。たとえば、58年3月のイラク軍の攻撃を原因としたペルシャ湾におけるイランのノールーズ油田の大規模な原油流出事故では、湾岸諸国の自然環境や市民生活への影響が懸念された。
このように、国際情勢が不安定なことから突発事故の危険性があることに加え、石油の海上輸送量の増大の下でタンカーの運航に伴う油汚染もあり、海洋汚染の動向には今後とも十分注意を払っていく必要がある。
(3) 熱帯林の減少に伴う問題
熱帯林は、熱帯地方の開発途上国の人々の生活基盤となっているのみならず、生物種の豊庫であり、大気の浄化、土壌の保護、気象の緩和等人類を含む全生物の生存のために極めて大きな役割を果たしている。「熱帯林資源評価調査」(FAO/UNEP)によると55年末の林地(木本類の植生が10%以上の土地)は30億ヘクタールあり、このうち12億ヘクタールが森林で、熱帯アメリカ6.8憶ヘクタール、熱帯アフリカ2.2憶ヘクタール、熱帯アジア3.1憶ヘクタールとなっている。
一方、森林減少についてみると、56年から60年の間において年々1,130万ヘクタールの森林減少を予測しており、その主たる原因は移動焼畑耕作によるものとされている。こうした熱帯林の破壊は、土壌の流出、生物種の減少、気象への悪影響等、地球環境へ様々な影響をもたらしつつある。
熱帯林の減少と並んで砂漠化が進行している。乾燥・半乾燥の熱帯地方の開発途上国において、人口の増大から過度の放牧が行われたり、希少な樹木が燃料として利用されることなどから、毎年600万ヘクタールの土地が不毛の砂漠に化しているとされている。