第1章159/sb1.1>でみたように、環境問題の様相は近年大きく変わりつつある。その背景には環境政策の進展とともに、経済社会の拡大・変化がある。現在、経済が安定的に拡大する中で、人口構成が高齢化し、産業構造の高度化が進み、また、立地動向にも変化がみられるようになっている。さらに地方圏を中心として定住化、都市化傾向が強まっている。国民の意識の面でも、生活の質の向上を求める傾向が高まるなど環境をめぐる諸条件は大きく変化しつつある。このような、いわゆる経済社会の成熟化の進展は、環境行政に新たな対応を求めるものとなっている。
本章では、以上のような観点から、成熟化する社会での環境問題の所在を概観するとともに、国民生活、産業活動、公共部門、それぞれの分野と環境問題との係わりをみることにより、今後の環境政策の課題を整理する。
まず、国民生活の面では、消費の拡大・多様化、都市的な生活様式の普及等を背景に生活排水による水質汚濁、近隣騒音、廃棄物の問題など日常生活に密着した環境問題が重要となっている。これらの問題に取り組むためには、下水道、廃棄物処理施設など社会資本の整備が基本であるが、これと併せて、環境保全に関する教育や自然と親しむ機会などを通じて、国民一人一人が環境への理解を深め、環境に配慮した生活をしていくことが大切である。すでに、環境保全に関する国民意識の高まりを背景として、地域の住民等が地方公共団体と力を合わせて積極的に住みよい快適な環境を創造したり自然環境を保全する動きが活発化している。
次に、産業面をみると、近年の産業構造の高度化や省資源・省エネルギーの進展は、公害対策の進展ともあいまって環境負荷が増大するのを抑制してきた。しかし、すでに高密度の経済活動が行なわれている我が国で、今後さらに経済活動の拡大を図っていく際に環境への適切な配慮を怠るならば、環境への負荷が高まることは避けられない。さらに、産業構造の変化に伴い、従来と異なる形態での立地が進展しつつある。その際、地域の環境特性に応じて、環境保全に十分配慮し、適正な環境利用を図ることが重要となっている。他方、企業が緑化を進めたり、研究開発の成果を環境対策に生かすなど積極的に環境保全に寄与する動きもみられる。
公共部門は種々の環境保全施策や社会資本整備を通じで環境と深い係わりを持っている。かつて各種開発事業の実施に当たり、環境問題を引き起こした例もあったが、その反省の上に立って環境汚染を未然に防止する重要性が認識されてきている。今後も社会の成熟化が進む中で、快適な環境の基盤づくりに向けて、社会資本整備においても快適性を付与するなど質的にもその充実を図ることが重要である。