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第3節 

2 国境を越える環境問題

(1) 酸性雨
 「1983年の世界の環境の状況」(国連環境計画)によれば地救上において化石燃料を消費することによって大気中に放出される硫黄酸化学中の硫黄分は年間約7,500万トン、窒素酸化物中の窒素分は約2,000万トンに推定されている。これらの物質は酸性雨などの形態をとって地上に降下し、様々な影響を与える。特に、酸性雨の場合は、発生源から数千キロも離れた所に降下することがあり、国境を越えた問題となる。酸性雨は湖沼や河川に最も直接的な影響を与える。米国北東部、カナダ南東部、スコットランド南西部、そして、スカンジナビアの一部において数多くの湖沼が酸性化している。スウェーデンの例をみると、ヨーロッパ中部工場地帯を中心として排出された硫黄酸化物や窒素酸化物が原因と考えられる酸性雨に伴う湖沼の酸性化による漁場被害が2,500の湖沼でみられ、さらに6,500の湖で被害の発生が予想されている。土壌、森林、建物等への被害も各地で報告されている。人間の健康への影響の面では、飲料水源の酸性化により銅のパイプ等から金属が溶け出したり、土壌等の酸性化により環境中に溶け出した金属が植物連鎖を通じて取り込まれたりすることが心配されている。
(2) 国際河川
 ライン川やドナウ川のような国際河川では上流の諸国が汚濁原因物質を排出しており、他方、下流の国々では、河川水を飲料水その他に利用していることなどから関係諸国間で調整が図られている。
(3) 渡り鳥の国際的移動
 渡り鳥は、年に一度繁殖地と非繁殖期生息地との間を季節的に往復するという性質上国際的に移動するので、その保護は生息地の保護をも含め多国間にわたる課題となっている。特に、我が国はシベリア、アラスカ、中国、東南アジア、豪州等からの渡り鳥の繁殖地、経由地及び渡来地として重要であり、国内で観察される鳥類の4分の3は渡り鳥である。
 環境庁が実施している渡り鳥標識調査の回収記録によると、第1-3-1図のような渡り鳥の実態が明らかとなっている。

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