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第3節 

4 光化学大気汚染対策

 光化学大気汚染は、環境大気中の窒素酸化物と炭化水素類の混合系が太陽光の照射を受け、オゾンを主体とする光化学オキシダント等の2次汚染物質が生成されることによって生ずるものであり、その反応プロセスは極めて複雑である。我が国では、45年夏以来毎夏、このような光化学大気汚染によると思われる目の刺激、のどの痛み、胸苦しさ等を典型的な症状とする健康被害が発生している。
 国においては、光化学大気汚染対策を総合的かつ効果的に推進するため、47年6月に12省庁からなる「光化学スモッグ対策推進会議」が設置され、同年7月に、早急に講ずべき暫定対策及び長期的に実施すべき基本対策を内容とする「光化学スモッグ対策の推進について」が決定された。同会議は、さらに50年4月に、より個別、具体的な対策を定めた「今後の光化学スモッグ対策の方向」を決定するに至っている。環境庁においても、これらの決定に沿って各種調査研究や対策を進めてきており、48年5月には光化学オキシダントに係る環境基準の設定を行った。また、工場・事業場や自動車から排出される窒素酸化物及び自動車から排出される炭化水素に対する規制強化等の諸対策を段階的に講じてきたところである。
 一方、地方公共団体においても、大気汚染防止法第23条にのっとり、光化学オキシダント緊急時対策要綱等を定め、光化学オキシダント濃度と気象条件に応じて、予報、注意報、警報等を発令し、発生源対策と住民対策を実施するなどの対策を講じてきている。
 この結果、光化学オキシダント濃度は、依然、全国ほとんどの地域で環境基準を超えることがあるものの、注意報等発令延日数や被害届出人数は減少してきている。しかしながら、気象条件によっては注意報が発令される事態がしばしば発生していることからみても、今後とも、汚染状況の推移を的確に把握し、適切な対策を講じていく必要がある。
(1) 光化学大気汚染の発生状況
ア 全国の注意報等発令状況
 57年の光化学オキシダント注意報(光化学オキシダント濃度の1時間値が0.12ppm以上で、気象条件からみて、汚染の状態が継続すると認められるとき発令される。)発令延日数は、全国で73日であり、54年以来4年連続して年100日以下の水準にとどまっている(第2-3-11表)。
 注意報等の発令日数の多かった時期について月別発令日数をみると、5月に21日、6月に25日、7月に8日、8月に14日となっており、気象条件の影響を反映し、盛夏の7〜8月より初夏の5〜6月に発令が多かった(第2-3-12図)。
 なお光化学オキシダント警報(地方公共団体により発令基準は異なるが、通例光化学オキシダント濃度の1時間値が0.24ppm以上で、気象条件からみて汚染の状態が継続すると認められるとき発令される。)は、54年以降発令されていない。
イ ブロック別注意報等発令状況
 光化学オキシダントの発生は、各地域の気象、地形、発生源状況等の条件の差異により大きく影響されると考えられるが、東京湾地域、伊勢湾地域、大阪湾地域及び瀬戸内海地域の4ブロックに区分し、最近5ケ年の注意報等発令日数をみると第2-3-13図のとおりである。
ウ 注意報等発令日における最高濃度
 最近3ケ年の注意報等発令日における光化学オキシダント最高濃度(1時間値)は、0.13〜0.14ppmに最も多く分布しており、それ以前の年に比べ、若干低下の傾向がみられる。なお、57年中に記録された最高濃度は、0.21ppm(6月5日、東京都武蔵野市)であった。
エ 被害届出人数
 57年の光化学大気汚染によると思われる被害者の届出人数(自覚症状による自主的な届出による)は、昨年の約6割にあたる446人で、45年に光化学大気汚染によるとみられる被害が発生して以来、最も少ない人数となった(第2-3-14表)。


(2) 光化学大気汚染緊急時対策
 注意報等の発令の判断に必要な気象データを得るため、環境庁では、毎夏季に光化学汚染の発生しやすい東京湾、伊勢湾、大阪湾及び瀬戸内海の4地域内の10地点で気象観測を行い、地方公共団体に気象情報の提供を行っている。また、気象庁では、全国8カ所の大気汚染気象センター及び11カ所の大気汚染気象予報業務担当官署で光化学大気汚染の発生しやすい気象条件の解析と予報を行い、地方公共団体に通報している。これら情報と測定局デーを基に、地方公共団体では光化学オキシダント緊急時対策要綱等により注意報等を発令すると同時にばい煙排出者に対する大気汚染物質排出量の削減及び自動車使用者に対する不要不急の自動車の走行の自粛を要請するほか、住民に対する広報活動と保健対策を講じている。
(3) 光化学大気汚染調査研究の推進
 光化学大気汚染は、広域にわたる極めて複雑な現象であり、それに関する調査も、光化学反応機構、移流拡散等の気象の影響、原因物質の排出実態、それらを盛り込んだ光化学大気汚染予測モデル、更には、二次生成物質の健康影響や光化学オキシダントによる植物影響など広範な分野にわたって行われており、それぞれ貴重な知見が得られている。
 まず、光化学反応理論の分野では、移動用スモッグチャンバーを用いた環境大気の光酸化反応の研究と国立公害研究所の大型スモッグチャンバーを用いた各種炭化水素−NOx−加湿空気系等での光酸化反応の研究が並行して行われており、光化学反応のより詳細で精密な理論化に向けて着実な進展がみられている。
 一方、このような光化学反応理論の進展と同時に実際の環境大気中での光化学大気汚染の実態把握も極めて重要な分野であり、航空機を用いた光化学反応関連物質の水平、垂直分布に関する調査やパイロットバルーンやゾンデを用いた上層気象に関する観測を行い、これらの実態把握に努めるとともに、地上の汚染物質濃度や地上気象との関連、光化学大気汚染における気象条件の関与等についても解析を進めている。
 さらに、上述の各種調査研究で得られた光化学反応モデル及び汚染質と気象に関する上層データに、一次汚染物質の排出に関するデータ及び常時監視による地上データを加え、光化学オキシダントの時間値を定量的に再現する物理化学モデルの研究も進められてきた。50年度よりはじまったこの研究では、東京湾地域等を対象に夏季の特定日の光化学大気汚染現象の再現計算を行い、モデルの精度向上に努めてきており、こうした成果を踏まえ、光化学スモッグ等の広域的大気汚染に適切に対処しうるよう配慮しつつ、今後、緊急時対策として具体的に活用していくこととしている。
(4) 炭化水素類排出抑制対策
ア 固定発生源からの炭化水素類排出抑制対策
 光化学大気汚染の原因物質の一つである炭化水素類の固定発生源からの排出抑制については、光化学スモッグ対策推進会議で決定された「今後の光化学スモッグ対策の方向」及び中央公害対策審議会の51年8月13日の答申等において、その対策推進の重要性が指摘されてきたところである。
 環境庁では、固定発生源から排出される炭化水素類(主要な固定発生源からの炭化水素類排出量は第2-3-15表のとおり)について効果的な排出抑制対策を講ずるため、54年11月以来、炭化水素類固定発生源対策検討会を設け、排出実態の把握、排出防止技術の評価等について検討を行ってきた。57年月、同検討会の報告書がとりまとめられたことから、その検討成果及び国立公害研究所等における最新の科学的知見を踏まえ、固定発生源に対する炭化水素類の排出抑制対策の強化、推進を図るため、環境庁は「光化学大気汚染防止のための炭化水素類対策の推進について」決定した。
 これは、炭化水素類排出抑制の必要性と固定発生源からの炭化水素類の排出実態及び排出防止技術の評価並びに今後の炭化水素類固定発生源対策の方向を決めたものである。
 その基本的な考え方及び施設別、業種別の排出抑制対策の概要は、参考資料15、16及び17のとおりである。
 環境庁は、57年7月、当面の措置として地方公共団体等関係方面に対して所要の要請を行った。
 今後は、今回決定した方針に基づく対策の実効をあげるとともに、排出量等のデータを基に固定発生源に対する炭化水素類排出抑制対策の推進を図ることとしている。
イ 自動車からの炭化水素排出防止対策
 自動車から排出される炭化水素に対しては、ガソリン・LPG車について、45年にブローバイガス(ピストンシリンダーのすきまから吹きぬける未燃の混合気をいい、炭化水素が主成分)の規制、47年に燃料蒸発ガスの規制が行われ、さらに、48年度規制により排気管から排出される炭化水素の規制が実施された。また、ディーゼル車についても、49年度規制により排気管から排出される炭化水素の規制が実施された。さらに、乗用車、軽量・中量ガソリン車及び軽貨物車については、50年度規制により規制強化が行われた。
 この結果、乗用車1台当たりから排出される炭化水素の量は、未規制時に比べて92%の削減となっており、また、軽量・中量ガソリン車、軽貨物車、重量ガソリン車、ディーゼル車1台当たりから排出される炭化水素の量は、未規制時に比べてそれぞれ65%、52%、10%の削減となっている。

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