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第3節 

4 環境問題への広域的取組

 以上、経済社会活動の形態が地域によってどのような特性を持ち、それがどのように環境へ影響を及ぼしているかをみてきた。
 次に、環境問題が地域の生態的特性によって、どのように異なってくるかをみることにする。すなわち、地域の特性に応じた環境問題への対応を図っていく場合には、その地域特性をもたらす要素として、これまでみてきた人の活動形態とともに、環境それ自体の持つ生態的なまとまりとつながりにも留意する必要がある。
 生態的なまとまりとつながりの要素としては、水系(又は水域)、地下水、大気、土壌、植生、野生生物分布など多くがあげられる。ここでは、このうち水系を例にとり、環境の持つ生態的なまとまりやつながりと、今後の行政課題との関連をみていくこととする。
 水系は水域と後背地を結び付ける領域である。すなわち、雨水は水域の後背地である森林地帯で保たれ、浄化され、河川に流れ、やがては海に流れ込み、再び、蒸発した水が、同じ循環を繰り返すことになる。
 環境保全施策を進めていく際には、このような水の循環全体を対象としていくことが望まれる。この意味で、瀬戸内海、伊勢湾、東京湾や湖沼などの水質の汚濁も、単に沿岸部だけの問題として処理することはできず、流域も含めて広域的問題としてとらえることが必要である。既に「瀬戸内海環境保全特別措置法」に基づく対策など環境としてのまとまりに着目し、行政単位を越えた広域的な取組が始まっているが、今後とも水質汚濁の問題に対しては水域と後背地を一体としてとらえ、自然環境の保全を含めた総合的な対策を講じることが必要である。このためには、水系ごとに総合的に水質を保全するための計画の策定について、策定主体や手法を含め、検討していく必要がある。
 環境問題は、全国一律的な対応だけではなく、それに関連する自然的、経済社会的条件によって、地域的にきめ細かく対応していくことも重要である。この場合、地方公共団体の果たす役割が極めて重要である。水質汚濁に関して流域の地方公共団体が協力し合い、水系全体の一体的な取組が必要なように、問題によっては都道府県の行政区画を越えた広域的取組が必要となる。また、国立公園などの大きなまとまりを持った自然や景観のすぐれた地域などについては、関係する複数の市町村が一体となって広域的にその保全に取り組んでいる。
 今後、ますます複雑、多様化していくことが予想される環境問題に対しては、問題の類型ごとに環境自身の持つ地域特性を踏まえた地域的まとまりを設定し、関係する地方公共団体間の連携による広域的取組を進めることが必要となってきている。
 国としても、このような広域的な取組を促進するため、地方における環境情勢の動向を十分把握した上で、問題ごとの基礎的情報の整備や政策手法の開発、制度的裏付け等の基礎条件の整備などについて所要の検討を進めていく必要がある。
 地域ごとの経済社会活動の特性や、環境のまとまりやつながりに着目した環境保全を進めることにより、地域住民が将来に向けてより良い環境を子孫に伝えていくことができることとなり、環境の恩恵をより身近なものとして享受できることとなる。

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