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第1節 

2 環境のもたらす恵み

 環境は人々にさまざまな恵みを与えている。
 まず第1に、環境は人間の活動の場であると同時に、人間の生存の最も大切な基盤となっている。また、人間を含む全生物を育む母胎でもある。
 第2に、環境は諸活動に必要な原材料を供給している。森林の生み出す各種の林産物、酸素、水環境の生み出す用水、漁獲物などである。
 第3に、環境は自然活動や人間活動により発生する物質を拡散し、貯留し、同化するという調整機能を持っている。森林による気候の緩和、大気の浄化、水源のかん養、表土の保全などの諸機能、河川や湖沼による汚濁物の浄化などはその一例である。
 第4に、環境の持つ感覚的な機能があげられる。風景、景観や野生鳥獣の生息する環境などがもたらす、いわば精神的な効用、アメニティ向上効果とでも呼ぶべきものである。豊かな緑や清らかな水の存在が情操を高め、心理的にもやすらぎを与え、身体の疲労を緩和するのである。
 環境のもたらすさまざまな恵みの多くは、貨幣で評価したり、計量化することが難しい。また、環境の持つ多様な機能は、それぞれを個別的にとらえるよりも、全体として一体的にとらえることが適切である。良い環境による恩恵は周辺の誰もが享受できるが、逆に、環境の悪化による被害も誰もがこうむる。さらに、環境の持つ浄化作用には限界があり、公害の発生や自然環境の破壊はいったん起こると、その対策には多くの費用と年月を要し、また、完全な回復は期し難い。
 すぐれた環境がいったん損なわれてしまうと、人々はともすれば環境のもたらす恵みを忘却しがちであり、美しい水や緑を求める心や自然を大切にする気持ちすら失ってしまうことにもなる。例えば、水と親しむことのできなくなった川には、子供も遊ばず、ゴミの不法投棄や生活廃水などによる汚濁が加速される。近年、児童・生徒達が身近な小川や山野などの自然と親しむ機会が減っているが、このような傾向は、人々の環境の保全に対する意識を低下させるものであり、その結果、自然の喪失が早められることになる。

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