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第1節 

2 公害苦情の処理状況

(1) 公害苦情相談員制度
 公害に関する苦情は、地域住民の生活に密着した問題であり、公害紛争の前段階的な性格を有するものであるから、その適切な処理は、住民の生活環境を保全するためにも、また、将来の公害紛争の未然防止のためにも極めて重要である。
 このような観点から、「公害紛争処理法」では、地方公共団体が関係行政機関と協力して、公害に関する苦情の適切な処理に努めるべきことを特に規定し、都道府県及び人口10万以上の市は、公害苦情相談員を置かなければならないものとし、人口10万未満の市及び町村は公害苦情相談員を置くことができるものとしている。
 56年3月31日現在、公害苦情相談員は全国で3,295人(47都道府県に1,489人、特別区に106人、人口10万以上の市(192市)に1,265人、人口10万未満の市及び町村に435人)置かれており、公害苦情の処理に積極的に取り組んでいる。
 公害等調整委員会は、地方公共団体が行う公害苦情の適切な処理のための指導及び情報の提供を行っているが、更に、55年度からは事務局内に「公害苦情処理情報センター」を設け、このための情報の収集・整理を行い、情報の提供、指導及び助言を積極的に行っている。
(2) 公害苦情の現況
ア 公害苦情の概況
 55年度に地方公共団体で受付た公害苦情件数は、64,690件で、前年度に比べ4,731件、6.8%の減少となった。
 苦情件数の年度別の推移をみると、47年度の87,764件をピークに51年度まで減少を続け、52年度から54年度までは増減幅は小さくほぼ横ばい状態であったが、55年度は減少を示した。
 55年度の苦情件数のうち、典型7公害に対する苦情は54,809件(苦情全体の84.7%)で、前年度に比べ4,448件、7.5%減少した。これを公害の種類別にみると、騒音が21,063件(同32.5%)と最も多く、次いで悪臭の12,900件(同19.9%)、大気汚染の9,282件(同14.3%)、水質汚濁8,269件(同12.8%)、振動の3,031件(同4.7%)、土壌汚染の230件(同0.4%)、地盤沈下の34件(同0.1%)の順となっており、騒音による苦情が目立っている。
 前年度の件数と比較すると、増加したのは土壌汚染のみで、他はいずれも減少した。特に減少の大きいのは、悪臭と大気汚染で両者を併せると3,228件の減少であり、減少全体に対する寄与率も67.6%と大きい。
 なお、典型7公害以外の苦情は、9,881件(同15.3%で、前年度に比べ283件、2.8%減少し、その減少幅は小さい。
ウ 公害の発生源別苦情件数
 発生源を典型7公害についてみると、最も多いのは製造事業所の17,897件(7公害全体の32.7%)、次いで商店・飲食店の7,231件(同13.2%)、建築・土木工事の5,899件(同10.8%)、牧畜・養豚・養鶏場の4,617件(同8.4%)、家庭生活の3,391件(同6.2%)の順となっており、これらで全体の約7割を占めている。前年度の件数と比較すると、減少した主なものは、製造事業所が2,738件減(対前年度比13.3%減)、次いで牧畜・養豚・養鶏場が1,273件減(同21.6%減)、建築・土木工事が628件減(同9.6%減)、娯楽・遊興・スポーツ施設が197件減(同27.3%減)などで、逆に増加した主なものは、商店・飲食店が767件増(同11.9%増)、次いで交通機関が245件増(同15.1%増)、家庭生活が134件増(同4.1%増)などとなっている。
 次に47年度から55年度までの構成比の推移(第7-1-2図)をみると、製造事業所は49.3%から32.7%へ、牧畜・養豚・養鶏場は10.9%から8.4%へと固定的な設備を持つものは減少したのに対し、建築・土木工事、交通機関のように発生源が一時的若しくは移動するものと、家庭生活、商店・飲食店(注)のように近隣公害的な苦情は増加を示しており、特に商店・飲食店の増加は顕著である。
 (注)昭和50年度以降新たに区分した。
エ 地方公共団体の人口規模別苦情件数
 地方公共団体(人口規模)別に苦情件数をみると、人口10万以上の市が、29,056件(苦情全体の44.9%)で最も多く、次いで人口10万未満の市が12,733件(同19.7%)、町村が10,022件(同15.5%)、東京都の特別区が6,860件(同10.6%)である。人口階級別に前年度と比べると、減少したのは、人口25万未満の市及び町村で、これらで4,439件、11.8%減少しており、逆に増加したのは人口密度の高い指定都市及び人口25万以上の市で、これらで797件、4.5%増加している。
 次に、人口規模別の地方公共団体における主な公害の種類別の構成比をみると、騒音・振動及び大気汚染は人口規模が大きくなるにしたがってその比率が高くなってきており、逆に水質汚濁は人口規模が小さくなるほどその比率が高い。また、悪臭は人口規模による差異はさほどみられない。
 更に、公害の種類及び人口規模別に前年度と比較すると、全般的に減少しているなかで、大都市(指定都市及び人口50万以上の市)で騒音・振動は逆に増加しており、これは、商店・飲食店や交通機関を発生源とする苦情件数の増加と照応している。
オ 苦情の処理
 55年度に地方公共団体に係属した苦情件数は、新規に受理した64,690件と前年度から繰り越された13,132件及び他から移送された1,362件の計79,184件で、このうち63,374件(処理率80.0%)が55年度中に処理されている。

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