2 国民参加の自然環境保全の推進
自然保護に関する民間の活動は、戦前から存在していたが、戦後大規模な自然改変が広がるにしたがい、その活動も活発になっていった。これは自然保護に関する国民の強い関心が背景にあったからであり、このような盛り上がりの一つの結果として49年6月には、自然保護団体が中心となって自然保護に関する国民的倫理の確立をめざした「自然保護憲章」が制定された。
国立公園においては、美化清掃や、利用者の指導についてボランティア団体の協力が活発に展開され、特に54年6月には富士山の山開きに先立ち徹底的な清掃を行うため、「富士山クリーン作戦」が環境庁、山梨県、静岡県及び(財)クリーン・ジャパン・センター等により実施された。同事業には約2万4000名に及ぶ人々が参加する等成功のうちに終り、その結果、約200トンのゴミを集めることができた。
同事業はその後も民間の美化清掃団体に引継がれ毎年続けられている。
50年代になると自然保護に関心を持つ人々が自らの負担で自然保護を行うという動きも出てきた。イギリスのこのような形態の自然保護活動としては、ナショナル・トラスト運動が有名である。同運動は、会員の出資、国民の贈与、利用料等を財源とし、美的、歴史的に重要な土地や建物を買取り保存することを目的としている。同トラストは、55年現在95万人の会員を擁し、所有地45万エーカー(約1,800平方キロメートル)、海岸線延長408マイル(約660キロメートル)を保有し、イギリスでは民間で最大の土地所有者となっている。
このナショナル・トラスト運動の日本における事例として、北海道斜里郡斜里町による「知床100m
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運動」や財団法人日本野鳥の会による「バード・サンクチュアリ運動」等がある。
「知床100m
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運動」は、民間からの寄附で、知床国立公園内の土地を買上げ植樹等を行うものである。一方、「バード・サンクチュアリ運動」は基金に基づき、野鳥の渡来地、繁殖地等をその周辺の環境とともに保護、管理し、人と野鳥のふれあいの場を提供しようという運動である。現在、北海道苫小牧市のウトナイト鳥獣保護区の一部にサンクチュアリが設けられている。
56年に内閣総理大臣官房広報室が行った「自然保護に関する世論調査」においても、イギリスのナショナル・トラスト運動について「このような運動は我が国でも必要である」が約7割を占めている。また、今まで自然保護運動に参加したことがない者でも、その5割の者は、これから自然保護運動が身近に行われれば、「参加したい」とするなど、自然保護に対する参加意識が高まってきている。
これは、貴重ですぐれた自然の喪失に対する国民の危機感の反映であると同時に、都市化の進展の中で、ともすれば見過ごされがちであった、居住地周辺の身近な自然に対する意識の高まりをも示していると言える。身近な自然の保全は、例えば、市民による海岸買取り運動(和歌山県田辺市)や、全国各地の河川環境保全のための市民運動として展開されつつある。
これら身近な自然環境の保全事例は、利用と一体となった保護がより良い保全にとって重要であるということをも示唆している。
国民の共有財産である自然環境については、公共的に保護を図ることを基本とし、あわせて国民の自然保護への積極的な参加意欲をいかし、国民全体で自然を守り育て、適切に利用していくことが自然保護をより実りあるものとしていく上で重要である。