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第2節 

3 自然公園制度の成果と課題

(1) 自然公園制度の概要
 自然公園は、我が国のすぐれた自然の風景地をできる限り自然の姿のまま後世に伝えられるよう保護するとともに、これを広く一般の利用に供し、積極的に利用の増進を図り、国民の保健、休養及び教化に資する目的で指定されている。
 この自然公園制度は、昭和6年の「国立公園法」の制定に始まり、9年3月には、瀬戸内海、雲仙、霧島の3国立公園が指定された。
 この「国立公園法」は、24年の国定公園制度を導入するための改正を経て、32年には「自然公園法」へと受継がれ、現在の、国立公園、国定公園及び都道府県立自然公園からなる体系が確立した。
 「国立公園法」制定以来50周年を迎えた現在、国立公園27か所、国定公園52か所、都道府県立自然公園294か所が指定され、合計面積5,292,112ヘクタールで国土面積の14.0%を占めるに至っており、自然公園は我が国における自然保護制度の中心としての役割を担っている。
 我が国の自然公園制度は、アメリカの国立公園制度の強い影響を受けて発足したものであるが、その制度には大きな違いがみられる。
 アメリカの国立公園は原則として公園専用地のみからなるが、国土も狭く、多様な経済社会活動の営まれている我が国では、自然公園のみのために、大面積の土地を確保することは困難である。このため、我が国の自然公園は、公園区域の土地の所有の如何にかかわらずすぐれた風致景観を有する地域を公園として指定し、公園内における風景を損なうような行為者に対しては、一定の公用制限を課するという、いわゆる「地域制」の公園制度を採用している。
 このような地域制の自然公園では、ある一定の土地の上に公園も含めた各種の土地利用が重複して行われるものであり、特に地域住民の生活基盤が公園と重複している場合には、これらの土地利用の調整が一層重要なものとなる。
 また、土地の買上げなどの制度の充実を図っていくことが望まれる。更に、費用負担問題も含めて地域住民及び公園利用者と一体となった公園の適正な保護管理と利用のための諸制度の充実が期待されるところである。
(2) 自然公園の適正な管理
ア 自然公園の管理
 自然公園の管理業務としては、景観を保護するための行為規制や利用を増進するための施設の整備及び利用者の指導が中心的なものであるが、最近は特に管理業務が多様化し、道路、発電所等の建設、スキー場、別荘分譲地等の造成など大規模な自然改変を伴う開発行為への対応のほか、国民の自然へのニーズの強まりなどを背景とする、公園利用者の増加への対応が求められている。
 例えば、自然公園内の過剰利用問題に対処するため、現在自家用車の乗入れ規制等国立公園内における自動車利用の適正化対策が、日光国立公園尾瀬地区、中部山岳国立公園上高地地区などで講じられているなどである。
 このような状況に対処するため、事務の適正円滑な処理に努めているが、基本的には管理体制の一層の充実強化が必要である。
イ 自然公園内の美化清掃
 自然公園の利用者増大がもたらす空きカン等ゴミ対策については、地方公共団体及び各地の美化清掃団体の協力を得て、美化清掃活動を実施しているところであるが、特に利用者の多い国立公園内の主要な地域の美化清掃を積極的に推進するため、現地における美化清掃団体が行う清掃活動事業に対し補助を行っている。
 更に、54年に設立された財団法人自然公園美化管理財団は、国や地方公共団体が実施する施策の方針を踏まえ、国立公園の主要な利用地において、公共駐車場の利用者にその費用の負担を求め、公園施設の維持管理、美化清掃、あるいは、自然解説などの利用者サービスを行うなど、きめ細かい事業を推進している。
 今後とも、美化清掃団体への助成、美化管理財団の事業の拡大等を推進し、自然環境のもとでの快適な公園利用を図っていくことが期待される。
ウ 自然公園の施設設備及び利用者指導
 自然公園の適正な利用を図っていくためには、公共施設の整備が重要であるが、これについては、自然とのふれあいの機会を提供するため、年々、歩道、園地、野営場や博物展示施設、自然研究路等が整備されてきている。
 前掲の「自然保護に関する世論調査」でも、自然公園内に欲しい施設として、「登山路、ハイキングコース、キャンプ場などの施設」21%、「公園地域内の内容がわかる解説展示館」17%、「野鳥や野生動物を観察できるような施設」15%などがあげられている。
 更に、整備された施設を有効に利用するため、また、公園の利用者の要求の変化に対応するためには、自然解説などの利用者指導も欠かせないものである。このため毎年、夏期を中心として全国の国立公園において「自然に親しむ運動」等の行事を行っている。
 今後とも、上記のような国民の期待を踏まえて自然とのふれあいを一層高め、また、自然の正しい理解や自然保護思想の啓蒙に役立つものを中心に、施設整備を進めるとともに、これとあわせて利用者指導の充実を図っていく必要がある。
(3) 自然公園の保護及び利用に関する費用負担
 地域制の自然公園制度をとっている我が国では、制度の運用に当たり土地所有者などの権利にも配慮する必要がある。前掲世論調査では、自然公園内の私有地の取扱いについて、「自然保護を強化する区域の私有地は国、地方公共団体が買上げる」28%、次いで「損失が生じたら土地所有者に補償する」25%、「土地所有者の利用を優先した上での自然保護」20%となっている。これに対して、「自然保護のためには利用を制限するのは当然であり、土地所有者に損失の補償をする必要はない」はわずかに6%であった。
 自然公園内の私有地に対する措置としては、42年度から46年度までは、都道府県が自然保護上重要な土地を買上げた場合、その費用に対し国の補助を行っていたが、47年度からは都道府県が発行する交付公債によって土地を買上げ、その償還元金等に要する費用について国が補助を行う特定民有地買上げ制度が発足した。
 また、強い規制を受ける地域については固定資産税等の減免措置が講じられている。
 自然公園制度をめぐる費用負担の問題は、公園内の私有地の利用制限に対する補償にとどまらない。すなわち、?自然公園では種々の開発行為が規制を受けているが、そのため、本来なら得られたはずの収益がないことへの補償、? 自然公園で利用者が増加したため排出物、廃棄物が増加し、それを処理するための地方公共団体の財政負担の増大などである。こうした問題に関しては、? どの程度不利益は受忍しなければならないか、? その不利益の補償については、誰がどのような割合で負担するか、などについて、今後検討していかなければならないが、その検討に当たっては国民的な合意づくりを図っていくことが重要であり、このような合意づくりを通じて自然公園制度の充実も図られていくといえよう。
 本節では、自然環境の適正な保全ということについてみてきたが、今後の自然環境保全施策を推進していくに当たっては、自然のもつ一体性や多様な機能を踏まえた「自然環境保全法」、「自然公園法」等に基づく関連諸施策の推進、自然保護のための国民の積極的参加が必要である。特に、自然公園制度は、昭和6年の「国立公園法」制定以来半世紀の伝統をもって発展してきたものであり、今後とも自然環境の保全を総合的に図っていく上での重要な役割を担うものである。自然公園制度を中心としつつ、自然環境の保全を図っていくためにも自然公園の管理体制の強化、利用の適正化とともに自然環境を利用するに際しての適正な費用負担、国民の役割等について、合意づくりを進めていくことが必要であろう。

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