1 自然環境の総合的保全
自然保護の法制化は既に明治時代から始まっていた。我が国を急速に近代化するためにとられた殖産興業政策によって、我が国の美しい自然景観や学術上貴重な地形、動植物が次々と失われ、また、都市の無秩序な拡大により災害の危険の増大、緑地の減少が顕著になり始めた。このような状況に対し、自然の保護の必要性が高まり、個別的にではあるが、関連法の整備が行われた。
すなわち、野生鳥獣の保護について定めた「狩猟法」(明治28年)の制定、風致保安林を始めとする保安林制度をとり入れた「森林法」(明治30年)の制定、「史跡名勝天然記念物保存法」(大正8年)の制定、すぐれた自然の風景地の保護と利用を目的とした「国立公園法」(昭和6年)の制定などである。
これらの自然保護関連の法律は、その後、時代の変遷とともに改正等が行われ、次第に自然保護の色彩を強めてきたが、戦後の高度経済成長期に、国土の開発が急速に進められる中で、自然改変が広域化、大規模化したため、自然環境保全の基本理念を明らかにし、自然環境保全のための政策を強化することに対する期待が高まってきた。このような期待は、次のような形で具体化されてきた。
例えば、昭和40年代半ばころから、都道府県で自然保護条例や自然環境保全条例が制定されたことである。これらの条例は、自然の雄大な風景地を形成していないため、自然公園制度の対象となり得ない自然地域についても、特異な生態系を維持している等、すぐれた自然を有している地域を地域指定することで、土地の形状の変更などの現状変更行為を制限することを目的としていた。
国においても「自然公園法」など従来の法制度だけでは、全国土を対象にした総合的な自然環境の保全には必ずしも十分ではないと考えられるようになった。このため、自然環境の保全について、?基本的な理念や基本方針を確立し、?「自然公園法」等個別法と相まって自然環境を保全すべき地域の保全を図り、併せて、?都道府県の自然保護関係条例に法的根拠を与えることを目的とする、総合的な自然環境保全のための法律制定への気運が高まった。こうして「自然環境保全法」が47年に制定され、更に48年には、同法に基づき自然環境保全基本方針が閣議決定されることになった。
「自然環境保全法」は、まず、「自然環境の保全は、自然環境が人間の健康で文化的な生活に欠くことのできないものであることにかんがみ、広く国民がその恵沢を享受するとともに将来の国民に自然環境を継承することができるように適正に行わなければならない」と自然環境保全の基本理念を明らかにしつつ、自然環境の適正な保全を総合的に推進していくべきこととしている。
また、同法により、原生自然環境保全地域、自然環境保全地域、都道府県自然環境保全地域の制度等が定められ、我が国にわずかに残されている原生的な自然あるいは貴重な動植物、地形、地質等を含むすぐれた自然が保護されることとなり、従来からの「自然公園法」及びその後に制定された「都市緑地保全法」等と相まって自然環境の保全が一層推進されることとなった。
また、自然環境保全施策の総合的な推進に当たっては、まず、自然の生態系や構成要素の相互関係等の自然環境に関する科学的知識の蓄積が必要である。
更に、そのような科学的知識をもとに自然環境に対する人間活動の影響が適正に評価されなければならない。
こうした検討を踏まえ、自然環境に著しい影響を及ぼすおそれのある事業の実施に当たっては、自然環境の保全について適正な環境影響評価を行っていくことが重要である。