2 海洋汚染防止対策
(1) 海洋汚染の未然防止対策
? 船舶等に対する規制
我が国では海洋汚染を防止し、海洋環境の保全を図るため、従来から、「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」により、船舶及び海洋施設からの油及び廃棄物の排出を規制し、これらの規制を担保するため、一定の船舶に対するビルジ排出防止装置の設置、廃棄物排出船の登録等を義務付けている。
しかし、国際的にはなお一層の規制強化の方向にあり、いくつかの条約が採択されてきた。そのうち1972年の「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」は既に1975年に発効しており、我が国としても同条約を国内法化すべく準備を進めてきたが、昨年5月第91回国会において同条約の批准が承認され、また、「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律の一部を改正する法律」が成立し、55年5月に公布され、同年11月14日(?について同年8月6日)から施行された。
この改正では、?海洋環境保全上特に注意を要する廃棄物の船舶からの排出等について「海上保安庁長官の確認制度」を設けること、?航空機からの廃棄物等の排出を新たに規制すること、?洋上における廃棄物等の焼却についても排出規制に準じて規制すること等同条約の批准に必要な措置をとるとともに、あわせて?ビルジの排出規制について、規制対象船舶の範囲の拡大を図った。
? 廃油処理施設の整備
船舶内において生ずる油性バラスト等大量の廃油を処理する廃油処理施設は、47年度までに整備を完了し、55年度においては、前年度に引き続き既存施設の改良を行った。
操業中の廃油処理施設は、56年1月20日現在、港湾管理者、民間事業車等の運営するものを併せて83港136か所である。
? 海洋汚染防止指導
海上保安庁では、55年3月及び8月に船舶の油取扱い作業時における漏油事故防止を主眼とした「船舶漏油事故防止推進期間」を設けるとともに、立入り検査、海洋汚染防止講習会、海洋汚染防止モニタ―制度等を活用して、国内海事関係者及び外国船舶関係者に対し、海洋汚染防止に関する思想の普及、法令の周知徹底、知識技能の指導等を行った。
また、運輸省は、大型タンカ―からの廃油(スラッジ)違法投棄事件に関連して、この種事件の再発を防止するため、大型タンカ―の所有者等に対し、船内における油の取扱作業の適正な実施、特にタンククリ―ニング作業における請負作業契約の適正化及び監督体制の強化について改善を行うよう指導した。
(2) 海洋汚染防止対策
? 排出油防除体制の整備
海上保安庁は、海上における油排出事故に対処するため船舶所有者等の原因者側に排出油防除資機材を備えさせるとともに、自ら巡視船艇、航空機の常時出動体制の確保、油回収装置等の排出油防除資機材の増強整備を図った。なお、大量の排出油等による海洋汚染等に的確に対応し、防災対策を効果的に推進するため、55年4月、海上防災課を設置した。
また、「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」に基づき、民間における海上防災のための中核機関として設立された海上災害防止センタ―の指導・育成を図っているが、同センタ―は55年5月に宇部沖で発生したタンカ―第三日丹丸廃油排出事故など、55年中に、8件の排出油防除に当たった。
更に、従来から全国の主要港湾に設置されている流出油災害対策協議会等の指導・育成を図るとともに全国各地において、官民合同の排出油事故対策訓練を実施した。
? 港湾及び周辺海域の浄化対策
港湾及びその周辺海域の海洋浄化のため、55年度には、港湾公害防止対策事業として東京港、四日市港、大阪港等14港において有機物質を多く含んだ底質等のしゅんせつ等を行ったほか、港湾環境整備事業として、東京港、大阪港等12港で廃棄物埋立護岸又は港湾において発生する海洋性廃棄物の処理施設を整備するとともに、清掃船の建造を行った。
また、48年度以降、港湾区域外の一般海域における浮遊油、浮遊ごみの除去を目的として清掃船の建造を行い、回収事業を進めてきている。
更に、海域の自浄能力の回復を目的とする底質浄化の事業をモデル的に行う海洋環境整備パイロット事業の実施設計調査を54年度に引き続き瀬戸内海において実施するとともに、伊勢湾において新規に着手した。また、底質等海域環境の調査を目的とした調査観測船2隻を建造した。
(3) 海洋汚染防止技術の研究開発
運輸省ではIMCO(政府間海事協議機関)の「1973年の船舶からの汚染の防止のための国際条約(1973年海洋汚染防止条約)に関する1978年議定書」により船舶に設置が義務付けられる機器のうち、汚水処理装置、油分濃度計及び油水境界面計の研究開発を終了し、タンカ―の原油洗浄技術及び有害液体物質用濃度計の研究開発を引き続き行った。
更に、海洋の浄化技術については、東京湾、伊勢湾及び瀬戸内海を対象に海底に堆積する有機物質を多く含んだ底質の除去効果等をは握するための現地調査を行うとともに、有機物質を多く含んだ底質のしゅんせつ技術の開発等を行った。
(4) 海洋汚染技術に関する国際的動向
船舶からの海洋の汚染の防止のための規制については、現在、国際的に「1954年の油による海水の汚濁の防止のための国際条約」(62年及び69年に改正)により実施されているが、73年11月には、これに代わる海洋汚染の防止のための包括的な条約として、「1973年海洋汚染防止条約」が採択されている。本条約は、1954年条約が規制対象物質を重質油のみとしていたのに対し、軽質油、ばら積有害液体物質、個品輸送の有害物質、汚水、廃棄物をも規制対象物質に加え、船舶に対する大幅な構造・設備規制等も規定しいている。
その後、更に、77年春、アメリカからタンカ―の安全及び汚染防止の強化に関する提案が行われIMCOにおいて検討が重ねられた結果、78年2月に開催された国際会議において、「1973年海洋汚染防止条約」の一部を修正のうえ、全面的に取り込んだ「1973年海洋汚染防止条約に関する1978年議定書」が採択された。同議定書は、「1973年海洋汚染防止条約」に比べ、一定タンカ―に対し分離バラストタンク方式(SBT)、原油洗浄方式(COW)、クリ―ンバラストタンク方式(CBT)等を義務付けることにより、タンカ―の構造・設備基準を一層強化したものとなっている。また同議定書では、その発効を容易にするため、付属書?(ばら積有害液体物質の規制)の実施について猶予期間を設定している。同議定書の締約国は、昭和55年12月現在アメリカ、イギリス、ノルウェ―、スウェ―デン、リベリア等10か国であるが、各国とも早期批准を要請されており、我が国としても、本議定書をできるだけ早期に批准、国内法化するために鋭意、検討を進めている。