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第1節 

2 土地利用の適正化

 わずか38万平方キロメ―トルの狭小な国土の中で森林が約7割を占めている我々のが国土において、生産、流通、消費活動は著しく過密になっている。GNP、鉱工業生産はアメリカに次ぐ自由世界で第2位の規模をもち、自動車保有台数は3,500万台でその年間総走行距離は地球を約120万回も回る程になっており、3,500万を超える世帯が生活している。これらを可住地面積当たりの比較で見ると他の先進国とは比較にならない高密度なものであることは第2章第2節で見たとおりである。
 物的な豊かさと利便さを求めて生産、流通、消費を拡大し、そのために農地の宅地、工場用地への転用、交通網の整備、河川の改修等を行い、都市域を急速に拡大してきた。これは人工の物質・エネルギ―の流れの動脈流の拡大を専らにした自然の改変であり、国土の土地利用の進展であった。
 しかし、今日公害や自然環境の破壊が激化したことによって、環境保全に着目した土地利用政策が必要になってきている。これは、物質・エネルギ―の静脈流の事前的処理という観点から汚染の排出規制などの発生源対策と同時に、土地利用規制によって環境利用を規制することが必要になってきていることを意味している。このため現在都市域の環境保全等の観点から東京、大阪等大都市における工場立地の抑制、用途地域の指定等が行われているほか、工業団地の造成、事業所の誘導地域への移転の促進が行われるなど工場立地の適正化が行われている。
 土地利用の適正化については、自然へのニ―ズの増大を背景としてさらに広く、都市、農山村などの人為自然、原生自然のそれぞれの利用の態様に応じた環境保全を土地利用政策のなかで展開して行くことが求められているといえる。都市や人為自然における自然と人間との潤いと多様性を備えた接触をより豊かにするとともに、原生自然の自然の活力を保全していくような方向での土地利用である。
 このため、安全性と物的な豊かさと利便性を機能主義と効率主義によって追求していくだけでなく、最適な環境を可能にするような土地利用政策の展開が不可欠である。現在、都市域においては「都市計画法」、「首都圏の既成市街地における工場等の制限に関する法律」、「工業再配置促進法」など各種法令に基づき様々の土地利用規制が行われている。また、55年度には新たに「都市計画法」の改正が行われ、地区計画の策定が行われるようになったほか、「幹線道路の沿道の整備に関する法律」が制定されるなどの進展が見られる。
 一方、都市域とは対極的な位置にある原生自然域は、それ自体が稀少なのものであるとともに、人間と自然とがもつ本源的な関係を教えてくれるものであり、我々の世代が後代の人々に伝えていかなければならない貴重な財産である。しかもこれらの自然は開発等によりいったん人工の手が加わると、新たに復元することが不可能なものが多い。このため、「自然環境保全法」、「自然公園法」などに基づいて保全を要する地域の指定と開発行為の規制、自然の活力の積極的は保全が現在行われている。
 国民生活の豊かさが確保されるにつれて、国民の自然へのニ―ズは強まっており、豊かで潤いのある自然との接触を可能にするような土地利用政策が重要性を増しているといえよう。都市と原生自然との中間的な位置を占めている人為自然との接点にある豊かな自然の確保は都市を住みやすいものとするために、重要なことである。このような自然へのニーズを充足するために、都市周辺の自然の改変には慎重な対応が必要になってきている。このような中で、「国土利用計画」や「第3次全国総合開発計画」は、自然環境の保全を図りつつ、地域の自然的、社会的、経済的及び文化的条件に配慮して健康で文化的な生活環境の確保と国土の均衡ある発展を図ることを基本理念とし、その中で土地利用政策等を通じて人間との共生関係を見出していこうとしたものである。

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