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第3節 

3 発展途上国における環境破壊

 1950年から1975年までの四半世紀に世界人口が60%の増加を示したことは既に述べたところであるが、この増分約15億5、000万人の80%は発展途上国における人口増であり、発展途上国全体では同じ四半世紀で75%の増加率を示している。
 このような発展途上国における急増する人口圧力は、先進国の協力によって進められている様々な開発事業とあいまって発展途上国の環境を急速に変化させている。発展途上国における近年の人口の急増は先進国からの経済援助に負うところが大きいが、このような経済援助にもかかわらず依然として燃料の8割〜9割を薪に依存し焼畑農業や放牧など自然の再生産力に深く依存した農業生産が営まれている地域も多い。このような場合、人口圧力から自然の再生産のバランスを超えた自然の収奪が進行し、加速度的に環境悪化を引き起こすと同時に、そのために自然の再生産力に依存した生産、生活自体が危機に頻するという事態が起こりやすくなっている。
 このような発展途上国における環境破壊のなかで、特に、森林の減少と砂漠化の進行が注目されている。
 (森林の減少)
 森林は、現在28億ヘクタ―ルで地球上の総陸地面積の約22%を占めているが、この森林は経済的資源としての重要性の他に、大気浄化、土壌固定、気候調節、水循環の調整及び野生生物の生息地としての機能等を通じ地球全体の生態系のなかで極めて重要な役割を担っている。この森林資源の現状と将来について、FAO、UNEPあるいはIUCN等の国際機関が1970年代後半から主として熱帯地域の広葉樹林の減少に注目して様々な警告を発している。
 第1-3-5図はFAOが1978年に発表した世界の森林の面積の地域分布を示したものであるが、これによれば世界の森林全体の約46%が発展途上国の森林で占められている。この発展途上国の森林のうち7割弱が熱帯雨林と推定されているが、この熱帯雨林の急速な減少が世界各地で見られている。
 第1-3-6表はFAOが1978年の世界農業白書(TheState of Food and Agriculture)で明らかにしたいくつかの地域での熱帯雨林の減少の姿である。このような急速な森林の減少は、世界的な木材需要増による森林の伐採や発展途上国における人口増加を背景とした焼畑農業の拡大と燃料用木材の伐採の増加に起因するものと考えられている。
 森林の減少の将来予測はいくつかあるが、IUCNがUNEP、WWFの助言、協力、財政援助の下でFAO、UNESUCOの協力を得て作成した世界保全戦略(1980年)では、「生産性の高い熱帯雨林の残存面積は、現在の森林開発速度で開発が続けば、今世紀末までに半減しよう」と予測しており、また、米国政府の「西暦2000年の地球」報告でも同様に悲劇的な予測がされている。このような森林の減少は、野生動物の生息地の減少や発展途上国における森林資源の枯渇などの直接影響とともに、特に山地等の侵食作用の激しい地域や熱帯の大部分に見られる土壌の比較的薄い地域において回復の極めて困難な大量の土壌流失と保水力の低下をもたらし、これが下流域での洪水を引き起こし、さらには、地球全体の物質・エネルギ―循環にも影響を及ぼす可能性が懸念されている。
 (砂漠化の進行)
 この森林の減少とそれに伴う土地の荒廃に密接な関連をもって砂漠化の進行が注目されている。現在地球上には約8億ヘクタ―ルの砂漠地帯(極乾燥地域)があるが、不適切な農業、燃料採取のための過度の木材伐採あるいは多数の家畜の放牧によって地表が荒ぶ化し、砂漠が拡大している事例が報告されている。このような砂漠化の進行の危険に対し、国連は1977年に国連砂漠化防止会議を開催したが、そこでサハラ砂漠が最近17年間で南方に100km拡大した事例やチリのアタカマ砂漠が10年間に100kmの拡大が起こった事例が報告されている。
 前記世界保全戦略によれば、世界全体で砂漠化の危険が高い地域は、約20億ヘクタ―ルに上り、その中でも差し迫った砂漠化の危険のある地域は3億5、000万ヘクタ―ルに達していると推定されており、また米国の「西暦2000年の地球」報告においては、西暦2000年における砂漠の面積を現状、8億ヘクタ―ルから25%拡大した10億ヘクタールになると予測している。
 このような発展途上国における環境保全の課題についての国際的な協力体制の必要性は、近年になって様々な国際機関や国際会議において強調されている。例えば、1972年の国連人間環境会議の勧告により設立された国連環境計画は、人間環境の保護と改善のための国際協力を促進しているが、近年は土壌保全、熱帯林の保護、砂漠化防止等特に発展途上国における各種プロジェクトの充実を図っている。

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