4 快適な居住環境づくり
定住傾向の強まり、生活の質に対する人々の欲求の強まりなどの条件変化の中で、静けさ、のびのびした歩行空間、身近な緑や水辺などの自然とのふれあい、町並みの美しさ、あるいは地域の個性の感じられる歴史的環境などの快適な環境に対する人々の関心が高まってきている。環境の質を求めるこのような新しい社会的要請は、これまで急速な人口とサービス経済の都市集中の中で悪化してきた環境の質を見なおすと同時に、急速な都市化の中で失われてきた環境の潤いや落着きをとりもどそうとする人々の意欲の現れである。
環境政策は、このような快適な居住環境づくりへの新たな対応を求められている。その基本的方向として次のような方向が考えられる。
その一つは、地域の人々の多様な価値観と創意の重視である。快適な環境づくりの動きは、既に、全国各地で「まちづくり」や「水辺環境の創造」など、地方公共団体、地域住民などが一体となった自主的な運動として展開されつつある。これは、生活や時間のゆとりを活かして、地域の人々が地域の共有財産である環境を自らの創意と努力で創りあげようとする指向を持ってきたことの現われである。このような地域の人々の創意と自主性が活かされてはじめて人々が愛着を持てる快適な居住環境が形成されていくものであろう。
従って、快適な環境づくりのための政策の展開に当たっては、人々のニーズをその基本とするとともに、地域の人々の多様な価値観と要求を望ましい環境像にまとめあげていく合意形成のシステム作りが必要となろう。また、住民の自主的活動を側面から支援することが快適な環境づくりにおける行政の重要な役割となると考えられる。
その二つは、地域それぞれが持つ快適さの素材の活用である。身近な環境を快適なものにして行くためには、今ある環境の素材をどう活かして行くかということがまず考えられなければならない。これまでの都市化の中では、身の回りの海浜、湖際、林、小川、ため池あるいは町並みなどの持つ価値が忘れられ、それらの環境の素材が損なわれ、快適さを失った都市が形成されてしまったという例が多くみられる。地域それぞれの特色をもった快適な環境をつくり出すためには、身近にある緑や水辺あるいは歴史の跡などの環境の素材を見直し、これを活かした快適な環境像が考えられなければならないだろう。
その三つは環境創造への努力である。
大都市など既に身近な自然や歴史の跡の改変が相当に進んでしまった地域においては、快適さを求めた積極的な環境創造が行われなければならないだろう。そのためには、公園や街路の緑の整備と並んで道路、公共建築物あるいは港湾の整備などについても、これまでの利便を追ってきた軸に、生活環境について快適さを求める新しい社会的要請に応えるための軸をどうはめ込んでいくか考えていかなければならない。
他方、美観や土地利用の面で最低必要な規制を厳しく設けるということも、人々の合意の形成があれば可能なはずであり、そのような規制の選択肢を用意し、合意の形成を円滑に進める上での専門家の能力を大いに活用する必要があるといえよう。