2 エネルギーと環境
1980年代における環境政策を考える上で、環境への負荷をめぐる条件を大きく変える要因の一つは、最近のエネルギー情勢である。1973年の第1次石油危機につづき、1979年の第2次石油危機の発生からもわかるように中長期的にみても、世界の石油の需給は逼迫傾向を強めていくものと予測されている。このような状況下で、新たなエネルギー政策の展開が求められている。その中で多面的な石油代替エネルギーの開発・利用を進めるに当たっては、環境保全に十分留意しなければならない。
このため、第1に現在のエネルギー消費が生み出している環境への負荷を軽減するため省資源・省エネルギーを推進しなければならない。1970年代後半に入って石油価格の高騰に伴って我が国の産業構造は石油消費の増大を抑制し、省エネルギー型へと転換してきている。また、石油危機の中で進展してきた個々の企業や家庭におけるエネルギー節約のための努力は、石油の供給が豊かで安定的であった時代には捨てられていたエネルギーや資源を再利用し、あるいは無駄な利用を抑制しようとする新しい動きとして定着してきている。このような省資源・省エネルギーを推し進めていくことは環境面からも大きな意味のあることである。
第2に、石油代替エネルギーの開発・利用に当たっては、これまでの環境基準の維持・達成を図るという原則を堅持し、今後とも公害防止施策を確実なものとしつつ、公害防止努力を進めていかなければならない。大量のエネルギー需要を満たしていくためには、石油に代る大量のエネルギーが必要であり、これは環境負荷の質的、量的変化をもたらす可能性がある。
このような環境への負荷の質的・量的な変化に対して、これが環境に対し過剰な負荷を生むことのないよう、適切な対応を進めていかなければならない。
第3に自然環境の保全に対する配慮に必要性である。例を地熱の開発・利用にとれば、その賦存地域の多くが国立・国定公園など国家的観点から保全を図っている優れた自然環境を有する地域に多いことから、開発が自然に及ぼす影響などが懸念される。
従ってその開発利用に際しては、自然環境保全上重要な地域の開発を避けることを基本とするなど自然環境の保全についての特に慎重な配慮が要請されよう。
第4に、石油代替エネルギーの開発・利用に当たっては、中長期的な環境保全への配慮をはかっていくとの考え方に立つことが必要である。
今後はエネルギー源別では、石油消費が相対的に減少し、石炭、LNG、原子力、地熱等の開発・利用を指向したエネルギー転換努力が進められていくものと想定されている。このようなエネルギー源の変化は、これを輸入あるいは国内開発する段階と国内における流通の段階、そして生産プロセスでのでの利用段階とそれに伴う廃棄物の処理の段階の四つの段階で、これまで石油が大宗を占めていたエネルギー供給のもたらしていた環境への負荷とは質的、量的に異なった負荷がもたらされると予想される。
今後石油代替エネルギーの開発・利用を進めていく上で大きな役割を担うとみられる石炭の利用増大により石油との形状や組成などの違いから、流通段階での輸送、貯炭などに伴うふんじんの発生、生産プロセスの燃焼過程における硫黄酸化物、窒素酸化物、ばいじんなどの発生、廃棄物としての石炭灰の発生が予想される。
また、地熱の開発・利用については、自然環境の保全という観点から極めて慎重な配慮が必要である。
すなわち、石油代替エネルギーの開発・利用を通じて国民生活の安定と充実を図りつつ社会全体の福祉の向上を実現していくためには、石油代替エネルギーの経済的効率や安定的な供給の確保の観点からの対応に加えて、石油代替エネルギーの開発・利用に伴う環境汚染を未然に防止するという環境保全の観点からの対応が必要である。そのため開発・利用を進めていこうとする個々の具体的なエネルギー開発導入プロジェクトについて、開発、流通、生産プロテス、廃棄の各段階で、大気、水質、土壌、自然などの環境に、どのような負荷がかかり、それがどのような汚染を発生するか予測しつつ、できる限り環境の配慮を払っていく必要がある。