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第3節 

2 都市・生活型公害の防止

 第2章第4節でみたように発生源が複雑多岐にわたる汚染であり、発生者が事業者のみに限定できない都市・生活型公害については、直接的な排出規制と同時に、例えば自動車交通公害の場合、大型車の通行制限、車線指定などの走行状態の改善策や大量公共輸送機関への転換など、交通の量的な抑制策がとられるなど各種の部分的利用制限を段階的に積み重ねる試みがされており、また土地利用規制も併用されてきている。更に生活排水のように発生源に対する規制のみでは十分に解決できない場合には、下水道、地域し尿処理施設などの例のように、国又は地方公共団体が生活からの排出物を集約した上で、最終段階で処理を行うなど種々の手段が導入され各種の手段の組み合せにより汚染の除去の努力がなされている。
 利用規制により水質汚濁の防止を図るものとして注目されているのが、滋賀県の「琵琶湖の富栄養化の防止に関する条例」の制定である。琵琶湖の富栄養化はプランクトンの増殖などにより上水道のろ過障害や着臭、漁業被害などをもたらしており、これに対して工場などの排水中に含まれる窒素、リンの濃度を規制するとともにその大きな要因となっている家庭排水中に含まれるリンを削減するためリンを含む合成洗剤の使用、販売を禁止することとなっている。
 このような生活排水による汚濁防止のためには、下水道の整備が肝要であり、逐次整備が進められている。同時に、下水汚でいの処理も重要であり、このためこれに処理を加えて、緑農地に肥料として還元するなど汚でいの有効利用も図られている。
 また、河川、湖沼などでの清掃活動の面でも最近では、「○○川をきれいにする市民の会」のような市民団体によるごみ収集、河川、湖沼などの美化運動が広がっている。
 騒音、振動などについて発生源対策とあわせて、時間帯を設けた利用制限が行われている。空港における深夜から早朝までの航空機の離発着の禁止や観光地などにおいて一時的、局地的に自動車交通の増加が予想されるような場合、乗り入れ規制を行うことは、それ本来の目的を妨げず、同時に周辺住民の被害も防ぐことになる。また通勤時における道路混雑、大気汚染、騒音などを防止するためにバスレーンを設け、自動車交通を制限することはこれと一体的にバス、鉄道等を整備充実することによりマイカーから大量公共輸送機関へ誘導することになり、都市・生活型公害対策として効果も期待できる。そのため最近このような時間帯を設けた利用規制の導入が増加している。その他にも交通管理による負荷の低減が図られており、信号制御と組み合せた速度規制、住宅地区道路での大型車の通行制限などの生活ゾーン規制などが行われており、更に交通情報の提供、自動車運転手への啓発活動など多種多様な手段を用いその負荷の防止が図られている。
 「家庭用品品質表示法」は、例えばルームクーラーなど家庭用品から発生する騒音の大きさなど品質の表示の適正化を図っているが、これは個々の消費者がその住居の状態、近隣関係を考慮した上で商品選択を行うとともに生産者も商品の低騒音化を進めるという自主的な対応により問題解決が図られるという点で大きな意味をもっている。
 個別の発生源に対する排出規制では十分な防止効果があがらない場合の一つの方策として土地利用の適正化があげられ、特に高密度社会である我が国においては重要である。例えば、流通業務地区を設け、いわゆる流通団地を郊外に置き、そこで一元的に物流を処理することは流通業生産性向上につながるとともに市街地での過度の自動車交通を削減することになる。また、53年に制定された「特定空港周辺航空機騒音対策特別措置法」により、航空機騒音防止地区、同特別地区を定めることができ、特別地区では学校、病院、住宅などは特別の理由がある場合を除き建築できないこととなっている。これら、流通業務地区、航空機騒音防止地区や用途地区、特別用途地区などを定めることにより、都市空間の計画的配置を目的とした「都市計画法」、あるいは大都市における工業の立地制限を目的とした「首都圏の既成市街地における工場等の制限に関する法律」、「工場再配置促進法」など各種法令及びそれに基づく土地利用規制が充実してきている。このような個別規制の拡充・強化とともに、土地利用に関する基本法である「国土利用計画法」が49年に制定されており、望ましい国土の利用のあり方を示す国土利用計画、土地利用基本計画の策定等を定められているが、環境保全はこれらの計画の大きな目的の一つとして位置づけられている。
 空港を利用することの利便が同時に騒音などの環境負荷を生んでいるため、空港の利便を高めるための空港整備を一体化しつつ、空港周辺の土地利用、騒音防止対策など環境保全が図られてきている。空港整備を進めるためには、その費用が航空機利用者に内部化されることが重要である、このため空港の維持・運営、整備に要する財源を充実する観点からジェット機に対する特別着陸料が導入され、航空会社は旅客からジェット特別料金を徴収することにより、空港整備に要する経費の一部を利用者が負担する仕組みが整備されてきている。新幹線鉄道についても防音工事等障害防止対策が国鉄によって進められている。

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