(1) 国連環境計画(UNEP)
昭和47年にストックホルムで開催された国連人間環境会議を契機に、既存の国連システム内の諸機関が行っている環境関係の諸活動を一元的に調整し、かつ、これら諸機関が着手していない環境問題にイニシアチブを与えることによって、国際環境協力を促進することを目的として創設された国連環境計画は、今年で6年目を迎えた。我が国は、当初から理事国の一員として参加するとともに、環境基金に対し、昨年までの5か年間にその10%に当たる1千万ドル、53年は300万ドルを拠出する等多大の貢献を行ってきた。
ア 管理理事会
第6回国連環境計画管理理事会は、我が国を含む52の理事国のほか、非理事国、国連機関、国連専門機関、その他国際機関及びオブザーバーが参加して、53年5月9日から25日までナイロビで開催された。
主な議題としては、UNEP活動の全般的なレビューのほか、1980年代の新国際開発戦略(NIDS)の策定に当たっての環境的側面からの協力、52年に開催された国連砂漠化防止会議のフォローアップ、環境調整委員会(ECB)の行政調整委員会(ACC)への併合、78年度予算の増額問題等が挙げられる。我が国は、会議においてアジア・太平洋地域におけるプロジェクトの増加及び邦人職員等の採用増加を要請し、特に前者に係る決定の共同提案国になるなどのほか、UNEP財政の健全な運営のための方策を提言するなどして積極的な対応を図った。
この会議の結果は、16の決定としてまとめられている。
イ 非公式協議
54年4月に開催される第7回管理理事会に先立ち、その準備会合の性格を有する非公式協議が、54年1月に開催された。
この協議では、管理理事会開催の周期、期間を今後どのように考えていくかをはじめとして、1980年の事務局長の「世界の環境の現況」に関する報告のテーマの選択、52年に開催された砂漠化防止会議のフォローアップ、環境の友のネットワークの推進、環境基金に対する各国政府の拠出増額問題等が討議された。
ウ ストックホルム会議以後10年の環境の現況プロジェクト
UNEPは発足以来、世界が直面している主要な環境問題を取り上げ、世界に対する警告という意味を含め、毎年管理理事会に「環境の現況」として報告してきたが、更に5年ごとに大規模に世界の環境の現況を把握し、報告するプロジェクトを開始することとした。その第1目標は、ストックホルム会議開催から10年目の57年とされている。
このプロジェクトの内容としては、大気、水、岩石圏の1970年代初めの状況と1982年の状況を比較し、人口、人間居住、鉱物資源、エネルギー、工業産物、社会的文化的発展等の関連を総合的に検討することが計画されている。
このプロジェクトの推進に当たっては、世界中から環境に関連する分野の学者が参加しており、既に53年4月と10月に会議が開催された。我が国からも2名の専門家がこれに参加している。
エ 将来の環境政策の方向付けに関するUNEPの活動
UNEPは、広義の環境問題を担当する立場から、先進国、発展途上国を通じた将来の環境政策のあり方につき検討を行っている。
その第一は、省資源、省エネルギー型の新しい開発パターンに関するものである。UNEPは、現在国連で検討中の「第三次国連開発のための10年」(新国際開発戦略とも呼ばれる。)に関し、単なる従来型の経済開発の推進は、地球の資源、エネルギーの賦存量の有限性という観点から難点があり、省資源、省エネルギーの新しい開発パターンによることが不可欠であるとの趣旨を盛り込もうとしている。
第二は、環境政策に関する費用便益分析に関する研究である。UNEPとしては、環境保全施策の促進という立場から、そもそも環境保全は、費用よりも便益が大きいものであるという実証を行い、これを特に発展途上国に提示してその環境保全のための施策を促進することをねらっているものである。費用便益分析については、特にその便益サイドの定量化が極めて困難であり、この活動についても問題が多く残されているが、その動向は今後十分注視していく必要がある。
オ 産業と環境プロジェクト
このプロジェクトは、個々の産業活動が環境にどのような影響を与えるかを検討し、各国政府および企業が行う環境保全対策に資することを目的としており、具体的には、各国政府、産業界、労働界の代表が一堂に会し、個別の産業毎に原料から生産、消費までの各段階における環境への影響およびその解決のための対策、国際協力の必要性等についての検討を行っている。53年12月には、本年5月に開催される化学工業ワークショップの準備会合が開催され、これに対しては我が国からも専門家が参加した。
カ ESCAP/UNEP環境保護法制政府間会合
我が国は、ESCAP地域における各国の環境行政の充実に対する積極的な寄与に努めており、ESCAP(国連アジア太平洋経済社会委員会)が、UNEPの援助のもと、53年7月、バンコックで開催した環境保護法制政府間会合に参加した。本会議では、数年来、日本の専門家も含めて作業を続けてきた専門家会合のレポートに基づき討議が行われたが、ESCAP地域各国の環境法制の現況がレビューされ、今後の行政の充実に当たって国際的に対応すべき問題点が検討され、更に、今後のUNEP等国際機関に期待される努力の方向が取りまとめられるなどの成果が挙げられた。
(2) その他の環境保全のための多国間協力
ア 海洋投棄規制条約
「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」は、47年11月に採択され、50年8月に発効した。この条約の第3回締約国協議会議は、53年10月にロンドンで開催され、洋上焼却の規制に関する条約の改正等が行われた。これは、有機ハロゲン化合物等を含有する廃棄物の処分の一方法として洋上における焼却が行われていることにかんがみ、これに伴う海洋の汚染等の発生を防止することを目的として改正されたものである。
我が国としては、改正された当該条約を批准すべく、国内体制の検討を行っている。
イ ラムサール条約
「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」(ラムサール条約)は、重要な湿地の国際登録等による保全を通じて水鳥の保護に寄与することを目的としており、46年2月イランのラムサールで採択されたものである。我が国もその批准につき鋭意検討を進めてきたが、54年2月批准のための国内措置につき見通しが得られたため、承認を求めるべく第87回国会に本条約を提出している。