OECD(経済協力開発機構)の主たる目的は、?経済成長、雇用と生活水準の向上、?開発途上国の援助、?多角的な自由貿易の拡大の3つであるが、先進工業国共通の悩みである失業、インフレーション、資源・エネルギー問題、社会福祉、環境問題等の分野においても、OECDは活発な活動を展開している。
(1) 環境委員会
1960年代末の全世界的な環境問題への関心の高まりを反映し、科学政策委員会において取り扱われていた環境問題を専門的に検討するため昭和45年7月環境委員会の設置が決定された。
環境委員会及びその下部機構である経済専門家、大気管理、水管理、化学品等の各グループ(53年現在12のグループが設けられている。)は、加盟各国の環境問題に対する高い関心を背景に活発な活動を続けており、我が国も、積極的に活動に参画し、我が国の実情を各国に的確に認識させるとともに、各国の知識、経験、技術等を吸収して政策に反映させるよう努めている。
環境委員会では、加盟各国政府が環境政策を企画・推進する上で重要と思われる問題について検討が行われ、その結果は必要に応じて理事会の議事を経てOECDの決定(各加盟国を拘束する。)、あるいは勧告(各加盟国を拘束しないが道義的な制約を課す。)として採択されるほか、調査、研究等の成果がレポートとして公表され広く活用されている。なお、53年度までにPCB規制に関する決定のほか、汚染者負担原則に関する勧告等24の勧告が行われている。
以下に環境委員会の下に所属する各グループの53年度における活動状況を述べる。
ア 経済専門家グループ
本グループは、環境問題の経済的側面を検討するグループであり、環境委員会の中でも重要な地位を占めている。このグループにおいて最も力を注いでいる活動の一つは、環境保全のための金融・財政上の助成措置に関するガイディング・プリンシプル(昭和47年「環境政策の国際経済面に関するガイディング・プリンシプル」の理事会勧告)の実施状況の検討である。このため、各国の実施状況の調査、助成措置が各産業の生産費及び価格に及ぼす効果についてのケース・スタディ並びにその国際比較を実施しているほか、53年度においては、特に、公害防止支出、費用のデータ・バンク化について、その方法論の検討が開始された。このグループにおけるもう一つの重要な活動分野としては、環境政策が一国の経済活動に与える影響や、逆に経済活動が環境問題、環境政策に与える影響を分析することが挙げられる。ここでは、我が国をはじめとする各国の経験、計量経済モデルに基づく計算結果が紹介された。
イ エネルギーと環境グループ
本グループでは、53年度には、1980年代中頃までの二酸化硫黄の排出状況に影響を与える低硫黄原油の供給状況や重油脱硫、排煙脱硫技術の動向についての分析を取りまとめ公表したほか、1980年代に向けてのエネルギー利用状況、とりわけ、石炭の利用拡大に伴う各種の環境影響の極小化の方策について検討を行っている。また、原子力機関(NEA)との協力の下に、原子力エネルギー開発に伴う環境問題、特に放射性廃棄物の最終処理と処分に関しても検討を進めている。
ウ 越境汚染グループ
本グループの主要な活動分野は、越境汚染に係る国家の責任についての検討である。
国境隣接地域において越境汚染を引き起こす危険性のある工場等が立地するような場合の問題について、53年7月21日には、「国境地域における環境保護に係る国際協力の強化についての理事会勧告」が採択された。また、52年度に引き続き、多数汚染源による越境汚染、とりわけ国際水域について、その管理手法、組織に関する検討が進められた。
エ 廃棄物管理政策グループ
本グループでは、廃棄物管理政策における経済的インセンティヴの利用、例えば、生産品に対する課徴金等に焦点を当てて検討を行い、水銀電池、廃自動車、廃油等を例に各国のケース・スタディが報告された。特に、故紙再生については従来から詳しい検討が進められている。
このほか、製品の寿命の延長、分別収集と清掃工場における機械分別との比較等のプロジェクトが行われた。分別収集については、我が国の事例が紹介されている。
オ 騒音低減政策グループ
騒音低減政策グループでは、経済的インセンティヴ等の間接的対策手段や規制等の直接的対策について検討を進めていたが、その結果は、53年7月3日、総合的な騒音低減計画の作成等10項目よりなる「騒音低減政策についての理事会勧告」としてとりまとめられた。
カ 水管理グループ
本グループにおいては、従前より水管理政策手段をテーマとして取り組んできたが、53年4月5日、水資源に関する長期的管理計画等10項目よりなる「水管理政策および手段についての理事会勧告」が採択された。
このほか、具体的に、各国における水質管理と水量管理がいかなる方法や手段で実施されているかを知るために、前年度に引き続き、「工場河川流域管理」プロジェクトが実施され、淀川流域について報告した我が国をはじめとする10か国が、ケース・スタディを行った。現在、この取りまとめが進んでいる。
キ 大気管理グループ
このグループにおいては、大気汚染に関する科学的、技術的問題を中心に検討を加え、各国が参考としうる効果的な汚染防止策の樹立を目指している。
特に、「窒素酸化物、炭化水素及びその関連物質対策」プロジェクトにおいては、単独で有害な物質としての窒素酸化物対策及び光化学オキシダントの先駆物質としての炭化水素対策並びにこの両者を含めた光化学オキシダントの対策が検討されており、窒素酸化物対策の部分について我が国がリード・カントリーとなっており、我が国自身の知識と経験を報告し、各国の情報を取りまとめるなど活動に積極的に参画している。
本グループでは、このほか、汚染物質の長距離移流の問題などについて活発な活動が行われている。
ク 化学品グループ
OECD理事会は、人間及び環境に及ぼす化学品の影響を予測することの重要性にかんがみ、52年7月「化学物質の人及び環境に対する影響を予測する手続及び必要事項に関するガイドライン」と題する勧告を採択した。化学品グループではこの勧告に基づき、化学品の影響を調査する際の技術面での調整を目的とした6つの専門家グループ(ステップ・システム、性状、生態毒性、分解性、蓄積性、長期毒性、短期毒性)を設立し、54年末を目標に試験方法の信頼性、経済性等についての検証を開始した。このうち我が国は、西ドイツとともに、分解性・蓄積性専門家グループのリード・カントリーの役を務め、我が国自身の保有する知見を土台に、各国と協力しつつ作業を進めており、53年5月8日から12日には、東京で10か国の専門家を集めグループ会合を開催した。
化学品の制御手法については、前述の6つの専門家グループの作業によっても十分でない補完的な問題領域があることが指摘され、53年4月に開かれた環境委員会は、関心国のみの参加による特別予算(第2部予算)による検討が必要な旨の合意に至り、これを受けて、同年9月21日に開催された理事会は、56年度末を目途に実施すべき特別プログラムを決定した。この特別プログラムでは、?GLP(試験データの信頼性確保に関する試験期間等の規範)、?化学品に関する通報制度の改善、?データの秘密保持、?国際的基本用語集の4つのテーマが取り扱われることとなっている。
ケ 都市環境及び土地利用グループ
本グループにおいては、土地利用計画への環境上のクライテリアの適用、環境上問題となる地域、都市サービス管理、公有地管理等について作業が進められ、また、49年の「重要な公共及び民間事業の環境への影響の分析についての理事会勧告」の実施状況の調査、それを踏まえた検討等が行われた。
この分野で特に注目されるのは、53年から開始された「都市環境と経済開発」プロジェクトである。本プロジェクトは、米・欧の一部の大都市に見られる都市部の深刻な荒廃と、その再生への強い要請を背景として実施されるに至ったものであるが、我が国でも近時関心を集めている「快適な環境」の観点からも重要なプロジェクトと考えられる。
コ 観光と環境グループ
本グループでは、観光産業の急速な発展が自然環境の悪化を引き起こしていることにかんがみ、この対策を立案するため、52年以来、各国のケース・スタディを中心に検討を進めている。我が国は、我が国の全般的状況、制度等を説明したナショナル・レポートを提出するとともに、志賀高原についてのケース・スタディの報告を行い、本グループの活動に積極的に参加している。これらの結果を踏まえ、現在、同グループではケース・スタディの取りまとめ等の作業を行っている。
サ 都市環境改善のための交通政策グループ
本グループでは、49年の理事会勧告(「交通制限と低費用の都市環境改善についての理事会勧告」)の実施状況調査、我が国の名古屋をはじめとする世界12都市のケース・スタディを踏まえて作業が行われている「都市環境改善のための都市交通対策」プロジェクト等が実施されている。この成果は、我が国の交通公害対策の充実にとって有益なものと考えられる。
シ 環境の状況グループ
環境統計や指標の発展、その利用の改善に関する理論的な考察をするとともに、加盟各国の環境の状況についての報告書を作成することが本グループの作業内容であり、国連環境計画で進められている「ストックホルム会議以後10年の環境の現況」プロジェクトとともに、我が国の環境統計システムの改善、ひいては、意思決定システムの充実に寄与するところが大きいものと思われる。
53年度においては、環境統計システムの方法論について検討が進められ、加盟各国の環境の状況に係る第1回の報告書の作成が進められた。
この報告書は、第一に、環境に影響を与える人間活動についての加盟各国の歴史、現況を取りまとめ、第二に、その結果として、環境の状況がどのようになったかを描写し、国際比較を行い、第三に、このような人間活動、環境状況に応じてどのように対応がとられたかを、一般大衆、行政担当者、企業、国際機関のそれぞれについて分析したものである。
(2) 都市問題特別会合
アメリカのバンス国務長官は、52年6月のOECD閣僚理事会において、都市問題を含め将来のOECD活動に係る数項目の提案を行った。都市問題に係るバンス国務長官の提案の骨子は次のとおりである。
「OECD諸国では、人口の75%が都市に居住しているが、都市は富や投資等の源泉である一方、景気後退に対し脆弱であり、環境汚染を引き起こし、また汚染の被害者となっている。これに対しさまざまな施策が行われたが、大規模な都市再開発がアメニティを損い、多くの歴史的文化的建物が失なわれ、また、都市の近郊の開発が農地や森林の生態系を破壊しているなど、これらは断片的な対策に止まっている。このような都市の管理は、資金的にも行政的にも、地方政府では、対応が困難な問題となっている。都市問題は、多般にわたる問題であるので、OECD加盟諸国の経験のシステマティックな拡大が図られるべきである。」
このような提案を受けて、OECD理事会は都市問題に関する特別会合を設け、54年4月末までに、「OECDが今後この分野で取り組むべき行動」について提言をさせることとした。現在、この理事会決定に基づき都市問題特別会合において、事業計画の内容、それを実施すべき組織のあり方等について検討が進められている。いずれにせよ、この将来の事業計画の中心的課題を占めると思われる「都市環境問題」は、我が国にとって、近時注目を集めている快適な環境造りの観点からも重要な意味を持っていると考えられている。