4 諸外国の環境の現況
1960年代から1970年代前半にかけての時代は、我が国のみならず他の主要先進国にとっても大きな試練の時代であった。経済成長に伴う環境問題の深刻化は、程度の差こそあれ、各国に共通した重大な経済社会の問題となり、1970年のOECD環境委員会の設置や、1972年の国連人間環境会議の開催に見られるように、環境問題に対する国際的な取組みが強化された。
もとより「環境」という概念は幅広く、人間を取り囲む自然が構成する環境と、人間がその活動のために作り出す環境とを共に含むものであるが、我が国をはじめとする主要先進国の場合は、高度に集積した産業活動や都市活動によって生じる大気や水の汚染が環境問題の大きな部分を構成している。
このような環境汚染に関する主要先進国の現在の状況を見ると、大気汚染にせよ水質汚濁にせよ、特定の地域に見られた高濃度の汚染は大きく改善され、その限りにおいては、環境政策は成功を収めつつあるといえる。しかし、長期的な経済社会活動の拡大のなかで、残されている問題を解決していくためには、更に大きな努力を必要とし、また、新たな問題の発生を防ぐためには、現在は大きな問題となるには至っていない汚染因子に対しても十分な対策を講じていくことが重要である。この意味でこれからの環境政策には先見的、予防的視点が一層求められているといえよう。
(大気汚染)
諸外国における大気汚染問題は我が国と比べても決して小さなものではなかったが、硫黄酸化物やばいじんによる汚染は、それが早くから問題となっていただけに対策も進んできており、先進国の主要都市では1970年から1975年の間に硫黄酸化物の汚染濃度がかなりの程度改善されたところも多い。
次に、一酸化炭素、窒素酸化物及び炭化水素については、これらが自動車の排出ガスに大きく起因していることから、都市地域において問題となっている。このうち一酸化炭素については、排出低減技術の適用や交通管理などの対策によって大きな改善がなされてきているが、窒素酸化物及び炭化水素については、概してはかばかしい改善は見られていない。
窒素酸化物と炭化水素に起因して発生する光化学オキシダントは、その発生が気象条件に大きく左右されるため、はっきりとした傾向を捉えることは一般に難しいが、代表的な汚染地域では、高濃度の出現日数がここ10年の間にかなり減ってきている例も見られる。窒素酸化物や炭化水素、及びオキシダントについては、監視測定体制が一般にはまだ十分に整備されていないことから、諸外国においても現状を的確には握することが求められている。
なお、近年、エネルギー政策との関連で石炭利用に伴う環境問題に大きな関心が払われるようになっている。諸外国においては、エネルギーに占める石炭のウエイトが比較的高い場合も多く、石炭燃焼に伴って発生する大気汚染問題や石炭生産に伴う自然保護上の問題などが石炭利用上の障害となっている例も見られる。
(水質汚濁)
BOD等を指標とする有機汚濁については、個々の河川や測定地点によって状況がかなり異なり、一概に論じることはできないが、先進各国とも、それなりの改善は図っているものの、目標とする水質の達成にはまだ大きな努力が必要とされている現状にある。欧米では我が国に比べ、一般に下水道普及率が高いが、二次処理まで行っている下水処理場の割合が少ないなど、下水処理が必ずしも十分に行われていない場合もあり、下水処理の高度化や下水処理施設の維持管理の改善が課題とされている。
また、特定の湖沼では、富栄養化現象も見られている。この富栄養化は、都市活動や一部の都市地域及び農用地の地表流出水から栄養塩類が水域に流入することによって生じ、藻類の大量繁殖などにより利水上の障害をもたらすなどの問題が生じている。
水質汚濁防止の面における最近の動きとして注目されるのは、大規模な工場排水や下水処理場からの放流水ばかりでなく、都市域や農用地からの流出水等いわゆる「非特定汚染源(non-pointsource)」にも目が向けられてきていることである。大規模排水に対する対策がある程度進むにつれて、これまでの対策では対象とされていなかった汚濁要因が相対的に重要になってきているといえよう。
(海洋汚染)
巨大タンカーの座礁による原油の流出が特に沿岸域の環境を著しく破壊するなど、海洋汚染は大きな国際問題となっており、1978年にはIMCO(政府間海事協議機関)の国際会議において、タンカーの構造及び設備の大幅な強化を内容とする「1973年の船舶からの汚染の防止のための国際条約に関する1978年議定書」等が採択されるなど、国際的に活発な動きが見られている。
これとともに、これまではともすれば自国内水面や沿岸海域の水質汚濁にのみ注意が向けられがちであったものから、地中海など広域的な海域の水質汚濁にも関心が払われてきている。
(廃棄物)
廃棄物の船舶等における焼却については、国際的規制の対象とされていなかったが、1978年のIMCOの会議において、海洋環境保全上洋上焼却について規制を行う必要性が認められ、「廃棄物その他の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」が改正された。