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第3節 

4 化学物質審査規制の国際的動向

 ここで海外におけるこの問題に対する動きを概観してみよう。
(1) 法律制定の状況
 化学物質による環境汚染の危険性は、スウェーデン、アメリカ等において早くから問題にされていたが、この問題に対処するため、新規化学物質の事前審査を含む化学物質全般にわたる包括的な制度を導入したり、従来の化学物質関連法を手直し、あるいは条項を拡大解釈したりする方式により、カナダ、フランス、アメリカ、スイス、スウェーデン、ノルウェー、イギリス等の諸国が何らかの規制を行っており、更に、西ドイツ等でも独立した法律制定の準備を進めている。
 これらの法制度は、各国とも、それまでの各種関連法制度との調整が行われていることもあり、対象となる化学物質の範囲、法律でカバーする領域、新規化学物質と既存化学物質の取り扱い等について若干の相異が見られる。
 一例として、アメリカにおいて制定された有害物質規制法と我が国の化学物質審査規制法との違いを比較してみると参考資料4のとおりである。
(2) 国際協力の動き
 このように、先進工業諸国を中心として、化学物質による人の健康や環境に被害を及ぼすような環境汚染を防止するための制度を制定し、少なくとも新規化学物質について安全性に関する審査を行い、また、現在生産されている数万点の化学物質についても安全性について環境汚染の観点から総点検を行おうとする動きが盛んになっている。しかし、それぞれの国が異なった審査基準を定め、独自に点検を進めていくことは、貿易の面でも、限られた資源の有効利用という点からも好ましいことではない。
 この観点から、OECDは以前から化学物質審査・規制の国際標準化の必要性を強調し、49年には「化学物質の環境に対する潜在的影響の評価」について勧告したのにはじまり、52年7月には、「化学物質の人及び環境に対する影響を予測する手続及び必要事項に関するガイドライン」について勧告し、各国の審査・規制基準の標準化を図っている。
 この勧告の主な内容は次のとおりである。
? 健康に障害を及ぼすような物質を使用することにより、将来において容認しがたい悪影響が出ることを避けるため、すべての新規化学品のアセスメントを確実にしておくことが必要であること。既存化学物質についても潜在的な障害性についての詳細なアセスメントを義務付けることが望ましいが、専門家の知識のみならず、研究室における成果の面でも有効なアセスメントを行うための資源は限られていることから、その資源は吟味して使われねばならないこと。
? 化学物質の持っている潜在的な悪影響や人間又は環境に、かかる悪影響が及び可能性をアセスメントとする(OECDはこれをケミカルアセスメントと称している。)ためには、段階的な取り組みがなされるべきであること。
? 人や環境にかかわる化学物質の潜在的な悪影響や安全な使用について判断するために必要な資料の作成とアセスメントの責任は、産業における全体的な機能と責務の一部でなくてはならないこと。
? 化学物質の生産、使用、移動等に際しては、ア.出所の明示、イ.物質について意図されている用途に対し、監視されるべき潜在的な障害性と警戒に関する情報の添付、ウ.処分方法の表示が行われるべきであること。
? アセスメントが十分に行われているかどうかの確認のため、監視と測定が行われるべきであること。
 OECDは更に、52年11月、加盟各国の合意の下に、現存するテスト手法について、それぞれの分野ごとに責任国を定め、6つの専門家グループを編成して、2年間で各種テスト手法の現状と評価に関するレポートを作ることを決定した(第3-18表)。この先、このレポートをもとに試験方法及び審査基準の国際統一化を前提とした討議を行っていくことが加盟各国間で同意されている。なお、わが国は西ドイツとともに「化学物質の分解性と蓄積性に関するテストグループ」の責任国となっている。
 一方、UNEP(国連環境計画)は、その設立当初から化学物質の安全性に対して大きな関心をもち、IRS(国際環境情報源照会制度)、IRPTC(有害物質国際登録システム)あるいは有害物質の環境汚染を早期に発見する警告システムなどの各種施策を企画推進してきている。
 また、52年5月に開催された第5回UNEP環境理事会に提出された環境の現状に関する年次報告書では、特記された4項目のうち、2項目が化学物質の使用と関連する「大気中のオゾン減少の生物学的影響の可能性」「環境中の発がん性物質」となっている。更に、WHO(世界保健機構)においては、52年5月の総会で化学品の健康影響の評価の必要性についての決議が採択され、現在、その具体策の検討が事務局で進められている。
 このように国連における環境汚染問題の中で、化学物質問題は最重要テーマの一つとなってきている。
 また、EC(ヨーロッパ共同体)においても、化学物質問題は大きなテーマとなっており、生物試料バンクや化学物質の危険性の評価等のための各種委員会が設置され、活発な活動が行われてきている。
 なお、我が国の化学物質対策は国際的に見ても比較的早くから進められてきているところから、その経験が各国の注目を集めており、国際機関においては指導国としての役割を果たしてきている。また、アメリカ、西ドイツなどとは、環境を汚染する有害化学物質についての定期会議を二国間で開催し、情報交換等を行っている。

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