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第3節 

3 化学物質の安全対策の現況

 我が国における環境汚染防止の観点からの化学物質対策は、48年に化学物質審査規制法が制定されて以来、これを中心として推進されてきた。その状況を新規化学物質の審査状況及び既存化学物質の点検状況に分けて見てみよう。
(1) 新規化学物質の審査状況
 化学物質審査規制法においては、新規化学物質の製造・輸入に際して、原則としてすべてのものについて、環境汚染の観点からの事前審査を行うこととされている。
 国は、新規化学物質の輸入、製造を行う事業者より届出を受け、審査を行い、その物質が環境中において分解性が悪く、かつ、生物濃縮性が高く、同時に、継続的に摂取される場合には人の健康を損なうおそれがあるもの(「黒」)は、特定化学物質に指定し、それ以外のもの(「白」)は特定化学物質に該当しないものとして公示している。
 この法律が施行されて以来の新規化学物質(製造及び輸入)の審査状況は第3-14表の通りである。法律が施行された当初は届出件数に比べて「白」と判定された件数割合が少なく、また、翌50年には届出数が半減したが、その後は届出件数、「白」判定件数割合ともに増加している。届出件数とその中での「白」判定件数割合の増加は、この制度による新規化学物質の事前審査が、当初の試行錯誤の段階を経て、順調に定着しつつあることを示しているといえるだろう。
 なお、審査の試験項目である分解性試験は現在、1件当たり約100万円、濃縮制試験は約450万円、毒性試験は最低3,000万円ほどかかると推計されている。これらの試験は届出者の負担で行うこととされており、また、この法律においては、これらのうちいずれかの試験結果の審査により、届出された物質が特定化学物質には該当しないことが確認されれば以後の輸入、製造等はいかなる者においても自由に行えることになっている。そのため53年2月6日現在、216物質が白公示されているが、そのうち、約4割は最も試験費用の安い分解性試験、残りもほとんどが蓄積性試験の結果に基づいている。
 これらの試験を届出者が委託できる機関として(財)化学品検査協会内に化学品安全センターが設立されている。また、化学工業界においても、独自に化学物質の安全性についての研究調査体制を整備するため、現在、日本化学品安全調査研究機構(仮称)の設立準備作業が進められている。なお、アメリカにおいても有害物質規制法(後出)の成立に伴い、それに対処するため、化学工業界の共同出資による化学工業毒性研究所(CIIT)が設立されている。


(2) 既存化学物質の点検状況
 化学物質審査規制法が公布された際、既に製造又は輸入の行われていた化学物質については、既存化学物質名簿が作成されており(第3-15表)これに記載されている化学物質については法律上は審査の対象とされていないが、化学物質全体の安全性という見地から、これらの既存化学物質についても、安全性の確認作業が行われている。
 この作業は、通商産業省及び厚生省においては化学物質そのものという面からそれぞれ分解性、生物濃縮性の調査研究、人体に及ぼす影響に関する調査研究が行われており、環境庁においては、環境モニタリングを中核として化学物質の環境中における挙動状況および生態系影響に関する調査研究が行われている。
 通商産業省では、生産、輸入数量の多い化学物質、PCB類似物質等のうち、従来の知見では分解性、生物濃縮性が明らかでないものについて試験を行っているが、その状況は第3-16表の通りである。
 厚生省では化学物質について、継続的に摂取される場合に人の健康を損なうおそれがあるか否かを検索するため、通商産業省における試験の結果、分解性が悪く、かつ濃縮性の高い物質を主としてとりあげて、年間4〜5物質づつ数年間にわたる慢性毒性試験を実施している。更に、化学物質の毒性関係の多角的な情報入手にも努めている。
 なお、52年7月、労働安全衛生法の改正が行われ、化学物質による労働者の健康障害を防止するため、新化学物質については、あらかじめ有毒性の調査が行われるべきこととし、また労働大臣は“がん”その他の重度の健康障害を起こすおそれのある化学物質を製造、輸入等している事業者に対して、有毒性の調査を行い、その結果を報告させることができることとなった。この改正事項は、公布の日から2年間を超えない範囲で実施に移されることとなっており、現在、この法律上の既存化学物質名簿の作成等その準備が行われている。労働安全衛生法は、労働者の健康を守るという目的を持った法律であり、環境汚染を通じての健康影響という観点とは視点は異なるが、対象となる化学物質は、化学物質審査規制法における化学物質とかなり重複すると見られている。そのため、これら両制度間における基礎的情報の交換は、有害化学物質の総合的な管理に役立つものと期待されている。 環境庁では、環境行政の中における調査という立場から、化学物質審査規制法に基づく化学物質のみならず、広く元素等も含めた化学物質一般について環境調査を進めている。
 環境調査は49年度から行われており、その状況は第3-17表のとおりである。本調査は化学物質の環境中における残留性、さらにその汚染による生物濃縮、ひいては人体への影響という見地から、その実態把握を目的としていることから、調査地点は直接の排水口近辺を避けて設定されている。
 現在までのところ、PCBのように、ただちに対策を講ずる必要があると判断される化学物質は見出されていないが、PCB代替品等、今後とも長期にわたって環境調査を行っていく必要がある要注意品目群が報告されている。
 なお、調査地点は現在のところ一定していないが、データの比較という点からもこれまでの調査の結果をもとに、今後、定常化を意図する方向で作業が進められている。

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