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第3節 

4 固定発生源からの窒素酸化物低減技術の進展

 我が国における固定発生源からの窒素酸化物対策は48年5月の二酸化窒素に係る環境基準の設定に始まる。この目標値を達成するために、48年8月にボイラー、金属加熱炉、石油加熱炉及び硝酸製造施設を対象に、第1次の排出規制が行われた。その後、窒素酸化物低減技術の評価が進められ、50年12月に、対象施設規模を原則として排出ガス量1万Nm
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/hまで拡大、対象施設種類としてセメント焼成炉及びコークス炉を追加、既存の大型施設を除く排出基準値の強化を骨子とする規制の強化(第2次規制)が行われた。1次、2次の規制により全ばい煙発生施設からの窒素酸化物排出量のおよそ6割が規制対象となり、その削減効果は20%前後と考えられている。
 固定発生源からの窒素酸化物低減対策としては、排煙脱硝技術、低NOX燃焼技術の適用、燃料転換等が挙げられる。
 排煙脱硝技術は、排ガスの中のNOXを除去する技術で、今後NOX低減対策を進めていく上で、最も中心になる重要な技術である。しかし、NOXはSOXに比べ化学反応性が低く、かつ、濃度も低いので、従来からこの技術の必要性は認識されながら十分に開発が進んでなかったが、最近の技術進歩は目覚しいものがある。第3-22表に見るように50年10月までに設置された排煙脱硝の実用規模の装置はわずか11基にすぎなかったが、51年末においては35基を数えるに至り、問題点はまだ残されているが、技術の確立に向けて着実な歩みが進められている。
 排煙脱硝技術は乾式法と湿式法に大別される。
 乾式法は排ガス中のNOXを気相で除去するものであり、湿式法は排ガスを吸収液中に通してNOXを除去するものである。湿式法は既設の脱硫装置へ付設することが容易であり、また、脱硫、脱硝、除じんが同時にできるという経済的な利点があるものの廃液処理の問題があり、前揚第3-22表のように現段階では乾式法の開発が先行しているといえよう。
 排煙脱硝技術のやや詳細な評価を52年2月の「窒素酸化物低減技術報告書」により行ってみよう。50年10月時点でLPGやLNG等を燃料とするSOXやダストを含まないか、又は極めてわずかしか含まれないいわゆるクリーン排ガスの脱硝技術は既に技術的に問題がないとされていたが、51年末にはダーティ排ガスのうち、C重油燃焼排ガス程度の排ガスを対象とする乾式法による脱硝技術は実用化の域に達しつつあり、焼結炉やガラス溶融炉からのよりダーティな排ガスを対象とするものの技術開発も進展している。
 また、信頼性においても、50年10月には重油燃焼排ガスについては、触媒活性、酸性硫安の影響及びダストによる触媒目づまり等のための長期の運転による実施が必要とされていたが、51年度末には特殊なダーティ排ガスを除いて、触媒活性の問題は解決し、触媒目づまりについても触媒形状の改良や移動層方式の採用等により解決した。ただ、酸性硫安の熱交換器ダクトへの影響や、廃触媒の回収方式について検討を続けることが残されている。
 更に、経済性においては、乾式法について見ると、51年末に環境庁がメーカーからヒアリングしたところによれば、触媒価格の低下等によって10万Nm
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/hの装置については建設費が3〜7億円、運転費で2,700〜4,900円/kリットルとなっており、ばらつきはあるものの単位当たり脱硝費は50年度のヒアリング時点に比べてかなり明確に低減の傾向が見られる。なお。実際に装置を設置する際には、これらの費用以外にダクトの建設費等が加わることに留意する必要がある。
 また、第3-23図のように処理ガス量が大きくなると、処理ガス量当たりの建設費が下がるというスケール・メリットがあることも認められている。
 次に、NOX対策技術として排煙脱硝技術と並んで重要なものに低NOX燃焼技術がある。
 低NOX燃焼技術とは、炉中の燃焼条件をできるだけNOXが発生しにくいものとするための技術である。この技術の評価を、やはり前述の「報告」に基づいて行ってみよう。
 低NOX燃焼技術の採用に際しては、不完全燃焼、熱効率の低下、装置の大型化等が問題だと考えられていた。当初は、空気比範囲の変更、低熱負荷燃焼等の運転条件の変更がなされたが、前述の問題点を完全に克服して、炉に若干の改造を加えて低NOXバーナー、二段燃焼、排ガス再循環の方法を採用するという技術開発が進められている。
 なお、低空気比燃焼等の低NOX燃焼技術は、省エネルギーにつながっている例が少なからずあったことは注目に値しよう。
 最後に、燃料転換については、現在のところ重油から硫黄分を抜き取る重油脱硫のような技術が窒素分についてはいまだに確立されているとはいえず、今後の技術開発に待たねばならないが、重油脱硫を行った場合に副次効果として窒素分が除去されるので、低硫黄燃料を使用することは窒素酸化物低減にも効果があるといえよう。

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