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第3節 

4 技術開発の課題

 公害防止技術は、最初の規制だけではなかなか環境が改善されず、次の段階で、環境基準の設定とこれを実現するためのスケジュールを明示することにより、これを満足するように進展してきた。
 この場合、この過程をスムーズに進めるための技術評価がされており、今後もそれは積極的に推進されなければならない。この際重要なことは、各種代替案についての費用効果の分析の上に立って、企業秘密は守りつつも、技術評価の結果の公表を行うことである。
 次に、これまでの公害防止技術の開発及び実用化の過程で注目すべきことは、企業間の競争が開発及び実用化を一層促進したことと、公害防止技術の進展が他の一般的な技術の進歩を促したことである。
 前者については、自動車排出ガスの低減に際しての企業間の競争が顕著な例で、当初0.25g/kmの目標達成を可能としたメーカーはごく一部にすぎなかったが、最終的には大部分のメーカーがいくつかの問題点はあるものの達成可能と表明するに至っているし、また、排煙脱硝技術に見られるように、規制のスケジュールの明示は、規制物質に関する公害防止装置の市場を確保し、量産を可能ならしめ、それを通じて技術の開発期に予想されたような高いコストを克服する可能性をもたらしている。
 更に、例えば自動車排出ガス対策技術の進展は、単に公害防止のためだけでなく、燃焼制御技術の進展、更には品質管理法の改善というような技術波及をもたらしている。
 しかし、公害防止技術は本格的な開発や実用化が行われてからまだ日が浅く、我が国では20年たらずの歴史しか持っていない。したがって、これまでの技術の蓄積はそれほど多くなく、また、今後必要とされる新しい技術も、その実用化のためには相当の年月を必要とするであろう。
 例えば、第3-24表は、化学技術庁計画局が専門家を対象として行ったデルファイ法によるアンケート調査結果(「技術予測報告書」52年2月)から、大気汚染防止、水質汚濁防止、廃棄物処理に関する技術開発課題の実現時期(中位数)と重要度を見たものであるが、これによれば、一番早い技術開発課題の実現時期でも1986年であり、多くは1990年前後に実現すると予想されており、息の長い技術開発が必要とされている。
 また、51年6月にやはり科学技術庁計画局が行った「民間企業の研究活動に関する調査」において、民間企業が今後の社会開発分野の技術開発推進に当たってネックとして考えている事項を調査している。このなかで、31%の企業が環境保全関係の技術(公害測定・監視技術、大気汚染防止、水質汚濁防止等の公害防止技術、廃棄物処理技術、廃棄物再資源化技術、下水処理技術)の開発は、「研究開発対象が高度化し、複雑化しているため1企業では対応できない」と判断しており、また18%の企業が蓄積技術の少ないことをネックと考えていて、しかも、これらのネックは他の社会開発関連技術と比較して環境保全技術において特に著しいものとしている(第3-25図)。
 このような事情は、規制の強化が一方において技術開発を促す効果を持つことを示しているものの、規制を始めてから今日までの年月は決して短いものではなかったこと、今後も息の長い研究開発が進められなければならないことを物語るものであり、同時に民間の研究開発努力を支援し、指導する公的主体の関与が必要であることを明らかにしているものということができよう。

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