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第3節 

3 自動車排出ガス対策技術の進展

 自動車に対する排出ガス規制は、41年9月の新型車に対する一酸化炭素規制に始まるが、その後の自動車台数の激増とそれに伴う交通量の急増により、自動車排出ガスによる大気汚染は深刻なものとなり、逐次規制の強化が行われた。更に、45年2月には一酸化炭素に係る環境基準が閣議決定された。その後、自動車排出ガス中に含まれる汚染物質として窒素酸化物と炭化水素についても規制が必要であるとの観点から総合的な検討が行われ、45年7月に運輸技術審議会において、これら3物質等の規制目標を内容とした自動車排出ガス対策基本計画が策定された。
 一方、自動車排出ガス低減技術の開発は40年前後から各自動車メーカーにおいてなされていたが、当時の技術上の課題として考えられていたのは次のようなことであった。
 まず、自動車排出ガス中の一酸化炭素低減のためには、比較的高い空燃比(空気と燃料の重量比)で使用が可能となるような燃焼室の改良、気化器及び吸気系統の改良が必要であったが、これは同時に炭化水素の低減にもつながり、自動車の燃料経済性の向上にも資するものであった。
 ところが、第3-21図に見るように、一酸化炭素と炭化水素は高い空燃比で完全燃焼させれば、排出量を減らすことはできるが、逆に窒素酸化物の排出量は増加する。一方、低い空燃比では、窒素酸化物の排出量は少ないが、一酸化炭素、炭化水素の排出量が多くなる。更に、非常に高い空燃比にすると3物質ともに減少させることができるが、この場合、十分な燃焼が得られず、エンジン・ストップなどの走行上重大な支障が起こったり、燃料経済性が悪くなるという問題があった。
 このような問題点を克服すべく技術開発が進められるなかで、47年10月には、中央公害対策審議会において、「自動車排出ガス許容限度長期設定方策について」の中間答申がなされ、これに基づいて乗用車からの排出ガスについての抜本的な規制値として、50、51年度以降生産される乗用車の許容限度の目標値が設定された。
 その後、一酸化炭素、炭化水素については目標値どおりの規制が50年度に実施された。窒素酸化物については、50年度規制は目標値どおり実施されたが、51年度の目標値(NOX平均排出量0.25g/km)は、その後の技術評価の結果、49年12月の中央公害対策審議会答申により、53年度達成を目指すこととされた。
 この時の技術評価においては、0.25g/kmを達成できる防止技術はシステムとして完成しているものはないということが指摘されている。すなわち、研究段階において0.25g/kmの目標を達成している方式がいくつかあるが、その実用化のためには出力性能の向上、触媒・サーマルリアクター等の耐久性、車両の熱害対策などの問題を解決する必要があった。また、気化器の加工精度の向上などの耐久性及び信頼性に関する未解決の問題があり、現段階では実用化の見通しを明確にし難いというものであった。
 以上の検討結果に基づいて、51年度規制値は窒素酸化物排出量(平均値)で等価慣性重量1,000kg以下の乗用車は0.6g/km、1,000kgを超える乗用車は0.85g/kmとすることとされた。
 しかしながら、51年度規制適合車の型式数を見ると、50年11月末から51年8月末のわずか1年たらずの間に3倍近く増加しており、特に50年11月末において51年度規制適合車を生産しているメーカーは4社だったのに対し、その後、51年3月には更に4社が51年度規制適合社の型式指定を受けている。型式指定を受けることが技術力の要因のみを反映したものとはいい難い面もあるが、技術力なしに規制適合車の生産はできないことを考えれば、企業間の競争が技術開発を進展させる触媒的な役割を果たしたといえるであろう。
 一方、50年4月以来、「自動車に係わる窒素酸化物低減技術検討会」は精力的な技術評価を進め、50年12月、51年5月の2回にわたり「自動車の窒素酸化物排出低減技術に関する報告」を行い、更に51年10月には最終報告をまとめ、当初1、2の排出ガス低減方式を除いて極めて困難と考えられていたNOX低減目標値0.25g/kmの達成はなお少なからぬ問題点を残しているものの、大部分の国内メーカーにおいて見通しが得られるに至ったと結論づけた。この報告に示された技術評価を踏まえ51年12月には、53年度以降生産される乗用の窒車素酸化物の排出量の平均値を0.25g/kmとする旨の告示がなされた。
 前述の「報告」における技術評価は次のようなものである。
 このような急速な進歩の原因は、空燃比、排気再循環、点火時期の整合及び運転条件に対応したそれらの制御技術が非常に進歩したことにある。特に、排気再循環については、排気背圧制御方式を始めとする各種の制御技術が開発された。
 また、多量の排気再循環を加えた結果、あるいは極めて高い空燃比の状態での安定燃焼技術が進歩し、吸気渦流の強化、噴流による積極的流動の付与、副室からの燃焼ガスの噴出、二重点火方式の採用等多くの新しい技術が導入されている。
 更に、三元触媒方式における進歩は、触媒及び酸素センサーの性能、耐久性の向上によるところが大きいが、空燃比制御技術の向上も大きく寄与している。
 従来はNOX排出量の低減に伴って、燃料経済性ドライバビリテイのかなりの低下は不可避と考えられていた。しかし、50、51年度と排出ガス規制値が強化されたにもかかわらず、ドライバビリテイを実用上問題のない程度に保ちながら燃料経済性の維持、改善に大きな努力を重ねてきた結果、51年度規制適合車の燃料経済性は、48年度規制適合車と比べてさほど低下していないものが多い。更に、NOX排出量0.25g/kmを達成しているシステムにおいても、燃料経済性は開発当初よりかなり改善されており、多くは51年度規制適合車とほぼ同程度かやや劣る程度であり、中には新しい燃焼方式により、48年度規制適合車に比べても、燃料経済性の改善されたものが見られることは注目に値しよう。

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