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第2節 自然環境の現状

 我が国の自然環境は、近年、緑の減少、海岸線等の人工化など急激に変化を来してきた。変貌しつつある我が国の自然環境の現状について、緑の量を表す植生現存量、渡り鳥の推移を中心として概観してみよう。
(1) 植生現存量
 第1回自然環境保全調査の一環として行われた植生現存量に関する調査により、関東地域に存在する緑の量(総乾燥重量換算)が明らかにされた。
 単位面積当たりの植生現存量は植生区分ごとに異なり、例えば、1ha当たりの植生現存量は市街地等では2トン以下、一般畑作地帯、一毛作田等では6〜15トン、桑園、二毛作田等では16〜30トン、竹林、茶畑等では31〜99トン、天然性針葉樹等は100トン以上などとなっている。
 関東地域を1キロメッシュごとに約3万メッシュに区画し、それぞれのメッシュごとに植生区分を行い、植生現存量を推計すると、関東地域全体の植生現存量は約1億2千万トンであると見込まれる。都県別に植生現存量を見ると、1ha当たり最もその量が多いのは、群馬県で51トンであるのに対して、最も少ないのは東京都で23トンとなっており、群馬県の2分の1に満たない。人口1人当たりの植生現存量で見ると、この格差は更に大きく、東京都の0.4トンに対して、群馬県はその47倍に当たる18.8トンとなっている。また、1ha当たりの植生現存量が2トン以下の地域が各都県の面積に占める割合を見ると、東京都47.6%、神奈川県29.7%、埼玉県12.4%、千葉県11.8%、栃木県6.2%、茨城県6.1%、群馬県4.8%になっており、関東地域の中でも東京都における緑が格段に少なくなっている(第1-11表)。
 次に、植生現存量と植生自然度との関連を見よう。
 植生自然度とは、土地がどの程度の自然性を残しているかを樹林、草原等の植生の生育状況によって区分したものであり、逆に言えば、人間の開発行為によって自然がどの程度改変されているかを植生の状況によって分類し、客観的に国土の自然環境の現況を表すものである。植生自然度を自然度?の植生のほとんど存在しない地域、自然度?、?、?、?の草本性の植生地域、自然度?の果樹園、桑園等の樹園地、自然度?、?、?、?の木本性の植生地域とに分けて、植生現存量を見ると、1ha当たり、自然度?の地域では約5トン、草本性の地域では15〜25トン程度、自然度?の地域では25トン、木本性の地域では60〜120トン程度となっている(第1-12図)。
 草本性の植生地域の中では、ササ、ススキ等背丈の高い草原の地区である自然度?の区分において植生現存量が最も多いのに対し、自然度?の自然草原等が最も少なくなっている。また、木本性の植生地域の中では、自然度?の自然林の植生現存量が最も多く、植生地域、二次林地域である自然度?〜?の植生現存量はその6割程度にすぎない。自然度?の果樹園、桑園などの樹園地は木本性の植生であるが、その植生現存量は草本性のそれと近い。
 次に、この単位面積当たりの植生現存量が比較的大きい植生自然度?〜?について、ブロック面積に対するその面積比率を見ると第1-13表のとおり北海道、東北、四国、中国の各ブロックでは、いずれも植生自然度?〜?の面積比率が70%を超え、ブロック全体で見て緑の豊かな地域であることが分かる。この中で北海道は、植生自然度?(亜寒帯性針葉樹林)の占める割合が59.6%であり、他の地域と比較して単位面積当たりの植生現存量は特に大きいものと思われる。


(2) 渡り鳥の推移
 日本の冬鳥として代表的なものであるハクチョウ、ガン、カモ等のガンカモ科の鳥類は、毎年越冬するために樺太、千島方面から渡来し、干潟、湖沼等を背景に風情ある冬景色を見せている。
 このようなガンカモ科の鳥類については、45年以降毎年その渡来地における調査によって種類別の渡来羽数が明らかにされている。過去7回の調査結果を基に我が国におけるガンカモ科の鳥類の渡来羽数の推移を概観してみると、第1-14図のとおりとなっている。
 ガンカモ科の渡来地は、河川、湖沼、干潟等の広範囲にわたるため、本調査で確認された羽数が必ずしも我が国に渡来するすべてとはいい難いが、毎年、ハクチョウ類は約1万羽から1万5千羽、ガン類は約5千羽から1万羽、カモ類は100万羽前後確認されている。
 次に、ハクチョウ類は過去7年間を通じて34都道府県において確認されているが、北海道が全体の5割程度を占め、このほか宮城、青森、秋田、山形、福島、新潟、島根の各県に多く渡来し、これらの8道県で例年渡来羽数の98〜99%が確認されている。また、種類別に見ると、ハクチョウ類の7割強を占めるオオハクチョウは北海道、青森、宮城、山形、新潟及び秋田の各道県に、2割弱を占めるコハクチョウは福島、宮城及び島根の各県に多く確認されている。
 ガン類は、51年の調査では、宮城、新潟、石川、青森、北海道の数道県に集中して見られる。例年、マガンは宮城、石川県に、ヒシクイは宮城、新潟、石川の各県に、コクガンは青森県、北海道に多く確認されている。
 カモ類は、マガモ、カルガモ、コガモ、スズガモ等種類も多く、地域によって渡来する種類に相違はあるけれども、ハクチョウ類は、ガン類に比べて全国的に分布している。ブロック類には、関東、東海、九州、東北の各地方に多く見られる。

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