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第2節 

4 光化学大気汚染対策

(1) 光化学大気汚染に対する緊急時対策と被害届出状況
 45年7月に東京で光化学大気汚染によると思われる健康被害が発生して以来、国や地方公共団体では、オキシダントの監視体制の整備に努めるとともに、都府県ではそれぞれオキシダント緊急時対策要綱を定め、オキシダント濃度と気象条件に応じた予報、注意報、警報等を発令し、発生源対策と住民対策を実施してきた。
 その結果、45年には東京と大阪にそれぞれ1局あったにすぎなかったオキシダント測定局は、50年3月には439局になっている。
 オキシダント注意報(オキシダント濃度の1時間値が0.15ppm以上で気象条件から見て汚染の状態が継続すると認められるとき)の発令状況の推移は、第2-2-13表のとおりであるが、50年は全国21都府県で266回発令され、長梅雨の影響で発令回数が減少した49年に比べても、全体としては減少した。このうち福島県は50年に新たに注意報が発令された。また、50年は関西では半減したが、関東、東海地方で増加したことが特徴的であった。
 光化学大気汚染によると思われる健康被害として都府県に自主的に届けられた人数は、50年においては42,839名を数え、46年に次ぎ多人数の届出がなされた(第2-2-14表)。これらの被害届出者は、6月6日に神奈川県を中心に5,705名、7月15日に埼玉県、静岡県を中心に26,186名、また、7月18日に神奈川県などで3,237名に達し、この3日間で、50年の全被害届出者の80%以上に及んだ。訴えの内容は、主に目への刺激、軽度な呼吸器系に関する症状であった。いずれの日も、光化学スモッグ警報が発令され、光化学オキシダント濃度が0.3ppmを超える地域が出現した。


(2) 光化学大気汚染対策の推進
 光化学大気汚染は、他の物質による大気汚染と異なり、その生成、反応拡散、被害状況が複雑なことからそのは握は困難であるが、環境庁においても、精力的に調査研究を進めている。例えば、スモッグチャンバーによる人工紫外線照射下の自然大気の光化学反応実験等によって、原因物質である窒素酸化物と炭化水素の初期濃度がオキシダント濃度の最高値に関係があることや、炭化水素のうち一般的にオレフィン系、芳香族系が光化学活性が高くパラフィン系は低い傾向があること、高オキシダント濃度は、気象条件、特に風速、日射量、温度に左右され、オキシダントが風系に沿って遠距離輸送される場合もあること(第2-2-3図及び第2-2-4図参照)等が解明された。
 また、光化学大気汚染の健康影響としては、目のチカチカ等軽被害はオキシダント濃度と高い相関を持ち、目の症状が際立った特徴を示すこと(第2-2-5図参照)、光化学オキシダントの発生と植物被害発生とはかなり高い相関関係を示すが、例外もあることなどが確かめられ、光化学大気汚染の実態も徐々に解明されつつある。
 その対策については、関係12省庁で構成される光化学スモッグ対策推進会議の決定(50年4月8日)の線に沿って、50年度は次のような対策を推進した。
ア 未然防止対策
(ア) 環境基準等の設定
 光化学大気汚染の要因物質としての窒素酸化物と二次生成物である光化学オキシダントの環境基準を48年5月に設定したが、他の要因物質である炭化水素の測定方法、濃度レベル等について、光化学オキシダントの発生を防止する見地から検討を加えている。
(イ) 固定発生源対策
 窒素酸化物については、排出基準の適用対象施設の追加などを内容とする排出規制の強化を50年12月に行った(本節3窒素酸化物対策を参照)。
 また、炭化水素については、種類及び使用状況が多様であり、排出状況も多岐にわたっているため、48年度の炭化水素類の排出状況について20の関係各業界団体の協力を得て調査を実施した。
 炭化水素類の発生形態は複雑多岐にわたっており、調査期間の短かったこと等から各工業団体により集計の精度が様々であるため、調査結果の数字がそのまま排出実態ということではないが、重要なものはほぼは握し得たと考えられる。この調査結果は、第2-2-15表のとおりである。
 なお、発生源の多い東京都ほか4府県においては、光化学オキシダントが多量に発生することも予想されるのでその原因物質としての炭化水素類に着目して独自に条例で規制を図っている。
(ウ) 移動発生源対策
 自動車に対する排出ガス許容限度の累次にわたる強化によって、自動車排出ガス測定局では、第2-2-6図に見られるとおり、炭化水素濃度は減少している。
 規制の効果を乗用車について見ると、50年度規制適合車は、未規制時に比べ、窒素酸化物で61%、炭化水素で92%もの削減となっている。更に51年度規制適合車は、窒素酸化物の削減率が73〜80%となっている。
 また、ジーゼル車、トラックの規制の強化については、中央公害対策審議会で審議中である(詳細は、本節7自動車排出ガス対策を参照)。
イ 予報及び監視体制の整備
 地方公共団体が行う緊急時の措置を効果的にするため、低層大気の特別観測を行い気象情報の提供を行ったほか、光化学大気汚染の発生しやすい気象条件の解析や予報体制を強化するため、50年度において、新たに高松地方気象台に大気汚染気象センターを設置(46年度から計6か所)した。
 監視体制については、国設大気測定網の充実を図るとともに、地方公共団体の監視測定機器及びシステムの整備に対し、助成を行っている。
 また、測定法については、炭化水素の測定方法の標準化を図るとともに、光化学オキシダント及び窒素酸化物の測定法の改善を検討している。
ウ 緊急時対策
 従来の実態調査結果を踏まえ、更に、チャンバー実験等の結果を基に、移流、拡散、反応を入れたシミュレーションによる予測モデルの作成を試みた。これによって、地域、時間を限った事前規制を目指すこととしている。
 また、23の都府県では、第2-2-16表のような基準で緊急時の発令を行い、協力事業所等に燃料使用量の削減を依頼し、一般住民にも自動車使用の自粛、激しい運動の禁止等を呼びかけている。
エ 保健対策
 学校、一般住民等に光化学スモッグに対する知識の普及、徹底を図るほか、注意報等の発令時の応急措置を指導する等の対策に力を入れた。
オ 調査研究の実施
 スモッグチャンバーによる光化学反応実験や、発生時の気象条件の統計解析等の調査を行ったほか、国の試験研究機関を中心に、光化学大気汚染及び最近問題になっている湿性大気汚染の発生機構、影響等に関し、広範囲な調査研究を推進した。
カ 国際協力
 日米合同企画調整委員会の専門部会として、日米光化学大気汚染委員会の第2回会議を50年11月東京で開催し、調査研究の成果の交換、光化学大気汚染対策の検討等を行った。
 なお、会議では、米国においては、従来は炭化水素対策に重点を置いていたが、その後の研究の結果、今後の光化学大気汚染対策は窒素酸化物対策を重視することも含め、流動的であることが報告された。
第2-2-3図 関東南部地域におけるNO2

(3) 湿性大気汚染について
 49年7月初旬と、50年6月下旬から7月上旬にかけて北関東を中心にいわゆる酸性雨による眼の刺激を訴える事例が発生した。この現象は、当時の状況から特殊な気象条件により、高湿度大気中において複雑な過程を経て生成された汚染物質に原因するものと考えられ、「湿性大気汚染」と称することとした。
 湿性大気汚染は、現象のメカニズム、眼等に対する刺激物質等が未解明であり、対策のためにはこれらの究明が必要である。
 そのため、50年6月〜7月にかけて、関東一円において気流、大気汚染並びに雨水分析等の実地調査を行うとともに、チャンバーを用いた酸性物質の吸着機構等の実験も行った。

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