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第3節 

2 被害救済の現状

 原因者を確定することができる場合の公害による物的被害の救済方法の第1は、被害の原因となった汚染物質を排出した原因者に対し民事責任を追及する訴訟及び民事調停制度である。不法行為責任が成立するためには、一般に加害者の故意過失や被害と加害との因果関係が立証される必要がある。
 第2は、「公害紛争処理法」に基づく行政上の紛争処理制度で、公害等調整委員会及び都道府県の公害審査会により、調停、仲裁等が行われている。45年11月の制度発足以来50年9月までに公害等調整委員会で104件、都道府県の審査会で112件、合計216件の公害紛争の申請が受理されたが、このうち物的被害に対する補償を求めているものは、およそ3分の1である。
 第3は、当事者間の自主的協議や和解によるものであり、大多数の物的被害に係る紛争は、この方法により解決が図られている。この場合、地方自治体が仲介者として果たしている役割は大きい。
 以上のような各種の方法を補完し、被害者の救済をより確実にする制度又は措置として、「鉱業法」による供託、「石炭鉱害賠償等臨時措置法」による積立金、「油濁損害賠償保障法」によるタンカーについての責任保険の強制等がある。
 また、企業と地方自治体との間で締結される公害防止協定において、被害者の迅速かつ確実な救済を確保するための措置が採られている場合がある。例えば、宮城県築館町では企業が被害発生に備えて、あらかじめ、町に基金(1千万円)を預託することとした例があり、山形県南陽市では、48年度に、原因者が明らかな場合のカドミウム汚染米を市が買い入れるとともに、被害者からの委任に基づき原因者に対する請求権を市が代位する措置が採られている。
 これらにおいては、いずれも原因者が特定できることが前提とされているが、物的被害の中には、原因者不明の油濁による漁業被害のように、原因者が特定できないもの、赤潮による漁業被害のように、現段階では、その発生の機構が十分に解明されていないもの、休廃止鉱山に係るカドミウム汚染米被害のように、原因者が既に存在しなくなっているものなど、被害者が補償を要求すべき原因者を特定することが困難又は不可能なものがある。
 このような被害について国により採られた対策の主な例は、第3-16表に掲げるとおりである。
 このほか、地方公共団体においても、秋田県のカドミウム汚染米買上げ措置、大分県の公害被害救済措置、漁業被害対策を主たる目的とした基金が設立されている。

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