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第2節 自然環境の現状

 次に、自然環境の現状について見ると、森林、原野面積は昭和40年代においてそれほど変化は見られないが、農用地は開発の進行などによる減少が目立っている。ここでは、49年度に国土庁が実施した全国土地利用目的別現況面積の調査等を中心として自然環境の現状を概観してみよう。
 第1-5表に見るように、我が国の森林面積は40年には2,516万haであったが、47年には2,523万haと微増した。ただし、三大都市圏ではこの7年間に3万ha減少しており、その増加は専ら地方圏におけるものであった。原野面積は、40年の64万haから47年には56万haへとやや減少したが、三大都市圏には原野がほとんど存在しない(1万ha以下)ので、これは地方圏において原野が森林、農用地等へ転換したことを示している。一方、二次的自然である農用地は、40年の643万haから47年の599万haへと急激な減少を示した。この減少面積を圏域別に見ると、三大都市圏で14万ha、地方圏で30万haであり、地方圏での農用地のかい廃面積が大きいが、40〜47年の減少率では、三大都市圏が15.7%、地方圏では5.4%となっており、三大都市圏の減少テンポの早いことが分かる。水面、河川、水路は、40年の111万haから47年には112万haとなっておりほとんど変化していない。これは、ダム、水路建設による面積増加があったものの、地方で干拓等による水面減もあってほぼ相殺されたことによるものである。
 このような自然環境に関連した地目別面積の現状を地域別に見るために、各地域の総面積に占める森林、原野、農用地面積の割合と、人口1人当たりの森林、原野、農用地面積を見てみよう。第1-6図のように、各地域の森林、原野、農用地面積の割合は、関東臨海だけが極端に低い(60%台)が、他の地域においては80%台でそれほど差は見られない。ところが、人口1人当たりの森林、原野、農用地面積は、北海道が飛び抜けて高く(1.313ha)、次いで東北、四国、中国等となっているのに対し、大都市地域はいずれも低く、特に、関東臨海はわずか0.031haとなっている。
(1) 森林
 我が国の森林は国土面積の約3分の2を占め、木材生産のほか、国土の保全、水資源のかん養、自然環境の保全及び形成等の機能を果たしており、特に近年では、自然環境の保全等森林の公益的機能の発揮に対して国民の要請が高まっている。
 自然環境の状況をは握する1つの指標として「植生自然度」が用いられている。これは、植物社会学的な観点から見て、土地の自然性がどの程度残されているかを示すものであり、半面では自然が物理的にどの程度改変され、影響を受けているかを示す指標である。
 森林について、48年度に環境庁が実施した「自然環境保全調査」により植生自然度の分布を見ると第1-7表のとおりである。全国については、まず、人為のほとんど加わっていない自然草原や自然林など植生自然度?、?の地域が国土の22.8%を占めている。これに植生自然度?、?の二次林、同?の植林とを加えると、ほぼ森林面積になるが、その国土に対する割合は69.1%で、現況の森林面積の比率にほぼ等しくなっている。
 地域別に植生自然度を比較すると、植生自然度?及び?の比率の高い地域は北海道(61.7%)が飛び抜けて高く、以下、沖縄(35.8%)、北陸(19.7%)、東北(18.2%)、となっている。総じて自然性の高い森林は、北海道、東北、北陸、沖縄等我が国の北と南に偏在していることが分かる。


(2) 原野
 原野の実態を見ると、47年現在で以下のような状況にある。まず、釧路湿原、サロベツ原野などのツルヨシ群落、オギ、ヨシクラスの植生からなる湿原を中心とした低層湿原が12万haある。次に、隆起サンゴ礁植生、砂丘植生及び中高層湿原など、地域的特性を有する草地等が4.5万haある。以上の原野はいずれも特異でしかも貴重な植生であり、その自然環境を保全していくことが、特に必要なものである。更に、ササ草原17万ha、ススキ草原20万ha、シバ草原2.5万haがある。ササ草原は北海道、ススキ及びシバ草原は本州以南に主として分布している。原野は、森林と違って存在する場所が偏在しており、56万haの55%に当たる31万haが北海道にあり、次いで岩手県(4.9万ha)、秋田県(4.4万ha)、沖縄県(2.9万ha)、青森県(2.6万ha)等の面積が大きい。
(3) 農用地
 47年における農用地面積は、599万haで国土の16%を占めている。この農用地は、本来、食糧生産のため利用されているものであるが、その緑地空間としての効用を考えると、環境保全上の意義も大きいと思われる。特に、森林、原野の面積が少なく、人口の集中している大都市地域では生産緑地が果たす役割は大きい。今、大都市地域における各都府県ごとの都市化比率(総人口に対するDID人口の比率)と、農用地面積比率とを比較してみると、第1-8図のように、都市化が進むにつれて農用地面積の比率は低下していくが、東京、大阪、神奈川、京都、兵庫の都府県においても、当該地域面積の10%程度を占める農用地が存在している。
 前述のように、農用地面積は急激な減少を見たが、これは、拡張もやや減ってきているものの、かい廃が近年では年平均10万haと非常に大きな面積になっていることによるものである。かい廃を原因別に見ると「植林、その他」という非都市的利用が全体の4〜5割で一番大きいシェアを占めているが、宅地や工場用地への転用も大きく、年によって変動はあるものの、おおむね宅地が3割、工場用地が1割を占めている。


(4) 海岸
 我が国は四方海に囲まれた島国であるため、海岸は、多くの人々に自然の景観を提供し、潤いを与えてきたが、同時に漁業の場として、また港湾等運輸交通上の場として、更に、埋立て・干拓により臨海工業用地及び都市再開発用地などとして利用されてきた。我が国の海岸線は約33,000km(建設省全国海岸域現況調査による)に及ぶが、このうち約3割にあたる9,800kmが九州にあり、次いで中国が3,900km、東北が3,300km、四国が3,200kmとなっている。これに対し、大都市地域である関東臨海、近畿臨海、東海は合計で5,300kmにすぎない。大都市地域における海岸線は、埋立てにより自然のままに残された海岸線は少なくなってきている。このため、最近では人工の砂浜を造成して白砂の海水浴場を復元したり、海辺生物のために人工の干潟を造ったりする計画が、北は青森県から南は鹿児島県まで全国各地で進められており、現在、建設中及び計画中のものが18か所に及び、このうち大都市地域(東京都、千葉県、大阪府、和歌山県、兵庫県)では9か所となっている。
 以上のように、自然のまま残された地域は、特に大都市地域において非常に希少なものとなりつつある一方、国民の自然との接触を求める欲求は、自然のまま残された地域が減少していくことに伴いますます強まりを見せ、また、いったん破壊された自然は、その復元に長い年月がかかり、あるいは全く復元できない場合もあることから、自然環境保全のための対策を今後一層充実させていくことが要請される。

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