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第2節 

2 総合研究プロジェクトの推進

(1)光化学スモッグ等都市型大気複合汚染防止に関する総合研究
 光化学スモッグは、発生頻度がおおむね年々増加傾向にあるばかりでなく、発生地域が拡大し、多数の住民が被害を受けている。この総合研究においては、大気汚染物質排出防止技術、大気複合汚染が生体に及ぼす影響、大気汚染計測技術等の研究を総合的に推進している。
ア 排出防止技術開発については、通商産業省において次のような各種の研究開発が進められた。すなわち、NOx生成抑制技術としては、ボイラー等の燃焼装置について、二段燃焼法及び排ガス再循環法の組合せによる抑制効果を確認するとともに、早期にその実用化を図るべく、これらの方法による抑制効果のテストプラント試験を委託実施した。また、脱硝技術としては、SOx等による被毒を受けにくい還元触媒を開発し、これを用いて最も実用化の可能性の高いアンモニアによる接触還元法について、ボイラー排ガスを対象としたテストプラントによる試験及びコークス炉排ガスを対象とした実ガス試験をそれぞれ委託実施するとともに、金属酸化物系のNOx酸化触媒、NOを吸収して金属錯体を生成する液相吸収剤等の探索を引き続き進め、一部研究を委託した。一方、ガラス工業で用いられるガラス溶融炉から発生するNOxを低減するため、燃焼、燃焼方式及び溶融方法の改良による低NOxガラス溶融炉の開発に着手した。
 なお、炭化水素排出防止技術としては、これを吸収除去する低コストのセラミック吸着剤を開発するため、各種セラミック吸着剤の吸着能を検討した。
イ 生体に及ぼす影響の研究については、厚生省において、低濃度オゾンと各種エアロゾルとの複合暴露による肺機能変化を動物実験により追跡し、光化学スモッグ発生時のエアロゾルの役割を究明した。
ウ 大気汚染計測技術の開発については、通商産業省において、流量混合方式による標準ガス発生装置の試作、大気汚染度と大気電気伝導度との相互関係の究明、ばいじん中の重金属分析法の改良等が進められた。また、労働省において、光化学スモッグ発生中に生成する酸性粒子状物質の捕集法を開発するとともに、その自動測定器を試作した。更に、郵政省においては、大気逆転層の遠隔測定方法として、エコー強度測定が可能な移動式音波レーダーの基本構成部分の試作を行った。
 また、大気汚染気象については、運輸省において、汚染発生源の活動モデルを作成してこれに対応した拡散係数を求め、都市大気汚染の移流拡散について既存の気象資料の解析を行うとともに、ケーススタディにより汚染シミュレーションモデルの改良を行った。
(2) 無公害自動車の開発に関する総合研究
 自動車は、一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物等の発生源であるとともに、騒音及び振動の発生源でもある。この総合研究においては、自動車排出ガス低減のための基礎的技術開発、排出ガス測定技術、騒音防止技術等の研究を総合的に推進している。
ア 排出ガス低減の基礎的技術開発については、通商産業省において、低公害ガソリン機関として最も有望な層状給気機関について、4サイクルでは単室式側弁式機関、2サイクルでは頭上弁排気方式について、それぞれ排気、動力特性の評価を行い、ディーゼル機関については、排ガス再循環等によるセミクローズド化を図って排気清浄効果を確認した。更に、ガソリンの無鉛化に備えて炭化水素組成の異なる各種の無鉛ガソリンと排ガス組成との関係を調べた。
イ 排出ガス浄化装置については、通商産業省において、活性及び熱安定性の優れたAg-Cu-Cr系の酸化触媒を開発し、これを用いた排ガス浄化装置について、台上試験により、耐久試験を実施して触媒の劣化原因を解明するとともに、NOx除去のための還元触媒について調べた。また、運輸省においては、触媒式排ガス浄化装置について一般性能、劣化要因、安全性、2次公害等の詳細な要因分析を行い、その迅速試験方法を含めた耐久試験方法を開発した。
ウ 排ガス測定技術としては、運輸省において、ディーゼル機関及び重量車用ガソリン機関の排出重量法による排出ガス測定方法を、始動条件及び高速領域を含めて開発するとともに、ディーゼル機関の排気煙濃度と排出重量との関連を明らかにした。
エ 騒音防止技術については、運輸省において、自動車騒音の音源別(原動機、排気及びタイヤ)寄与度を解析し、騒音防止対策の基礎資料を得た。
(3) PCB等新汚染物質の評価並びに汚染防止に関する総合研究
 PCBのように難分解性、蓄積性の汚染物質は、一度環境中に放出されると自然の浄化力によって以前のような清浄な環境の回復を期待することは困難であり、しかも生物濃縮、食物連鎖を通じて人体に取り込まれた結果予想もできない健康被害を引き起こすおそれがある。
 この総合研究においては、PCBの人体影響や有機塩素系農薬、水銀との相乗作用を中心に総合的に研究を推進している。
ア PCBの人体影響の解明については、厚生省においてPCBと有機性塩素化合物との相関性を明らかにするため国立病院等での死亡者を対象に主要臓器中のPCB・BHC、DDT等の蓄積濃度について地域、性、年齢との関連性を追求した。また、低濃度長期暴露による人体影響を、DDTとの複合作用及び水銀との相乗作用の面から動物実験を行った。
 PCBの母子の健康に及ぼす影響については、PCBの蓄積状況をは握するとともに動物を用いて母子間の移行状況をは握した。
 また、労働省において血液中の濃度と体内蓄積性の関連性を解明するため、経口、吸入の投与による急性、亜急性動物実験を実施した。
イ 各種排水や土壌、汚でいの凝集処理に用いられているアクリルアミド等の高分子凝集剤の人体影響の解明については、厚生省において、低濃度のアクリルアミドの分析方法及び動物実験による慢性毒性、蓄積性についての実験を行った。
ウ PCB、重金属の毒性発現を抑制する条件を明らかにするため、厚生省においてPCBの解毒とビタミンAの関係について、動物実験を行い、ビタミンAの果たす役割について明らかにするとともに、胎児などの身体、精神発育に阻害をもたらす水銀化合物に対するタンパク質の果たす役割の解明に着手した。
エ このほか、今後予想される化学的に安定で蓄積性のある新しい化学物質を事前に予測し、評価するシステムの開発を引き続き実施するとともに、ポリビニールアルコール、フタル酸エステルのような有機化成品を対象として、好気性、嫌気性条件下における生物分解性を化学構造との関連性から追求した。また、高層建築物や自動車などに使用されているアスベストの環境汚染が憂慮されるので、我が国の実情に即した計測方法の確立に着手した。
(4)排水処理の高度化に関する総合研究
 
 排水の処理においては、汚濁物質を効率良く除去するとともに、資源の再利用の観点から、排水の用水化、有用物質の回収再利用について十分考慮する必要がある。また、排水の高度処理技術は、多量のエネルギーを消費し、最終廃棄物も多量に生成するので極力少量のエネルギー消費で効率的に高度の質を確保する方向の新しい技術開発が一層望まれている。この総合研究においては、産業系排水及び生活系排水に含有する有機物質及び有害物質の処理を中心に排水処理の高度化に関する研究を総合的に推進している。
ア 有機性排水の処理法については、通商産業省において下水の活性汚でい処理法におけるバルキング現象の防止技術の開発とともに下水の2次処理水を対象としてオゾン処理を中心としたプラントを建設し、水道法の水質基準に適合する水質を得ることを目標とした処理技術の開発を引き続き実施した。また、逆浸透圧法を用いたパルプ排水、めっき廃水等の処理技術を確立するため、浸透膜の分離性や耐久性試験を実施するとともに、低半透性膜によるパルプ廃水の処理について試験を行った。更に、パルプの漂白工程の排水は、有害で汚濁の度合いも大きく、技術的にも経済的にも処理が困難とされているので、従来使用されていた塩素に換えてオゾンを使用する漂白処理法を開発する技術に着手した。更に、水銀含有排水を対象とした徴生物による活性スラッジ法の開発を引き続き実施するとともに、窒素化合物の含有量が比較的多いコークス炉ガス洗浄排水の脱窒素技術の開発に着手した。厚生省においては、高冷地等自然地域における小規模施設の処理技術の開発を新たに着手した。
イ 重金属含有排水の処理については、通商産業省において、アマルガム法、電解法、吸着法、浮選処理法等による重金属含有排水の処理技術の開発を引き続き実施するとともに、樹木、海藻、獣毛などの動植物天然有機物を 利用した捕集剤による処理法の開発を行った。また、休廃止金属鉱山から排出される坑水をその発生機構及び坑道しや断法による抑制手法を検討するとともに、休廃止石炭鉱山の坑水をPHの自動制御を中心とした自動処理技術の開発に着手した。建設省においてはカドミウム、鉛、水銀等の各種重金属が混入した下水の生物処理系における重金属類の収支、生物処理に与える影響を究明した。
(5) 瀬戸内海等沿岸海域の汚染防止に関する総合研究
 我が国の沿岸海域は工場排水、生活排水、船舶からの廃油等によって自然の浄化能力を上回る汚濁負荷により著しく汚染が進んでおり、瀬戸内海、東京湾、伊勢湾等の沿岸海域等のように工業地帯を背後に控えた内湾や港湾周辺においては、発生源における汚濁物質の処理のみでは、もはや早急に汚染された海洋環境を回復することは困難な状態にある。
 この総合研究においては、海洋環境の抜本的な対策を講じるため、汚濁現象及び汚染の海洋生物に与える影響を解明し、汚濁制御、汚濁監視及び汚濁浄化のための技術開発を推進している。
ア 汚濁現象の解明については、通商産業省において海域の流れの構造と拡散現象等広域の汚濁現象の解明のためのリモートセンシングによる観測法の研究を引き続き実施した。また、瀬戸内海大型水理模型による潮汐、流況の相似性、汚染質の拡散の研究に加え、拡散現象の数値モデル化に着手した。
 更に、CODの50%以上を占めるといわれる懸濁物質の沿岸海洋中における変質過程、鉛直輸送、堆積過程等に関する基礎的現象とその相互関連の解明に着手した。
イ 海洋生物に与える影響については、農林省において、原子力発電所等から排出される温排水が海洋生物に与える影響を、また、運輸省において、流出油を処理する際に使用される市販中の油処理剤が海洋生物に与える影響をヒメダカ、スケレトネマ等を用いて引き続き解明した。
ウ 汚濁制御のための技術開発については、通商産業省において臨海型コンビナートの排水を対象に、監視、処理、管理を組み合わせることにより、3次処理を考慮した総合的な排水自動管理システムの確立に着手した。
エ 汚濁監視のための技術開発については、通商産業省において、沿岸海域の汚染を自動的に監視するため、海水中の重金属濃度を自動的に濃縮測定し記録するモニターステーションの開発及びレーザー光によるラマン散乱を利用した海洋汚濁油の遠隔監視測定システムの開発に着手した。
オ 汚濁浄化技術の開発については、運輸省、建設省、通商産業省において、PCB、重金属等を含有するヘドロのしゅんせつ技術、タンパク質を用いた流出油のボール化技術、大量流出油の回収可能な油水吸引装置の開発を引き続き実施した。また、環境庁においては、前記3省の協力を得て、沿岸海域の汚染を監視、制御、処理、回生の面から総合一本化した汚染の浄化システムの設計研究に着手した。
(6) 廃棄物の処理と資源化技術に関する総合研究
 近年、廃棄物の量の増大、質の多様化、処理施設の立地難等が生じ、廃棄物処理は限界に達している。これらの情勢に対処するため、廃棄物を適切かつ無害に処理し、更には、積極的に再利用する等の資源化技術の開発を推進するため、総合的に研究を推進している。
ア 廃棄物埋立地の実態は握と2次公害の防止を図るため、厚生省において、既存の廃棄物埋立地の実態を調査分析し、2次汚染の防止技術を開発し、廃棄物の好気性分解を促進する埋立技術の開発を行うとともに、コンクリート固型化の標準化に関する研究を行った。
イ スラッジの処理と利用を図るための技術開発については、通商産業省において、めっき、炭鉱廃水、採石廃水、赤泥の各スラッジの性状やろ過、熱間、冷凍等の脱水法について研究した。また、金属鉱山、採石、赤泥等のスラッジの利用方法として、焼成法、成形法等による軽量骨材、成形固結埋立材等の製造技術の開発を引き続き実施した。
ウ 高分子廃棄物等の処理技術については、通商産業省において、プラスチックについて分解型プラスチックを開発し、分解生成物の毒性試験を行うとともに、プラスチック廃棄物の熱分解及び有効利用方法、燃焼処理技術の開発を進めた。また、間脱アスファルト、廃タイヤ、プラスチック等の高分子廃棄物を水素添加及び熱によって分解し、有用化学原料や活性炭等とする技術の開発を引き続き行った。一方、労働省においては、大気圧空気中では燃焼困難なPCB等を高圧空気又は酸素中で焼却する技術の開発に着手した。
エ 現行の廃棄物処理システムに代わる新しいシステムを開発するため、環境庁において、処理施設用地の立地難に対処する方策として海上に用地を求めた場合の収集輸送処理プラント、海上構造物等の概念設計を行った。また、海上処理が環境に及ぼす影響を予測するための事前調査に着手した。
(7) 環境計画のシステム的手法の確立に関する総合研究
 環境問題は、社会、経済、生産機構等が多様化、複雑化するとともに、顕在化してきたものであり、その原因、影響、それらの因果関係等いずれの面においても関連する因子が広範囲、かつ多岐にわたっている。このような情報の収集、分析、評価、影響予測等を効果的に行うためには、システム的手法を導入することが不可欠であり、この手法にふさわしい対象として、廃棄物処理、都市計画等の問題について総合的に研究を推進した。
ア 厚生省においては豊橋市をモデルとして、廃棄物の減量、再利用のための廃品回収、農民参加による有機質廃棄物を農業土壌に還元する処分管理、汚染物含有廃棄物の背番号化による埋立処分地管理等の前年度までに設計を行った廃棄物処理システムについて、住民及び事業所等の参加を得て社会実験を行い、地域社会の合意形成はいかにあるべきかを検討し、これらの排出、処理、処分の各システムを総合的な情報で管理する総合管理システムの設計を行った。豊橋市においては、このシステムを行政に採用し、実現することを検討中である。
イ 建設省においては、市街地の環境を制御するモデルを開発するため、環境容量構成要素の抽出、分析、汚染発生源の立地、伝達の経路、汚染物質の除去、処理方法等環境制御要素の計量化を行い、その効果を分析するシステム設計を引き続き実施した。また、市街地区の建築群、道路の配置と汚染質の性状との関係及び道路環境基準の要因となる道路交通、構造、沿道状況と交通騒音、排出ガス、振動日照阻害等の関係について研究した。
ウ このほか、通商産業省において、風洞・水路実験、現地調査、理論解析等による汚染物質の拡散予測の研究を引き続き実施するとともに、警察庁においては、自動車交通、道路構造、沿道状況等と大気汚染、騒音、振動等との関係を、また、文部省においては、大気汚染データの取り方とその解析法について研究を行った。
(8) 自然環境の管理及び保全に関する基礎的技術開発のための総合研究
 自然環境中への汚染物質の排出や開発行為による環境の悪化が、生物に与える影響、汚染物質の生態系内における循環・蓄積等の解明及び野生鳥獣の現況、生態のは握等を行い、自然環境の管理及び保全のための基礎的技術を開発するため総合的に研究を推進している。
ア 騒音影響の解明については、文部省において、ショウジョウバエを用い生理行動に与える影響、感受性について遺伝的影響の解明を行った。
イ 農林水産生態系における環境汚染物質による影響の解明については、農林省において生物環境、生態系の変化に伴う物質循環とその浄化機能を土壌微生物の生態と再循環能力及び水域汚染と物質循環機構の解明を行うとともに、環境汚染測定指標として、農林水産生物を活用するため、耐性限界と感受性、環境変化に伴う生物相の変化と指標性及び指標生物の管理、利用法等の研究を総合的に進めた。野生鳥獣の保護を図るための体系的手法を開発するため、農林省においては、野生鳥獣の生息数の変化を明確にするために有効なセンサス法、狩猟鳥類の年齢は握法の研究、鳥類の生態、生息環境のは握に必要な摂取量の計量化の研究を新たに実施した。
ウ 発電所等の温排水による海域の熱汚染による生物影響を解明するため、農林省において、福井県浦底湾及び三重県尾鷲湾で、温排水による水温の変化が付着生物、卵、椎子、プランクトン、底生生物等の生物相に与える影響並びに水温の恒常的高温や急激な変化が水産生物の生存、成長、繁殖等に与える影響等について引き続き研究を行い、また、温排水が漁業資源に与える影響を調べるために主要資源の動態調査に着手した。

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