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第2節 

2 総量規制の導入

(1) 大気汚染防止法の改正の経緯
 我が国の大気の汚染の状況は、「大気汚染防止法」に基づく排出規制の強化などにより、逐次改善の傾向にあるものの、「公害対策基本法」に基づき人の健康を保護する上で維持されることが望ましい基準として定められている環境基準に照らして見ると現在なお深刻な状況にあるといえる。
 「大気汚染防止法」に基づく排出規制は、このような大気の汚染の状況を改善するために中心的な役割を果たすものであるが、この法律に基づく従来の規制方式は、汚染物質の濃度による規制又は排出口の高さに応じた規制であって地域の排出総量を抑えるには必ずしも十分でなく、一部の地域においては、このような規制のみによっては環境基準の確保が困難な状況に立ち至っていると考えられた。
 このような現行の規制方式の不十分な点を補い、硫黄酸化物等による大気汚染の早急な改善を図り、国民の建康を保護するため、49年6月、一定範囲の地域における大気汚染物質の排出総量の許容限度を科学的に算定し、これ以下に排出量を抑えるよう個別発生源の規制を行ういわゆる総量規制方式を導入することを主な内容とする「大気汚染防止法の一部を改正する法律」が制定され、同年11月30日から施行された。
(2) 総量規制の内容
 総量規制を行うに当たっては、第1に、工場又は事業場が集合している地域で、現行の規制方式のみによっては環境基準の確保が困難であると認められる地域として、硫黄酸化物その他の政令で定めるばい煙(指定ばい煙)ごとに政令で指定する地域(指定地域)について、都道府県知事が、当該指定地域における事業活動その他の人の活動に伴って排出されるばい煙の総量を環境基準に照らし科学的に算定される総量までに削減させることを目途とした指定ばい煙総量削減計画(以下「計画」という。)を作成することとしている。
 なお、総量規制の指定ばい煙は硫黄酸化物とし、その指定地域としては、硫黄酸化物に係る排出基準(K値)が厳しいランクに定められている地域のうち、千葉市・市原市等、東京都特別区等、横浜市・川崎市等、富士市等、名古屋市・東海市等、半田市・碧南市等、四日市市等、大阪市・堺市等、神戸市・尼崎市等、倉敷市(水島地区)及び北九州市等の11地域を指定している。
 第2に、都道府県知事は、計画に基づき、ばい煙を排出している一定規模以上の工場又は事業場(特定工場等)が遵守すべき総量規制基準を定めることとされている。硫黄酸化物に係る特定工場等は、工場又は事業場における重油換算の原料及び燃料使用量が毎時0.1kリットル以上1.Okリットル以下の範囲内で都道府県知事が定める使用量以上の量を使用する工場又は事業場とされている。また、新設又は増設の特定工場等については特別の総量規制基準を定めることができることとされている。
 総量規制基準は、工場又は事業場単位に定められる基準であり、その設定方式は、特定工場等に設置されているすべてのばい煙発生施設における原料及び燃料の使用量を基礎として工場又は事業場の規模を勘案した方式あるいは特定工場等のすべてのばい煙発生施設から排出される指定ばい煙による最大重合地上濃度を一定値以下に抑える方式によることとされている。
 第3に、都道府県知事は、硫黄酸化物に係る指定地域において、硫黄酸化物を排出している特定工場等以外の工場又は事業場が遵守すべき燃料使用基準を定めることとされている。これは、これらの工場又は事業場も硫黄酸化物による大気の汚染の原因となっており、低硫黄燃料の使用を義務付けることが必要であると考えられたからである。燃料使用基準は、環境庁長官が定める基準に従って、都道府県知事が定めることとされているものである。この燃料使用基準は、指定地域における硫黄酸化物の排出総量を削減する手段として総量規制基準に次ぐ役割を果たすものである。
 このようにして定められた総量規制基準等の遵守を担保するため、総量規制基準に適合しない指定ばい煙の排出を禁止し、これに違反すると直ちに罰則を科することとしている。また総量規制基準違反を未然に防止するため、都道府県知事の計画変更命令等及び改善命令等の措置が定められているほか、燃料使用基準についても適合勧告や命令等の措置が定められている。
(3) 総量規制の実施
 49年度に指定した11地域については、現在計画の作成及びそれに基づく基準の設定のための作業が各都府県において行われているので、その作業がまとまり次第、総量規制基準等による規制の実施が逐次行われていくこととなる。

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