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第1節 

3 被害救済費用

 最後に、被害救済費用の負担の現状についてみよう。
 環境汚染によって生ずる被害は、健康被害と物的被害に分けられる。健康被害に関する補償制度については、40年に四日市市で設けられたものが最初であるが、国においては、公害対策基本法第20条「政府は公害に係る被害に関する救済の円滑な実施を図るための制度を確立するため、必要な措置を講じなければならない。」との規定に基づき、44年に国の統一的制度として、「公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法」が制定され、医療費等の給付が行われてきたが、48年には同法を抜本的に拡充強化した「公害健康被害補渡法」が成立し、健康被害の補償は給付の範囲、内容ともに一段と拡充されるとともに、補償給付については、全額、汚染原因物質を排出する事業者に負担させることとなった。
 公害健康被害補償制度は、被害者の円滑かつ迅速な救済を図ることを目的として、本来的にはその原因者と被害者との間の民事上の損害賠償として処理されるものにつき制度的に解決を図ろうとするものであり、基本的には民事責任を踏まえた被害の補償制度として構成されている。その際特に問題となったのは因果関係の問題であるが、これについては諸科学分野のすべてにおいて因果関係が厳密に立証されなくとも、汚染のレベルと疾病の発現との関係を疫学的手法によって確率論的に究明し、その因果関係について蓋然性があれば足りるとする最近の判例等を基礎として考えられている。特に大気系疾病にあっては、水銀、カドミウム等による特異的疾患と異なり、個々の原因者の汚染物質排出行為と大気の汚染又は疾病との因果関係を正確に証明することは非常に困難であることにかんがみ、汚染物質の総排出量に対する個々の排出量をもって汚染の寄与度と見なすこととしている。このような考え方の導入によって、気管支ぜん息等非特異的疾患に係る被害の補償に要する費用は汚染物質の排出量に応じて汚染者に負担させるべく汚染負荷量賦課金を徴収することとした訳である.
 一方、物的被害については汚染原困者が特定でき、因果関係が明確な場合には被害者と原因者の折衝(私的な交渉、公害等調整委員会等によるあっせん、調停、仲裁等)や訴訟によって汚染者による補償等が行なわれている。
 こうした折衝によって補償が行われた主な例としては、銅その他の重金属等による渡良瀬川流域における農作物等の被害に対する補償や、タンカー等の船舶の衝突や座礁による油の流出によって被害を受けた漁業者等に対する補償等がある。
 なお、こうした折衝による補償以外では、赤潮による漁業被害救済について、従来の漁業共済制度の中に養殖共済赤潮特約の制度が49年5月から設けられ、共済掛金について国が3分の2、地方公共団体が3分の1を負担しているほか、水銀、PCB等により被害を受けた漁業者、鮮魚商に対する融資について利子補給等に要する経費に対し公費負担が行われている。

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